re-birth ③(終)「僕が、あんたを?」
サギョウはまた笑った。だが今度は、けらけらとはしていなかった。
無理矢理な、口の端だけを引き上げた、いびつな笑みだった。
「あんたは僕より、たくさんのものを持っているのに?」
喉の締まった嗄れた声、それは猛毒の霧。
「お前には、そう見えるのだな」
俯いた顔を上げさせることはしない。
「だが俺には、俺の持ち得ないものを持っているお前が、眩しく見える」
俺の肩を掴むサギョウの手は震えている、それでも、決して、離れていない。
「変わる必要は無い、変えようなどと思ってもいない、お前はお前の、そのままでいい」
敷布に滴が垂れた。
「俺はもう、お前を抱かない、それでも──」
ぼたぼたと落ちる涙は、サギョウのものか、それとも──
「お前が他の誰の腕に収まろうとも、俺はお前を愛している」
滑稽なほど震えている、俺の声。
それを、かき消したのは
「ふっ……ざけんなよぉぉぉ」
サギョウの叫びだった。
「好きでも無い奴に、あんた以外に、誰が……っ!」
痛む鼓膜、押し倒された衝撃で揺らぐ視界。
「っ、っざけんな、ふざけんなよ、こっちがどんだけの想いで!あんたに!……っ、僕は、僕はなぁ……っ!」
それでも、サギョウの顔ははっきりと見えた。
今まで見たことのない、顔が。
「……ああ、よかった」
囈言のように呟いた俺を、サギョウは泣きながら見つめていた。
「また、近づけた」
鼻声。満面の笑み。それがサギョウのまんまるな瞳に映っている。
サギョウは、俺を見ている。
「そうして、全部教えてくれ、それで俺は、救われる」
壁を取り払え。お前の中心を囲む、全ての壁を。
俺はただ、お前が好きなんだ、それだけなんだよ。
「俺はただ、お前が好きなんだ、それだけなんだよ」
だから触れたい。何よりも、お前の、中心に。
サギョウの涙が俺の頬に落ちた。
サギョウはただ、泣いている。
「サギョウ」
呼んだ。
サギョウは、一言、ごめんなさい、と、言った。
俺は抱きしめながら、首を振った。
「いいんだ、そのままで、そのままのサギョウが、俺にとって、愛おしい」
堰を切ったような嗚咽すら喜びで、呪詛のような己に対する罵倒までもサギョウそのもので、吐き出される全てが恋しい。
「お前の全部が、俺にとっては、宝物だ」
やがて泣き疲れたのか、虚な目で笑うサギョウの瞳は
明るく、きらきらと、輝いていた。
それは眩しい、俺の宝物。