苦味「マスター、」
全ての授業が終わったあとの校舎は酷く静かだ。
背後から聞きなれた声に呼び止められて振り返る、男の顔は睫毛が触れ合うほどすぐ近くにあって、直ぐに察して目を閉じた。
男がくすりと笑む気配を感じた、薔薇の傷を負ってから色んなことがあったけれど、出会い頭にキスされることに慣れるとは思わなかった。
「グラース……苦いんだけど。」
「へぇ、お前キスの味が分かるようになったのか。」
キスしてきた男、グラースは心底機嫌が良さそうに笑う。
俺はまだ苦味が残っている口元を抑えて彼を睨みつけた。
「すっとぼけるな。またタバティエールからタバコ貰ったんだろ?身体に悪いからやめろと何度も……!!」
「あーはいはい。お前とキスする前は辞めてやるよ。」
「そういう問題じゃない!」
説教しようと話し出すと悪戯っ子のように舌を出してそさくさと立ち去ってしまった。