タイトル未定の龍狐忘羨話。 龍藍湛・狐魏嬰話
「魏公子、今日は藍二公子が来られる日ですね。」
温寧に笑顔で言われて俺は少しため息をつく。
その様子を見て首をかしげて顔を覗き込まれた。
「いや、来るのは解ってる昨日も文が届いていただろう?その・・お前ら、なんでそんな大歓迎ムードなんだ?祭りじゃないんだぞ!藍湛だけではなく沢蕪君と江澄も来るんだぞ。」
ここは、温氏の分家の人々と夷陵老祖と呼ばれる魏 無羨達が隠れ住んでいる夷陵という場所。
日の光りもあまり当たらない薄暗い場所だが、温氏の本家とのいざこざに巻き込まれと言うか首を突っ込んでしまい魏 無羨もここで仲間として暮らしている。
木々の中から烏が数羽飛んできてカァカァと鳴いて、
「ありがとう、お客人が来たようだ。歓迎する者と招いていない者が。」
「魏公子、お供しますか?」
「いや、もう終わったようだ。」
目の前のうっそうとした黒い森の木々が歪んでその中から3人の男が現れた。
白い羽織を着た頭に二本の角と魚の尾を長くした尻尾を生やした龍族藍氏の双璧、藍曦臣と藍忘機。
紫の羽織を着た白い豹の耳と尻尾をもつ豹族雲夢江氏の江澄。
そして俺は、九尾の黒狐。
「すまんな、お客人に妖魔退治などさせて、今色々忙しくて人手が足りないんだ。」
「いえいえ、ここの結界を維持するのも大変でしょう。
他の仙門の方々にも私の方から言っておりますので。
くれぐれも無謀な真似は、なさらないように。」
「そうだぞ、姉上も心配していたんだぞ。」
お礼と謝罪をしながら、ここに来て未だに一言も言葉を発しない藍湛の方に視線を送った。
「藍湛?どうした?怪我でもしたのか。」
「忘機は魏公子の足元におられる子が気になるみたいですね。」
「子供?おお、お前いつ間に部屋から抜け出してきたんだ。」
そう言うと、足元で自分の着物にしがみついている子供を抱きかかえた。
子供は見慣れない大人を一度に3人しかも種族も違う事に驚いたのか大きな瞳に水が溢れだしてボロボロと泣き出した。
「なっ、なんで泣くんだ何もしてないのに。」
江澄が慌てて隣にいる沢蕪君に声をかけるが、おやおやどうしましょうと言いながら。
「魏公子、ここに住んでいる誰かのお子さんですか?」
「ん?この子は阿苑って名前だ。ほら泣くなよ、誰もお前をいじめたり食べたりしないぞ。」
「うー。」とぐずぐず魏嬰の胸元に顔をこすりつけるてるのを見ながらポンポンと背中を叩いて落ち着かせる。
「魏嬰。」
「やっと出てきた言葉が俺の名前かよ藍湛。」
ふと藍湛が袖から一枚の布を差し出した。
「阿苑 、お父さんがこれ使って涙を吹けだってさ。」
その言葉に魏嬰と阿苑以外が固まった。
「ぎっ・・・魏 無羨。今何と言った?」
「魏嬰、その子は?」
阿苑が藍湛から布を受け取ると涙を吹き始めた。
「俺が生んだ。」
「はっ?何言ってるんだ、いつこの藍忘機とそんな関係になったんだ?俺は聞いてないぞ。」
「ほら、藍湛に面影あるだろう?」
「確かに、小さい頃の忘機に似ている。