ゲント隊長が3人に増えました。「第1回!SKaRDプレゼンツ、どれが本物の隊長でしょう?間違い探し選手権〜!」
「「わ〜!!!(パチパチパチ))」」
教江野基地、SKaRD CP 。エミの陽気なアナウンスと、ヤスノブ、アンリの賑やかしが響き渡る。指揮所の大机の前、やけくそ気味の彼らの前に、3人の男が並んで座っていた。
黒い髪と精悍な顔立ち、187cmの長身を青い隊服に包んだ男―3人共全く同じ姿である。
「ハイ!ではまず、なぜこうなったかのおさらいをしましょう!」
「おっ、いいですね~」
「おさらいは大事ですね〜」
「つい先程、突然我らがヒルマゲント隊長が、なんと3人に増えました!」
「意味がわからないですね~」
「なんでやねんって感じですね〜」
「3人共、自分こそが本物であると言い張っています!」
「まぁ、明確に日本語喋ってるの一人だけなんですけどね〜」
「この時点でもう分かりますやん〜」
本気でヤケクソの3人と、彼らの前に並ぶ3人のゲント。脇で見ていて頭が痛くなってくるテルアキである。
エミのおさらいは正しい。ほんの半時ほど前、文字通りゲントが増えたのだ。休憩明けの定時ミーティング、全員が指揮所の大机の前に集まった時、何故かそこに隊長がもう一人居た。
やたらと暗い顔のそのもう一人は、ゲントの顔を見るなり猛然と飛びかかろうとしたのだった。大慌てで取り押さえたのもつかの間、突然眩しい閃光が走ったかと思うと、さらにもう一人、ゲントが居た。何が起こっているのか誰も理解しないうちに、2人のゲントは取っ組み合いになり、もとから居たゲントが慌てて二人の間に割って入り、とりあえず落ち着いたのだった。
「で?お前たちは何者なんだ?なぜ俺と同じ姿をしてる?」
ボサボサになった髪をかきあげて、彼らに尋ねるゲント。返事は無い。
「………」
「…………」
「……………」
「あのー、誰が本物の隊長ですか?」
「いや見たらわかるだろ、俺だよ」
「でも隊長、後ろの2人も自分を指さしてますけど。」
「あー...うーん...そっか...」
3人が3人共納得できるまで、誰が本物なのかを皆で話し合おうと言うことになり、まぁなんやかんやあって冒頭に繋がるのである。
「ではまず、便宜上呼び分けをしましょう!右からゲント隊長1,2,3ということで、良いですね皆さん。」
「なんか雑じゃない?」
ゲント2がぼやくが黙殺される。
「じゃぁ〜、とりあえず見た目を比べてみましょうか。基本的には全く同じに見えますが、どうですかアンリさん。」
「えーっと、3の隊長、顔色がすごく悪いですね。」
「四徹目くらいの顔したはりますね〜。」
「…隈も酷いな。」
「テルアキもノるのか…」
ゲント2がぼやくがまたも黙殺。
「あとはそう、目の色が違いますね!」
「お、アンリさんいいですねその着眼点!」
「隊長1は青色、2は茶色、3は…暗めの紫?やな。」
「青と紫は普通あり得ない色ですから、1,3のゲント隊長は本物じゃない可能性が高いですね〜!」
「はじめからそれ言ってよ…」
ゲント2がぼやくが安定の黙殺。
「じゃぁ次は、どうすればいいと思いますかヤスノブさん!」
「そーですねぇ、隊長は野菜ジュース苦手やったから、飲ませてみればええんちゃいますか?冷蔵庫にまだありますよ。」
「それ採用〜!」
無言で冷蔵庫から野菜ジュースのパックを引っ張り出し、コップに注ぎ分けるテルアキ。露骨に嫌そうな顔をするゲント2。
「はい飲んでください。あ、隊長2がむせました。」
「隊長1は―あぁ、それ、飲み物やから…アァァこぼれるこぼれる」
「3の隊長、無言で飲んでますね…」
「意外と気に入った…のか?本物の隊長もこれくらい文句言わずに野菜ジュース飲んでくれたら、私としては嬉しいんだが。」
「ゲホゲホッ…おいそこ、聞こえたぞ!」
…黙殺。
数時間後、指揮所の大机の前で、疲れ切った表情の5人が座り込んでいた。
「や、やっと居なくなった…」
「野菜ジュースの在庫、全部飲み切られてしもうた…5パックあったのに…また買ってこなあかん…」
「彼は納得…してくれたんでしょうか…最後まで一言も喋りませんでしたけど。」
「ご家族の話まで持ち出して、すみませんゲント隊長。」
「いや、まぁ良いよ。最終的には俺から言い出したんだし。」
いくつもの質問をくぐり抜け、誰がどう見てもゲント2が本物である他ないという結論を突き付け押し付け、ものすごく不服そうなゲント3が渋々と言った様子で溶けるように消えたのは、彼が現れてからゆうに数時間が経過した頃だった。
ちなみに、ゲント1は数分で飽きたのか、椅子に座らず指揮所をうろつき回り、跳ね回り、最終的にはゲント2の足元で床に座ってぼんやりと様子を眺めていた。3を警戒していた素振りもあったが、最初に暴れて以降紫目のゲントは非常に大人しかったのだ。3が消えた直後に同じ様に溶ける様に姿を消したのだった。
「ていうか、やっぱりあの隊長1はブレーザーですよね?」
「青目だったし。」
「壁登ってたし。」
「まぁそうだな。俺の見た目でやられるとなかなか混乱したが。」
「いやちょっと面白かったですね。壁登ってご満悦のゲント隊長。」
「俺じゃないよ...忘れてくれ...」
「では隊長3は…」
「以前現れたもう一人のブレーザー…だろうな。」
「闇っぽい彼ですよね。」
「随分と辛そうでしたね。」
「野菜ジュース全部飲み切りましたけどね。」
「もしかしたら彼なりに俺達とコミュニケーションを取ろうとしてたのかも知れないな。」
「もしまた現れたら、どうします?今日の様子だとまた来そうな雰囲気がありましたが。」
「その時はその時だ。なるべく、刺激しないように。」
「仲良くできたらええんですけどね。」
「そうだなぁ、アイツとも共存できたら、それが一番だ。」
「ですね。」