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    katakuriko894

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    katakuriko894

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    大陸に渡った竜三の話。
    大陸に渡り大都で武功を挙げた竜三が七年後に故郷に戻る話書きました。かっこいい竜三が書きたいだけでした。

    #ツシマSS
    tsushimaSs

    【隻龍と呼ばれた男】


    境井仁は、目の前に上陸してきた蒙古の将を見て、その異質さに気がついた。
    他の将兵の鎧とは違う、漆黒に龍を象った意匠、顔を覆う面頬、そして、鞘や拵えは大陸のものだが明らかに日本で作られた太刀。
    重々しい足音が浜に響く。仁が太刀に手をかけると、背後の兵達が気色ばんだ。
    だが漆黒の将が片手を上げてそれを制した。

    「久しぶりだな。仁」

    仁の表情が驚愕に変わる。まさか、そんな。

    「竜三……なのか」

    男が兜と面頬を外した。
    幼い頃から共に過ごして来た、友と呼んだ男。
    そして、信じていた者達を、自分を裏切った男が、其処に居た。その片眼は、戦傷なのか潰れて失われていた。

    「その名の男は死んだ。今の俺は、隻龍(ジーロン)だ」
    「裏切り者め……」

    七年越しに相対した男達は、静かに太刀を抜き放った。



    ──────────


    数百の軍船の群れが帆を風に膨らませて、白波立つ海原を進んでゆく。その内の一艘の船首にて、黒い鎧と毛皮を纏った将が遥か遠くに見えた緑に覆われた島を見つめている。
    男はかつてあの島で生まれ、人生の半分を生きた。
    だが、男は故郷を捨てた。
    そして、唯一無二の友だった男を。

    「七年か」

    久方ぶりに母国の言葉を口にした。そこには何の感情も、感慨も無い。
    失った左眼を黒い眼帯の上から撫ぜる。数年前、南宋への侵攻で敵の矢を受けた。だが怯む事すらせず、左眼に矢を突き立てたまま男は兵を指揮し、地を這う龍の如く敵陣を蹂躙し尽くした。
    その奮迅ぶりを目の当たりにした麾下の女真族の兵達は、畏敬を込めて男を隻龍(ジーロン)と呼んだ。
    男は故郷を捨ててから失うもの等何も無かった。
    いつ己の命が失われようとどうでも良かった。
    だが片目を失い、血塗れで太刀を振るう男を、兵達は畏怖と憧憬が綯い交ぜになったような眼で見つめ、敬意を表した。
    そこで初めて、男は己が居場所を見つけた。
    使い捨て、野良犬と蔑まれていた男が現皇帝クビライに直々に謁見し褒賞を戴く迄となった時、男を侮蔑するものは誰一人として、いなかった。

    「こんなにも小さかったか。この島は」

    力と武勇で奪った広大な江南の地と長江を麾下の兵とともに眺めた時、己の居た世界が如何に小さかったかを思い知らされた。そして七年越しに見た故郷は、あの雄大な大地と比べるとまるで石ころのように小さく見えた。

    『隻龍、先陣の船が浜に着く頃合いです』

    女真族の副官、クワンが言った。
    それに頷き、右手を上げる。

    『帆を畳め。二里まで近づいたら錨を降ろせ』

    渡った時は意味さえ分からなかった大陸の言葉は、既に郷言葉かのように操れるようになった。
    水夫達が忙しなく動き回り、帆が畳まれる。次いで、船体から長い櫂が幾つも伸びて、規則的に動き出す。
    この二百人乗りの軍船も、五百の騎兵も、今までは無かった。あの小さな島で、地を這いつくばる様に生きて、辛うじて得た居場所さえ、失った。
    全ては、かつて友と呼んだ男が招いた事だ。
    憎悪は黒い焔となって、男の心を焼き尽くした。
    大陸に渡り、戦勲の為ならばあらゆる人間を殺した。
    浴びた血は時を経て黒く鋼となり、文字通り男は冷徹で苛烈な黒き龍と化した。
    そして、故郷と呼ぶ地を蹂躙しようとしている今、一片の戸惑いも感傷も男には無かった。
    だが黒き鋼の龍と成った男の視線が、海辺の崖の上を捉えた。兜の下の髭に覆われた唇が笑みの形に歪んだ。

    「生きていたか。仁」

    かつて冥人と呼ばれ畏れられた武者が、真っ直ぐに此方を見据えていた。

    『船を出せ。冥人の首は俺が獲る』
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    katakuriko894

    MOURNING大陸に渡った竜三の話。
    大陸に渡り大都で武功を挙げた竜三が七年後に故郷に戻る話書きました。かっこいい竜三が書きたいだけでした。
    【隻龍と呼ばれた男】


    境井仁は、目の前に上陸してきた蒙古の将を見て、その異質さに気がついた。
    他の将兵の鎧とは違う、漆黒に龍を象った意匠、顔を覆う面頬、そして、鞘や拵えは大陸のものだが明らかに日本で作られた太刀。
    重々しい足音が浜に響く。仁が太刀に手をかけると、背後の兵達が気色ばんだ。
    だが漆黒の将が片手を上げてそれを制した。

    「久しぶりだな。仁」

    仁の表情が驚愕に変わる。まさか、そんな。

    「竜三……なのか」

    男が兜と面頬を外した。
    幼い頃から共に過ごして来た、友と呼んだ男。
    そして、信じていた者達を、自分を裏切った男が、其処に居た。その片眼は、戦傷なのか潰れて失われていた。

    「その名の男は死んだ。今の俺は、隻龍(ジーロン)だ」
    「裏切り者め……」

    七年越しに相対した男達は、静かに太刀を抜き放った。



    ──────────


    数百の軍船の群れが帆を風に膨らませて、白波立つ海原を進んでゆく。その内の一艘の船首にて、黒い鎧と毛皮を纏った将が遥か遠くに見えた緑に覆われた島を見つめている。
    男はかつてあの島で生まれ、人生の半分を生きた。
    だが、男は故郷を捨てた。
    そして、 1496

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