掌中之珠 二掌中之珠 二
りんごちゃんの背に乗って鼻歌を歌いながら空を見上げる、時折御剣で空を飛ぶ仙師を見る。
「やっぱ速いなーって、りんごちゃんは今の速度のままでいいからな」
ここ数日のりんごちゃんは暴れる事もなく俺の言う事を聞いて速度を遅くして歩いてくれる、後突然暴れたりもしなくなった動物は分かるというのは本当なんだなと・・・感心した。
「りんごちゃん俺のお腹の中に赤ちゃんいるみたいだ」
お腹をさすりながらりんごちゃんに話しかけると顔を近づけてきて匂いを嗅いだり耳を近づけいつもより控えめなの音量で鳴いた。
「だからゆっくりな、後飛び跳ねるのも禁止」
旅の途中で寄った場所で邪推退治したり壊れかけた結界を直して路銀を稼ぐ、薬や食料は藍先生から貰ったお金を使う、そして出店で買った林檎を食べさせて撫でてやる、これが日課で宿など借りずに野営する、雨の日は、里の人に許可をとって物置小屋を使わせてもらう。
今日も温氏の負の遺産を見つけてしまった。
「何故鬼や屍はいなくならないのでしょうか」
怯える人達が温氏が建てたという結界を遠巻きに見つめながら魏嬰に話しかけた。
「これはもう効果はないですよ・・・一時的な封印を無理やりしたか別の場所に追いやった感じですね」
生前の水行淵と同じだなとただの石を撫でながら新たな結界を繕うと立ち上がって静かにいつもと同じ言葉を村人たちに話をして立ち去る。
「ありがとうございます。旅の御方」
「いえ、私は応急処置をしただけですから、何か違和感を感じたら直ぐに姑蘇藍氏の含光君を呼んでください」
俺が歩いた場所を知って欲しくて藍湛の名を出しているけどそれもこれで最後だ。
『あんたも困ってるやつがいれば助けにくるだろうどんなに遠い場所でも』
そして人助けを終えてご機嫌に街の外に待たせているりんごちゃんの元へ向かって歩いていた時声をかけられた。
「旅の兄ちゃん、魔除けの護符はいりませんか?」
魏嬰は笠を少し上げて商人が持っている紙を見て首を横に振る、変な顔で描かれた夷陵老祖の魔除けを見たからだ。
「俺あんな顔してないし、すね毛なんてないんだからな」
ぶつぶつ呟きながら大股で歩き出す、そして数か月が達空の色も鉛色になりかけて冬の季節がやってきた。
「そろそろ藍先生が教えてくれた場所に近づいてきたな。雪が降る前でよかったな、りんごちゃん」
一声鳴いてりんごちゃんが返事を返すと魏嬰は笑う。
藍啓二が渡してくれたのは二枚の地図、二枚目にはしばらくここで身を隠し今後の事をゆっくり考えろと書かれてもいた。
「ここか」
周囲は木々に囲まれまるで守られているのようだ、小川が流れていて小さな畑もある、人が住んでいる形跡はあるようだが・・・。
「ここであってるよな」
地図と周囲の見比べながら頬をかいた、無人だと思ってたんだけどな。
「予定より少し遅い到着でしたね。魏の若君」
「え」
魏嬰は、動けないまま二人の様子を見ていたのだが、おっとりとした女の声が 気配がなかった、金丹を失ってるから仕方がないけど・・・手綱を持ったままだから妙な動きをしたら危ない視線だけ動かし、りんごちゃんの様子は変わってはいないから自分達に危害を加える人間ではないということか。
「驚かせましたか?申し訳ない、私達はここの管理を任せされている者です」
私達だと・・・視線を横に流すともう一人男と同じくらいの年齢の女が立っていて完全に固まってしまった。
「あらあら、可愛い驢馬さんね。お名前はあるのかしら?奥に馬小屋があるから案内しましょうね」
りんごちゃんに語りかけていた。
「あの、私はそのある人に」
そうだ説明しないと、藍先生から受け取った地図をみせないと胸元に手を入れた時男が静かに語った。
「わしら夫婦は、数年前まで雲深不知処で医師を務めていた者だよ。安心なされ・・藍啓二殿に手紙を貰って貴方の事情は知っておる」