これもまた日常 ――…がっしゃーん。
鼓膜に突然飛び込んで来たガラスの破壊音に、まさか敵対組織からの奇襲か、と思いクウラは慌てて振り返った。
しかし、そこには敵の姿はおろか誰の人影も無く。唯、窓だけが無惨にも木枠の残骸を残して床へと破片を散らしている。
「おいおい…何事だよ」
仕方なく作業を中断し様子を伺いに立ち上がると、窓枠の向こうからひょこりと夕陽色の髪が飛び出して来る。
不運にも、窓の外を確認しようとしたクウラの顎をその頭頂部は捉えることとなり――…
「うおっ?!」
「おお、クウラの大将。大丈夫か?」
見事に顎に炸裂した衝撃に数歩たたらを踏むと、暫く喋れずに痛みに耐えるクウラに、覗いた張本人――ライデンはけろりとした顔で笑っていた。
(いや同じ衝撃アンタの頭にもあっただろ、痛くねぇのかよ)
即座に突っ込んでやりたくなったが、舌を噛む寸前だった顎は痺れたように言葉が出ない。
漸く落ち着いたところで、大きな吐息を付くと改めてライデンへと問い掛ける。
「…何やってんですかライデンさん、窓ぶっ壊れたんですけど」
「ああ、すまん。子供達とサッカーをしていたら自分の蹴ったボールが逸れてな」
ちょっと待て。逸れたボールで窓を破壊するってそんな時まで馬鹿力発揮してんのかアンタ。
内心のクウラの声は当然ライデンに届くことは無く、壊れた窓枠に手を掛けたライデンは、平然とした様子で腕に力を加えると、何事もないかのようにそれを取り外す。
ばき、と鈍い音がして窓枠はあっさりとその役割を終え。建物の外へと立て掛けたライデンは、そのまま窓があった場所に両手足を掛け室内に入り込めば、すたすたと目的のものを探して室内を彷徨う。
「ちょ、窓!てかガラス踏んでる踏んでる!」
「おお、ボールはこんな所まで転がっていたか。機材でも壊してたら一大事だったな」
「いや、窓を破壊してるだけで一大事だよ」
「すまん、大将。子供達が待っている。掃除なら後でやるから」
そのまま、ボールを片手に再び窓から身体を躍らせたライデンは、軽やかな足取りで外へと走って行く。
「ガラスの掃除、後回しに出来る訳ないっしょ…ったく、ここの窓どうしてくれるんだか」
走って行った後ろ姿を、外気がすうすうと出入りする窓の形跡から眺めれば、子供達の姿は随分と遠い。
「…待って。彼処から蹴ったボールで窓を破壊したのかあの人…」
その身体能力に改めて脅威を感じつつ、保護者替わりの元上官を掃除係にでも任命しようと心に誓うクウラだった。
――…無論、結局掃除から窓の修理まで自らがやる羽目になった事は言うまでもない。