年の功 サギョウの部屋には布団がある。
それはサギョウ自身が眠るベッドとは別に、だ。
知ったのは当たり前だが初めて泊まったときだ。
ある日の仕事の後に『たまにはどうだ?』と呑みに誘って、どういうわけであったかは残念ならが失念してしまったのだが、『ウチで続き呑みしましょう!』と誘われるがままに酒を買い込んでから上がり込み、翌日が揃って非番だったのも手伝ってかいつの間にやら深酒になった。
『こんなんなって帰るのだるいでしょ? 泊まってきゃいいんですよ!』
と、真っ赤な顔でへにゃへにゃと笑っているサギョウに、
『ならばそうさせてもらうかぁ! 床を借りるぞぉ⁉︎』
と、返したのは、何故か覚えている。
そして、
『っしゃぁ! そしたらね〜、いまね〜布団敷きますんでね〜、ちょおっとぉ待ってくださいよぉ〜?』
と言いながらふらふらと立ち上がったサギョウに、
『なんで布団があるんだ?』
と首を傾げたのも、覚えている。
ひとりで暮らすには充分だがそれよりも多くとなれば当然手狭な寮の一室。その中でそれなりの割合を占めているベッドは当然シングル。テーブルの類を移動させれば確かにもうひとりくらい横になれるスペースはあるが、それにしても何故? という俺の疑問に、サギョウは
『いやねぇ、母親がねぇ、買って置いてったんですよ布団一式! 曰く、「あんたに何かあったら駆けつけられるのは私だろうしともすれば泊まり込みかもしれないから万が一のために置いときなさいー!」っつって!』
と、げらげらと笑いながら備え付けのクローゼットから大きな袋を引っ張り出した。
それは店頭で売られていたままなのであろうパッケージで、値札も付いたままで、【すぐに使える布団セット】と書かれていた。
理由を聞いて、すぅっと、少しではあろうが、酔いが覚めたのがこの流れだけは覚えていた原因なのだろう。
俺は咄嗟に
『ならば俺が使うわけにはいかない!』
と言った。
御母堂の心遣い、それを荒らして良い道理は俺には無かろうと。
だが、サギョウは──
『いいんですよ、だってうちのお袋、
「いい人ができたときにもあった方がいいだろうしねぇ」
なぁんて、言ってたし!』
と、返して、来ながら──
また、笑った。
今度は、どこか、面映そうに。
結局、俺はその日、というか、それ以降、サギョウの部屋に泊まるときにはその布団で眠るようになった、上に──
『このベッド、結構軋むんですよね』
と、互いの想いを伝え合って更にサギョウと深い仲になるときに告げられて、からは──
専らその布団の世話になって、しまって、いる。