変わらない君へ 何時からか、だなんて聞かれたならば答えは単純。自分の目の前に、彼が初めて姿を現した時からだ。
何も知らなかった、知ってはいけない世界で生かされていた自分に『外の世界』を教えてくれた。
多くの犠牲を払いながらも、存在する意味を共に見出してくれた。
――…それが、僕にとってのカバネの存在だ。
『後悔はさせない。早くこの手を取れ』
『君は…僕の事を知っていてそう言うの?』
『勿論だ。お前の事を知らずにこんな真似をするか』
『だったら、尚更…』
『今からお前は、アークの天子なんて紙細工の冠は捨てるんだ。――…名前は?』
『…クオン』
『行くぞ、クオン。道を選べるのはこの瞬間だけだと思え』
伸ばされた手を掴んでしまえば、きっと後戻りは出来なくなる。
僕だけじゃない。カバネ達のこれからも変えてしまう。
そんな予感を感じながらも、僕はその腕に掴まってしまった。
彼の瞳が、余りにも真っ直ぐに僕を捉えて。迷いもなく言葉を紡いで。躊躇いもなく名前を呼んでくれたから。
それからの長い長い時間の中で、彼が自分の言動を悔いているであろう瞬間も幾度となく垣間見て来た。
でも、決してカバネは僕を責めようとはしなかった。『後悔はさせない』と言う言葉を守るかのように。いっそ、心の底から全ての原因となった僕を責め立てれば余程楽な筈なのに。
代わりに訪れたのは、長い長い空白だった。決して切れない繋がりの中で生きる僕らには、至近距離での生活は互いの為にならないと気付き、干渉しない距離を保つ事で関係を維持したのだった。
――…『彼ら』に、出会うまでは。
忘れかけていた感情を、『彼ら』は僕達に思い出させてくれた。
あの日、手を取った瞬間に見た彼の顔を。自信に満ち溢れた僕の『英雄』の姿を。
『彼ら』との僅かなひと時の中で、僕は色鮮やかに思い出したのだった。
…今は未だ、少しだけ一歩を踏み出す事に勇気が要るのかも知れないけれど。
いつかまた、君と共に歩みたいと思うのは、僕の我が儘だろうか。
温かな手を繋いで、君の半歩後ろから背中を見て歩きたいんだ。
ねえ、カバネ。君はいつだって僕にとってはあの日から何ひとつ変わらない。
僕の瞳に映る君の姿は、いつだって同じなんだよ。