俺の羽が黒く染まったのは遠い遠い昔のお話だ。
「これで永遠のお別れだな含光君」
真白な穢れを知らない翼を持った天使に最期の言葉を送ってやった
「一人で堕ちるつもりなのか」
「俺は元々ひとりだよ」
この漆黒の羽も最初は白い色をしていた、何時の頃からかは覚えてはいないが所々赤く滲みその赤は黒色へと変色していた。
「魏嬰」
含光君は俺に剣を向けていた、優しいお前がどうしてと重い思考で考えるけど分からない・・そう分からないんだ。
「含光君、俺はどうなってんだ」
「分からないのか君は・・その手を見て、足元を見ろ」
自分の手を見る赤黒い血まみれだ、足元も同じで血だまりだ・・あれ?
「覚えていないのか」
「俺は・・」
含光君の後ろに集まる天使たちが俺に向かって声を荒げた。
「追放だ」
「いや今消滅させた方がいい」
そうだ俺は、何かを誰かを守る為に・・手を汚したんだ。
「藍湛・・」
「昔、君が私に言った言葉を覚えているか」
ぱしゃぱしゃと血だまりを歩く音が近づいてくる、白い服の裾が血に染まっていくのを見て魏嬰が声を上げた。
「近づくな」
「否」
「血で汚れるぞ近づかなくてもお前なら俺を始末できるだろう」
それでも白い天使は歩みを止めない。
そして目の前で立ち止まり剣を振り上げる、そして思い出したんだ俺と藍湛がまだ見習い天使だった時の事をーー。
『君は優秀なのに、何故厄介ごとに首をつっこむ』
『困ってる人を助けるのが天使だろ?』
木の上で座っている魏嬰を下から見上げながら声をかけられた。
『後・・いたずらもほどほどに被害が小さく済んでよかったものを』
彼を良く見ると小さな傷が無数にあり藍湛はふわりと羽を羽ばたかせ目線を魏嬰合わせた。
『じゃあさ、俺がみんなに大迷惑するほどの悪い事をしたらどうする?』
魏嬰が綺麗な空と花畑を背にしている綺麗な天使・・その時の藍湛は珍しく困った顔していたよな。
『魏嬰・・』
『だから・・そうだな俺が本物の悪い子に堕天使になったら藍湛どうする』
『私が君を罰する』
ああ、あの時の約束を守ってくれるんだな、なんでだろう怖くないや、むしろ嬉しい・・だってさ、もしかしたらずっと俺が藍湛の心に残ってくれる。
「良いよ、藍湛あいつらに始末されるよりかは・・お前が良い」
魏嬰が嬉しそうに笑って藍湛に語った。
「魏嬰」
剣は魏嬰の身体を切り裂くことも貫くこともなく鞘へ収まった。
「藍湛・・どうして」
魏嬰は下を向き動かなくなった藍湛を見ながら、
まさか寂しいとか・・いやいやそんな事天地が逆さまになってもありえないよなと頭を強く左右に振り藍湛を見つめた。
「藍湛、あの時の約束叶えてくれ」
ピクリと藍湛の手が動く。
「含光君、早くその堕天使を下界へ堕とせ」
堕とせと皆が呪いの言葉が鎖の形に変化し魏嬰に迫りつつあった。
「お前が堕としてくれないなら一人で堕ちるから安心しな・・きれいな手は汚したくない」
スッと含光君の綺麗で大きな手がさし伸ばされた。
「なんだ最後の最期で俺と握手してくれるのか」
少しだけ嬉しくなって彼の手を握ると強い力で握り返されぐいと引っ張られた
「堕ちるなら共に堕ちよう」
耳元でそう苦し気に囁かれ抱きしめられるのを感じた刹那そこから落下していった自由という名の落下だ
堕ちていく、遠くに見える空の方から悲鳴が聞こえてきたがすぐに消えた。
冷たい風が全身を包み込むお互い空を飛ぶ為の羽があるのに堕ちていく。
厚い雲を突き抜けた時魏嬰は大きく目を開いた。
呪いの鎖は俺に届くこともなく消えてく今まで住んでいた世界は見えなくなってしまった、俺達は堕ち続けた・・恐怖はあったはずなのに無くなっていた。
「藍湛大好きだ」
白い羽を持つ天使を力強く抱きしめた。
「私も君の事が大好きだ」
人々の声と急ぎ足で交差する、キラキラと光るイルミネーションを飾る街の中を一人の男は歩いていた。
『確かこの先の大きな時計台の下で待ち合せだったはず』
キョロキョロと待ち合わせをいている相手を探すが見当たらない時計を見上げ時間にはまだ早いと気づく。
ポケットからスマホを出して着いたと送るとバイトが少し長引いて今着替えてる所少し遅れると返事がきた。
『あの人を待つのも楽しい時間だ』
街の景色は今クリスマス一色なのだが、店に入るとお正月用品も置いてあって面白い、人間界とは面白い世界なのだなと。
藍忘機と魏無羨はあのまま堕ちていった、二人とも消滅を覚悟していたのだが奇跡というか生きて人間界に足をつけた。
「魏嬰、目を開けて」
腕の中にいる魏嬰の頬を軽く叩く、周囲に人がいなくて助かった私達の姿が目立ちすぎるからだ。
「んー藍湛、寒いなもしかして地獄か?」
「違う、私達はどうやら人間界に堕ちたようだ」
ガバリと腕の中で起き上がり周囲を見回す、なんだか目がキラキラして楽しんでいるみたいなのだが・・・。
「藍湛、なんか駆け落ちみたいだな。後あんたの白い翼がそのままで良かった」
「君の方は変わってしまった」
私の白い翼はそのままだった、でも魏嬰は黒色の異形の羽になり何故か尻尾も生えていた。
「俺もしかして、魅魔になっちまったのか」
時計台で待つ藍湛はとても目立つ後ろ姿でもかっこよさが分かってしまうほどに目立つ、魏嬰はにやけそうな頬を叩いて気配を消して近づくその時嫌な気配を感じた。
『あー女に狙われるな俺の藍湛、まぁしかたないよなクリスマスの日に良い男が待ち合わせの場所で30分くらい立っているんだもんな』
時計台の裏で暫く考え込んで思いついたあの女たちをぎゃふんとさせようおまけで藍湛を驚かせよう。
「ねぇあの人もう30分もあそこにいるわよ」
「そういう私達もだけどね、見ているだけで眼福だけどこれはもしかしたら・・・」
うんうんとコソコソ話をして話しかけようと決断をする二人組の女性。
「あの・・・」
藍湛がスマホの画面を見た時、気配を感じ顔を上げたと同時二人組が驚いた自分達と目が合ったと動揺して慌てた。
「ごめんね、バイトが長引いちゃって・・・寒かっただろ」
スッと長い黒髪を赤い髪紐で結んだの女性が時計台に待つ男に抱きついた。
「君・・・」
走って来たのか息が荒く白い湯気が見える頬も赤くなっていて周囲にいた特に男性達が彼女を見つめてあちこちで隣にいる恋人に抓られ声をあげる声が耳に入った。
「早く帰ろうよ、遅れたおわびはちゃんとするから」
「その方が賢明だな」
魏嬰はニコリと笑って胸の中から抜け腕にしがみつくむぎゅと胸を押し付けて早く歩けと促した。
「今夜どうなるかわかってるのか」
「もちろん」
二人組の女性はお互いの肩を叩きあって今夜は朝まで飲み明かそうと誓うのであった。
「しかしイケメンカップルだったわよね、とりあえずもう一回見ておこう・・あれ?」
「どうしたの?もういない?」
今度は狐に包まれたかのように首を傾げると空から白い物が降ってきた。
「何これ、鳥の羽?」
「ほんとだ白い羽だ」
街や人の声が小さく聞こえるくらい上空に藍湛と魏嬰は飛んでいた。
「魏嬰は何故女性の姿でいる」
「あんたがナンパされそうになってたから」
いまだに女性型を崩さない魏嬰を見て頭を抱えた。
「なんだよ、こっちの羨羨も好きだって言って抱いてくれたじゃんか」
「そうだが・・・その姿だと他の男が君に寄ってくる」
「俺の身体はあんたしかうずかないしいらないの。嫉妬してるのか?じゃあ今夜はどっちの羨羨も抱いていいぞ」
「その言葉に二言は?」
「ありません、でもそのまえにチキンとケーキと・・・後は鮭と酒」
夜の空をバレないように羽ばたく、星の光りは見えにくいし空気もちょっと悪いけど二人なら平気。
「藍湛手を繋ごう、そして家に帰ろう」
いつもの男の姿に戻って星空の下魏嬰が笑っている、この笑顔とその手を繋いで私は答える。
「うん、二人の家に帰ろう」