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    香月あまね

    『Nemophila』の中の人。
    文字書き。甘いものからシリアス、パロディまで何でも来いの人。ショタ属性。
    未だにダンマカの沼から抜け出せずに、毎日踊り続けています。

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    香月あまね

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    支部に放り込んだワンドロの雰囲気の大元となる『最近書いていたシリアス』の冒頭です
    ロイエさんとシャオくんの出会いから結末までを書きぬこうとしている最中
    長期戦勝負確定の為、ロイエさんがシャオくんに出会う前のシーンまでの公開に留めます
    この先の話の切れ目を探したら相当遠かった……
    続きが気になる方はX(Twitter)をチェックしていただければ、2024年中には出したい気持ちです

    この手に抱えた愛を【冒頭部分】- 1 『邂逅』 -

     真白い色へと覆われた大地を塗り替えるように、鮮やかな紅が散ってゆく。
     ──地上にも雪が降る、と言ったのは誰だっただろうか。
     その言葉に偽りは無い。但し、アークで見慣れた綿菓子や粉砂糖のような細やかな『雪』と、地上のそれは同じ名で呼ぶには些かはばかられるような気すらする違いを持つ代物だ。
     地上に降る雪は容赦なく生命の持つ熱という温度の全てを奪ってゆき、僅かな合間にも辺りを凍り付かせる、ある種生命の天敵のような存在であった。
     そんな極寒と共に吹き荒ぶ真白を、視界から打ち消すものと言えば、戦闘の合間に倒れ伏す者の体内から溢れ出る血液で。皮肉にも、雪の代わりに生命を奪った証とも言える液体の色が、真白で塗り潰された世界に唯一新たな色彩を加えるのだった。
     幾重もの足跡に拠って踏み潰され、世界を染める白と赤へ更に土の色が入り混じり。例えようのない文様が地面へと無数に描かれてゆく。
    「…吐き気がする」
     終わりの見えない任務にも、この狂った色彩の環境へと馴染みつつある自分自身にも。
     放ち続けた弾丸の嵐がようやく途切れた頃、今日もまた空から舞い始めた真白の中に吐息交じりの自嘲めいた言葉を吐き出せば、ロイエはつい今しがたまで構えていた小銃を肩へと担ぎ直す。ざり、と砂が鳴る靴底の下では、いつものように表現しようの無い独特の色合いの文様が、今日も斑に周囲で模様を描いていた。
     長く視線を向けていれば忌々しくすら見えてくる模様を、乱雑に靴の底で地面に散らす。口から零れる吐息の色も白み、徐々に視界に増え始めた真白の比率の高さにつと顔を上げてみると、耳に掛けたインカム越しに、自らを先刻からずっと呼んでいたらしい声に漸く気が付いた。
     もう、この周囲には生者は居ないのだろう。恐らく、自分達と同じ隊服を纏った者以外には。
     『歯向かう者は全てに死を』。それがロイエ達に課せられた唯一にして絶対の任務だった。
    「――…こちら、第8地区ブロックC。火器所持者複数名と交戦、ステータスコード・グリーン。被弾したステータス・イエローとレッドの隊員を先に帰還させたけど合流出来た?」
    『こちら、セカンド・ベース。帰還した隊員は既に治療ドッグ入りしている。ブロックAも既に片が付いたようだ。ブロックBが若干手間取っているらしい、未だ交戦中。住民の流出が同時に発生、非戦闘員のみそのまま放出』
    「……それはつまり、さっさとブロックBも片付けて来いって話?」
    『独りでブロックCに残っている位ならな。ステータスも問題無いんだろう?』
    「そうだね、オールグリーン。ブロックBの対象戦力は?」
    『ハンドガンにライフル、手榴弾とお馴染みのラインナップだ。未だ抵抗勢力十数名。中には刃物所持者も居るようだが問題あるまい』
    「それは攻撃範囲内に入る前に撃ち殺せたらの話。なんでそんなに残りの数が偏ってるかな」
    『住民流出が発生していると言っただろう?居住区の住民がブロックBに固まっていたようだ。交戦の開始を見て一斉流出してきたお陰で、戦闘員と非戦闘員が交戦開始時に混在したとの報告が上がっている』
    「……で、片っ端から殺してたら時間が掛かったって?」
     馬鹿じゃないの、と呆れた吐息と共に零れた言葉は、インカムには入らぬ程度の小さな呟き。混沌とした戦場で、非戦闘員をわざわざ見分けて戦闘を行う程、仲間達は地上の住民に対して心優しい面子では無いだろう。
     『非戦闘員』は文字通り『戦闘を行う意志を持たない者達』である。その年齢、性別は主に幼い子供や女性、高齢の者などが含まれるだろうか。移動の遅い彼らが戦場の最中に現れればら戦闘員にとっては格好の盾になるだろうし、こちらにとっては唯々邪魔が増えるに過ぎない。邪魔ならば消す。単純な論理だ。今頃のブロックBには、死屍累々の光景が広がっているに違いない。
    「今は、非戦闘員はそのまま放出で良いんだね」
    『ああ、残っている非戦闘員も残り僅かだろうからな』
    「了解」
     後方基地との通信を打ち切ると、ロイエは踵を返し『ブロックB』と区分された地域へと移動を開始する。
     持ち場での戦闘が終了した時点で、負傷していた隊員を無事な隊員と共に先に帰す際に、小隊の面子は全て帰す形にしたので、現在この場所に残っているのは自分だけのはずだ。
     人間を率いて戦場に出るのなら、後方で指示を出すばかりの役職など面倒なだけだから、と小隊長であるロイエが先陣を切る自小隊が、他の小隊に比べて戦績も生存率も高いのは、他の小隊長達から見れば皮肉なものだろう。
     仲間の隊員すらも入れ替えの利く駒だと、後方安全圏で胡座をかいている小隊長や他の士官達から異質の目を向けられるのにも、もう慣れた。
     独りでも死傷者の数を減らす為に、最も聡い行動がロイエ自身が武器を握り、最前戦に立つ事なのである。経験を積むにつれ、それは実績として体感し、目に見える数字に結び付いてゆく。
     18を数える年にユニティオーダーへと入隊したロイエも、暦がひとつ巡る間ほどの長さはアーク内の基地勤務を行っていただろうか。
     地上配属への配置換えとなったのは約2年前だ。同年代の隊員ならば、予備学校から更に本科と呼ばれる士官候補生育成のエリートコースへと進んだ後、最近ようやく隊服に袖を通して、ナーヴ配属という名で事実上の研修生生活をしている者も少なくはない。
     ロイエと同様に予備学校卒業後、即入隊を選んだ者とて、その半数程は今もアーク内の各基地に残っているはず。地上に配属になっていたとしても、そこには百戦錬磨の隊員が待ち受けている訳で。地上のひと通りを覚えての2年目、ようやく一人前の戦力としてカウントして貰える様になっていれば良い方だ。
     そんな中で、ロイエはと言えば。配属後数ヶ月で地上の理屈を覚え、1年目が終わる頃には当時居た小隊の中でも頭ひとつ抜けた戦歴を誇っていた。同時期に、現在の配属先であるセカンド・ベースで小隊長がひとり殉職した事を受け、齢23にして自身より年上の隊員達を率いる小隊長が誕生したのである。 
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    香月あまね

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    ロイエさんとシャオくんの出会いから結末までを書きぬこうとしている最中
    長期戦勝負確定の為、ロイエさんがシャオくんに出会う前のシーンまでの公開に留めます
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     真白い色へと覆われた大地を塗り替えるように、鮮やかな紅が散ってゆく。
     ──地上にも雪が降る、と言ったのは誰だっただろうか。
     その言葉に偽りは無い。但し、アークで見慣れた綿菓子や粉砂糖のような細やかな『雪』と、地上のそれは同じ名で呼ぶには些かはばかられるような気すらする違いを持つ代物だ。
     地上に降る雪は容赦なく生命の持つ熱という温度の全てを奪ってゆき、僅かな合間にも辺りを凍り付かせる、ある種生命の天敵のような存在であった。
     そんな極寒と共に吹き荒ぶ真白を、視界から打ち消すものと言えば、戦闘の合間に倒れ伏す者の体内から溢れ出る血液で。皮肉にも、雪の代わりに生命を奪った証とも言える液体の色が、真白で塗り潰された世界に唯一新たな色彩を加えるのだった。
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