イチ松 キスの日②(ボツ供養) 普通の飲み会って言われて来たのが間違いだった。男女同じ人数で席に座っている現状を忌々しく思う。
合コンじゃねえか!!とイラつきのまま、グラスを強くテーブルに置く。
俺と松本は恋人が居るから、こういう場に参加することは無理だと伝えているのに、それを無視して嘘までつく神経が分からない。
ブチ切れて帰ろうとしたが、人の良い松本に宥められ途中退席も出来ず、あれよあれよと会は進み、合コンでお馴染みの王様ゲームが始まった。
チャラ男「えー、王様からの命令は…3番が秘密にしている事を暴露で」
モブ子「え〜、私だ…!えっと〜……」
チラチラと松本を見るんじゃねえ!俺の松本だぞ!!
「実は……私、松本くんが気になってて、好き?かもって……きゃっ、言っちゃった」
「「「おお〜〜!!!」」」
「松本どう?」
松本に惚れるのはいい趣味してると言いたい所だが、もうコイツは俺のなんだ。諦めてくれ!諦めろ!!周りも囃し立てるんじゃねえ!!
思わず中指を立てそうになる。
どうも何も、恋人いるって言ったよな!?何を隠そう、俺という恋人がいるが!?くそっ、俺と松本が恋人同士と言わなかった事が仇となった……!!
「どう?って言われても……俺、恋人いるし」
そう俺!!モブ子ごめんな!!
チャラ男「今の恋人より、モブ子ちゃんがいいんじゃない?可愛いしさ、料理上手らしいよ?」
チャラ男ーーー!もう、お前にノート貸してやらねえ!!
もう我慢ならん!と、手元にあったビールを一気に煽り飲み込む。その勢いのまま、松本の顎を掴む。
「え、ちょッ!イチノ!?」
松本の声を無視して、唇にかぶりつく。見せつけるように舌を絡ませ、ぐちゃぐちゃと音を鳴らしていると、松本の手が背に回り、縋り付くようにシャツを握られる。きっと服は伸びてるし、皺も凄いだろう。
口を離すと唾液の糸が垂れ、玉となってプツリと切れた。唇を拭いながら、くたりと凭れ掛かる松本を抱きしめ、宣言する。
「コイツ、俺のだから」
パクパクと金魚のように口を動かすモブ子を睨みつけながら、「じゃ、俺ら帰るから」と会費にプラス多めの金額を机におき、店を出る。
帰り道、飲み屋街の賑わいの中、口を開いた。
「……怒った?」
「……何も大勢の前でしなくてもいいだろ」
「ごめん。ヤキモチ」
「ヤキモチ……?」
「そう、ヤキモチ!だってさ、俺の松本なのに……お似合いだ〜付き合っちゃえよって囃し立てられてただろ?あと、ムカつきもした」
口を尖らせていると、上から影が降りてきたと思ったら、唇にちゅっと音を立てて去っていった。
手をあて、きょとんとした顔で少し上にある松本の顔を見ると、ふわりと柔く微笑んでいた。
「……酔っ払い、早く帰るぞ」
「え、あ…うん」
そんなに酔っていないとは言えないでいると、松本が手を握ってきた。
「転ばないように手を握っててやるよ」
「……ありがとう」
二人は恋人繋ぎでゆっくりと帰るのだった。
おわり