好きなのは、同じ ふたりで居るときに、ふと思い立って、何も言わずにサギョウに抱きついてみる。
するとサギョウは俺を抱き返してくれる、同じように何も言わずに。
俺はそれが堪らなく安心する。
だからしばしばそうして甘えてしまっていた、サギョウも同じように、安らいでくれているのだろうと思っていたから。
それなのに。
あるときまた抱きついて、慣れた匂いと温もりに溺れて、我知らずのうちに
「安心する」
と呟いたときに、
「そうですか、僕はむしろ逆で、いつも緊張してますけどね」
と返されて、
「は」
と声を荒げてしまった。
咄嗟に身体を離して見つめた瞳は、いつもと何ら変わりなく見える、気怠そうな半眼。
「そうだった、のか?」
「そうですけど?」
声も、抑揚の少ない普段どおりのそれに聞こえる。なのに、緊張?
顔を顰めた俺。
それに倣うようにサギョウも眉間に皺を寄せて、そして──首を傾げた。
「もういいんですか?」
招くように広げられた両腕。
「いや……だってお前……嫌、なんだろう?」
「……は? 緊張するってだけで嫌だなんて言ってませんけど?」
自分の中で整合性を成さない幾つもの事象に混乱ここに極まれり。
だがそんな俺を知ってか知らずか、サギョウは眉を顰めたまま、笑った。
「好きな相手がこんな近くに居たら、多少の緊張くらいするでしょって」
それは相変わらずの、事もなげな口調。
「ほら、いらっしゃい」
言葉とは裏腹に、俺が向かうより早く抱きしめられた。
慣れた匂いと温もり、それは変わらない、だが──
「気にしないで、いつでもどうぞ」
そう囁いたサギョウの声がさっきまでとは違ってとても穏やかで、だが頬に触れた鼓動が少し早いのを、俺は、今更ながらに知って、
悪いとは思いながらも、やっぱり心底、安堵した。