余裕こきすぎた! もしかして、とその気配に気付いたのは夏の終わり頃だった。昔から人から向けられる好意には敏感で、「ないな」と思ったらなんとなく距離を置いたりした。そして珍しく「ありかも」と思えたのが、親友の部活の先輩である三井寿という男だった。
親友の部活の先輩なので、俺たち二人の接点は薄いはずだった。けれど、屋上で昼寝をしている時、購買で昼メシを買ってる時などによく出くわした。今思えばあれは、三井さんが意図的に俺に会いに来ていたのかもしれない。
俺は三井さんのことを「ありかも」とは思ったが、すごく好きかと訊かれたらそこまでではないと思っていた。なので好意に気付いていても、思わせぶりな素振りすらしていなかった。だけど好きだと伝えられたら、その想いに応える覚悟はしていた。三井さんとなら付き合ってもいいし、キスだって出来る。
でも結局、好きだと言われないまま三井さんは卒業してしまった。ただ最後に会った時に「たまに遊びに来るから、そん時はよろしくな」と言われたので、言葉どおりバスケ部の練習にたまに顔を出すもんだと思っていた。
しかし来ない。まぁ来ない。全然来ない。もうすぐインターハイ予選が始まるから鼓舞しに来たっていい頃なのに全く姿を表さない。卒業式の言葉はなんだったのか。もしかして三井の言う「たまに」って年一くらいのことだったのか。
今日来るかも。明日来るかも。を毎日思い続けて早3ヶ月。いや、もうこれ俺が好きじゃん。毎日好きじゃん、三井さんのこと。三井さんが来ないせいで、毎日考えるようになってしまった。これも作戦かなにか?
なんだか腹が立ってきたのでリョータくんに愚痴を溢してみる。
「三井さんって来る来る言ってて全然来ないよね」
「え、どこに?」
「ここ。たまに遊びに来るって言ってたよ」
「まじ?俺、言われてないけど」
おいおい、俺に嘘ついたのか?俺にだけってことは、まじで作戦なんじゃねーの?
「あー、じゃあテキトーに言ってるなぁ、あの人」
三井さんがそういう人だって俺もわかっていたはずなのに、まんまと踊らされているってわけだ。
俺たちの会話に花道が首を突っ込んできて、それがまた俺の心を抉った。
「ミッチー、大学でモテモテらしいぞ!」
へぇ、今なんて?
「三井さんが?ウケる」
リョータくんにはウケているらしいが俺には全くウケていない。顔面蒼白、冷や汗ダラダラである。
「じいから聞いた野ザルに聞いた!女子だけじゃなく男子からもモテまくっているらしい・・・・・・」
伝聞の伝聞。信憑性はさておき、花道は不思議そうな顔をしていた。おおよそ、三井がなぜモテているのか理解出来ないのだろう。
「なんであの人あんなんでモテるんだろう」
リョータくんのぼやきが耳に入らないほどに俺は放心していた。誰かが放ったスリーポイントシュートが外れたのを見て「やっぱりミッチーだよなぁ」と無意識に呟いていたらしい。
「水戸は三井さんに用でもあんの?俺が伝えとこっか?」
三井さん好きです、なんて言伝できるかバカやろう。俺が余裕ぶっこいている間に、誰かが三井さんを好きになって、誰かが三井さんに告白して、誰かが三井さんの恋人になって、誰かが三井さんとキスして、誰かが三井さんとセッ・・・・・・――――
気付いたらスクーターをかっ飛ばしていた。幸い、県内の大学なのでスクーターでもなんとか辿り着ける距離だ。
土曜日で授業はない。バスケ部なら体育館。と脳直で構内を走った。体育館のそばまで来ると、ボールが弾む音と、シューズが床を鳴らす音が聞こえて安心する。この中に三井さんがいるとわかったからといって突撃するほど馬鹿じゃない。
「水戸?」
そう、俺は三井さんの前ではスマートに振る舞いたい。でもいつも俺は冷めすぎているくらいだから、今日くらいは校門で待ち伏せして、三井さんが俺を見つけて「会いに来ちゃった」とか言ったら可愛いかもしれない。
「水戸」
三井さんはどんな顔をするだろう。びっくりして、ちょっと狼狽えて、それから顔を赤らめて「会いたかったよ」なんて言うかもしれない・・・・・・
「おい、水戸!」
「みみみみみみみみ、っついさん!?」
体育館の入り口を覗きながらボーッと物思いにふけていたらいつの間にか背後を取られていた。
俺は三井さんの前ではスマートに振る舞いたい。バクバクと鳴る心臓と、しっとりと掌を濡らす汗と、ほてってどうしようもない顔で何を言えばいいのか。
「何してんだ?」
「いやっ、あ、その、三井さんに、会いに・・・・・・」
「へぇ、ふぅーん。なんで?」
いたずらそうに笑う顔を見て俺は確信した。この人、わざと大学でモテて、わざと同じ大学の牧さんにそれを見せつけて、俺に話が回るようにしたな。きっとそうだ。絶対そうだ。
悔しい。恥ずかしい。言わせたい。言わせてやる。三井さんに先に「好き」って言わせてやる。
「で、なんか話があるんじゃねぇの?」
「おっ、俺、三井さんのことが、好き・・・・・・です」
満足そうに笑う三井さんを見て、もうどうにでもなれと天を仰ぎながらガッツポーズをした。なんとも十六歳らしい自分であった。