どうか神様 修道院付属学校に入学してはじめての夜、ディオンは寮の六人部屋の寝室で同室の同い年のクラスメイトから質問攻めにあっていた。
「すごいね」
「これなら将来監督生になれるかも」
「さすがバハムートのドミナント、だね」
ディオンはクラスメイトの勢いに押されながらも目を細めていた。クラスメイトの瞳はキラキラと輝いて、ディオンを尊敬の眼差しで見つめる。しかし僕の心はぐちゃぐちゃと黒く濁り、晴れなかった。
入学してすぐ、僕たちは教室で学力テストを受け、外へ出れば運動をして身体能力を見られ……、そこでディオンは皆から注目の的となった。ディオンの活躍を見た先生はディオンのことを「文武両道の天才」と褒めた。ディオンはたしかにすごかった。筆記は満点、体育も完璧に身体を動かしてみせた。先生はこれなら将来戦に行くことになっても活躍できるとおっしゃっていた。
戦……ディオンは闘うの 誰のために 何のために……。
◆◇◆◇
しんと静まり返った寝室。同室の子の寝息が聞こえる真夜中、ふと僕は目を覚ました。部屋の中は月明かりが窓から入ってきて少しだけ明るかった。
そのとき、ひっくひっくと泣き声が聞こえた。僕はハッとして隣のベッドへ顔を向ける。そこにはディオンが掛布団を頭までかぶり、ふるふると震えていた。
僕は手を伸ばし、ディオンの掛布団の中へ手を侵入させ、ディオンの手を握った。ディオンがびくりと身体を緊張させて、掛布団から頭を出し、僕の方を見た。ディオンの琥珀色の瞳が潤んでいる。
「テランス……」
「ディオン……」
「私……頑張れた 父上のために、頑張れたか」
僕の胸がぎゅっとつぶされたかのように痛くなった。ディオンは頑張っている。こんなに頑張っているのに……。ディオンの父……シルヴェストル様はどうしてあんなにディオンに厳しいのだろう。そしてそんなシルヴェストル様への愛を欲しがるディオンに、僕はどうしようもなく苦しくなった。
僕はディオンの手をぎゅっと強く握り、ディオンのほろほろと流れる涙を見ながら、口を開く。
「ディオン、ディオンは頑張ってるよ。でも……」
「……でも」
僕はすこし、言いよどんで……、それでもディオンに伝えようとした。
「……ディオンだけ何もかも背負わないで。僕が……僕がいるから……どうか、頼って……」
そう言葉にすると、僕も視界がぼやけてきた。ディオンの苦しみが流れ込んできたかのように。僕も涙を流し、呼吸が上手くできなくなってきた。ディオンは慌ててベッドから降りて、僕のベッドに入り込んでくる。
「…… 駄目だよディオン…… 自分のベッドに戻って……」
「テランス……すまない……」
そう言ってディオンは涙を拭っていた僕の手を取り、ちゅっと口づけてきた。僕は驚き、言葉を失ってしまう。
「いつも、ありがとう……テランス……」
「ディオン……」
だめ。だめだよディオン……。僕……僕、あなたのことが……。
「今日は一緒に……傍に、寝てもいいか……」
「ディオン……」
グエリゴール様……どうか、ディオンをお守りください。
僕はディオンをそっと抱きしめて目をつぶった。しばらくしてディオンも安心したのか寝息が聞こえはじめてきた。僕はそっとディオンの髪に口づけを落とす。
グエリゴール様、ディオンが、どうか幸せになりますように。
僕はそう心の中で祈りながら、自分のディオンへの想いに蓋をして気づかれないように、この跳ねる鼓動がディオンに聞こえませんように、とそっと瞳を閉じた。