艦 熱に魘されている中で、愛していたあの髪を見た気がした。
見慣れた海辺に立って、風に乱れるその髪を耳にかけて振り返る、何度も、何度も何度も忘れないよう消えないように瞼の裏に脳の奥に思い出して描き続けたその姿に、ふと「ああ、俺はやっと死ぬのか」と思った。
幾人もの同胞たちが弾け、消し飛び、切断され絶命していくのを見てきた。明日は我が身とただひたすらにその日の命を繋ぎながら過ごして来たこの時間を、遂に終えることができるのかと思うとほんの僅か胸が軽くなった気がする。
何も持たない俺がここまで永らえてしまったことが、死んでいった同胞達にどこかで申し訳なかったが故の安心だったのかもしれない。
足元は佐渡の岩場で、軍靴では随分と歩きにくかった。けれど、海を背に俺を振り返ってくれている彼女の元へどうしても行きたくて、必死で足を動かす。
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