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    kumaneko013

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    kumaneko013

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    続いてしまっている弊ジェイハン♂の4話目です。今回はアラタ視点。
    ジェイくんの実家については本人の性格の良さや家庭環境から、何となく育ちが良いのかなーと思って個人的イメージで書いてしまってますが、公式から何か言及があった際はさりげなく修正します…。

     夜の闇を渡る風が、静かに頬を撫でていく。
     一緒に運ばれてくるのは、かすかな潮の香り。
     この匂いにもすっかり慣れたなあ、なんて思いつつ、俺は暗くなったエルガドをひとり歩いていた。
     今日も今日とて、朝からクエストに出かけていた訳だけど──
     お目当ての素材がなかなか拾えず、やっと揃ったと思った頃にはすっかり日も暮れ落ちていた。
     エルガドに戻り夕飯を食べ、店を出てみると辺りは完全に真っ暗で。疲れたし、今日はもう帰って寝よう……と歩みを進めていると、知った顔が道向こうからやってくるのが見えた。
     あれは……アルローさんだ。
     だけど様子がちょっとおかしいというか、足元がフラついてる気がする。お酒でも飲んでたのかな……
     アルローさんも俺に気付いたらしく、笑みを浮かべながら片手を挙げ、
    「よぉ、アラタじゃねぇか」
    「こんばんは、アルローさん。ずいぶんとご機嫌ですね」
    「ジェイが美味い酒奢ってくれてな。持つべきものは弟子だぜぇ」
     赤ら顔で豪快に笑うアルローさんに、小さく苦笑を返す俺。これはかなり酔ってるなぁ。
     つい心配になって、大丈夫ですか、部屋まで戻れますか、なんて聞いてしまった。が、アルローさんはそれには答えず、急にハッとした様子で俺をまじまじと見つめ、おもむろに口を開く。
    「……なぁアラタ。お前さんにちょっと頼みがあるんだが、いいか?」

      * * *

    「えっと……確かここだったよな」
     酒場の入り口に立った俺は、看板を見上げてその名前を確認する。

    『実はジェイの奴がまだ店に残ってるんだけどよ……あいつも相当飲んでたからな。悪いが様子見に行っちゃくれねぇか?』

     さっき、アルローさんから言われた頼み事。
     俺の予定といえば部屋に戻って寝るだけだし、件の店もそんな遠くなかったから、お安い御用とばかりに首を縦に振ったんだ。
     なんで俺に? って疑問は少しあったけど、予定外のところでジェイさんに会えるのが、その……嬉しくて。つい引き受けてしまったというか、何というか。
     そしてアルローさんに教えてもらったこの酒場は、俺も以前ジェイさんと訪れた事がある店だった。ちょっと恰幅のいいヒゲのおじさんが店主をやっていて、俺は酒が飲めないから普通に食事をしただけなんだけど……ジェイさんのオススメで注文された料理は、どれも美味しかったのを覚えている。
     店の窓から漏れているオレンジ色の明かりと、扉越しでも聞こえる楽しそうな話し声。今日も仕事を終えた船乗り達が一日の疲れを癒し、互いを労っているのだろう。
     俺はゆっくり扉を押し開け、何となく小声で『おじゃまします』と口にしながら、店内に入った。流石に中はすごく賑やかで、みんないい感じに出来上がっているのか、あちこちから笑い声が上がっている。こういう光景を見ていると、里の宴会を思い出すなあ。
     ジェイさん、どこにいるんだろ……
     忙しそうに往復している店員さんの邪魔にならないよう、壁際に寄って店の中をぐるりと見渡した。
     ──あ、いた。
     カウンター席に腰掛けて、店のおやじさんと何か話してる。
     アルローさんに言われた通り、とりあえず酔い具合を確認してみようか。大勢のお客さんでちょっと狭くなってる通路を通り抜け、カウンターの方に近付いて行くと、やがてジェイさんの声が聞こえてきて──

    「それがですね、全然気付いてもらえないんですよ……こんなに好きなのにぃ!」

     手にしていたジョッキを、だん! とテーブルに叩きつけるジェイさん。
     少し離れた位置から彼の名を呼ぼうとしていた俺は、その一言で思わず固まってしまった。ジェイさんは背後の俺に気付く事なく、おやじさんに対して愚痴のような話を続けている。
    「結構二人っきりになったりもしてるんですけど……全然進展しないんですよねぇ……」
    「ふぅん。肩書きだけならジェイさんだって立派なモンだろうに。貴族出身で尚且つ若手の王国騎士なんて有望株、引く手あまたじゃないのかい」
    「肩書き『だけ』って何ですか『だけ』って! ……残念ながらオレの狙っている人は、そういうのが一切通用しないタイプなんでぇ……そこがいいと言えばいいんですけどぉ……」
    「筋肉バ……トレーニング命のジェイさんにしちゃ珍しく、随分と入れ込んでるじゃないか。よっぽど魅力的な子なんだね」
    「そうなんですよぉ! すっごく可愛いから、他の人に取られちゃったりしないかなって心配も──」
     ふたりの会話を、最初から全部聞いてた訳じゃない。
     でも、話の端々から大体想像がついてしまう。
     ……そっか。
     ジェイさん、好きな人……いたんだ。
     ついさっきまで浮ついていた気分が、急速に萎んでいくのが自分でも分かった。
     何となく声が掛けづらくなって、その場で立ち尽くしていると、カウンター向こうのおやじさんと目が合い、
    「あれ? カムラの英雄さんじゃないか。いらっしゃい」
    「……え?」
     ゆっくり後ろを振り返るジェイさん。そして──
    「うわあああああ!? あ、アラタさんっ!?」
     俺の姿を認めるや否や、悲鳴のような声を上げて椅子から転がり落ちてしまった。思いっきりお尻打ってたけど……大丈夫かな……
     ジェイさんはアタフタしながら椅子に這い上がろうとしていたが、酒のせいで足腰に力が入らないようだ。椅子にしがみついて、ひどく狼狽えた様子でこちらを見やる。
    「ど、どどどどうしてここに!?」
    「あ、あの、アルローさんに、ジェイさんの様子を見てきて欲しいって言われて……」
    「えっ、アルロー教官が!?」
    「ほらジェイさん。心配してもらってるみたいだし、そろそろ撤収したらどうだい。明日に響くよ」
     ジェイさんはまだ何か言いたそうにしていたけど、そんなおやじさんの言葉を聞いて、よろめきながらも何とか立ち上がり、
    「ふぁい……お会計お願いしまっす……って高ぁ!?」
    「ははは、教官殿がだいぶ飲んでたからなあ。毎度あり」
     伝票らしき紙を受け取った直後、目を剥いて叫ぶジェイさんと、楽しそうに笑うおやじさん。
    「英雄さんもまたメシ食べにおいで。サービスするからさ」
     ひらひらと手を振るおやじさんに、軽く会釈して。
     足元の覚束ないジェイさんに肩を貸すと、俺はその酒場を後にしたのだった。

      * * *

    「……大丈夫ですか?」
    「はい……すみません、ご迷惑お掛けしまして……」
     月明かりの下、ふらつくジェイさんを支えながら帰途に就く。
     面目ない……と謝罪してくるジェイさんの顔が青白く見えるのは、決して月の光のせいだけではないだろう。
    「オレもここまで飲むつもりはなかったんですが、ついつい話が弾んじゃって……」
    「気にしないで下さい。教官が酔っ払った時、こんな風に送り届けた事が何度かあるので……慣れてますから」
     苦笑混じりに答えると、ジェイさんの表情が一瞬だけ強張ったような……気がした。どうかしましたか、と尋ねる前に、ジェイさんが先に口を開く。
    「そ、そうだ、アラタさん。ちょっとお伺いしたい事があるんですが」
    「はい?」
    「さっきの酒場で、オレとマスターの話……聞こえてたりしました……?」
     さっきの、って……
     ジェイさんの、好きな人に関する話題だろうか。多分そうだよな。他人に知られるのが恥ずかしいのかな。
    「……えっと、何か話してるのは見えましたけど、お店が賑やかだったので話の内容までは……」
     よく聞こえませんでした、と。
     何故か俺は、ウソをついてしまった。
     ──ばっちり聞こえてました。ジェイさん、好きな人いるんですね。
     そんな風にしれっと言えるほど、俺の心は強くなかったんだ。
    「あっ、それならいいんです! 変な質問してすみません!」
     ホッとしたように笑うジェイさん。
     ……本当に、聞こえてなければ良かったのに。
     いや、早いうちに知れて、むしろ良かったのかもな。後になればなるほど、辛くなってただろうから。
     一体誰なんだろう。同じ王国騎士の誰かかな。それとも……俺の全く知らないひとだろうか。
     フィオレーネさんを始め、エルガドで出会ったいろいろな人達の顔が浮かんでは消えていく。だけどいくら俺が考えたところで、答えなんて出るはずもなくて。結局、ジェイさんに好意を寄せられてるその相手が……ひどく羨ましくなっただけだった。
    「……っと、ここまでで大丈夫です。ほんと、ありがとうございました……」
     ジェイさんの声にハッとして顔を上げると、彼は俺からゆっくり身を離す。気付けばジェイさんの部屋の近くまで来ていたようだ。まだフラついてはいるけど、自力で歩けるぐらいには回復したらしい。気を付けて戻ってくださいね、とジェイさんに告げると、
    「──アラタさん」
     俺の名を呼び、じっと見つめてくるジェイさん。
     その表情はどこか緊張しているような、躊躇っているような、そんな雰囲気が感じられた。
    「ええと、オレの勘違いならいいんですけど……何か、ありましたか?」
    「……え?」
    「その……何だか元気が無いように見えて……」
     思わず息を呑む。
     気付かれた。気付いてくれた。
     誤魔化さなくちゃという焦りと、心配してもらえた嬉しさがごっちゃになって、少し動揺してしまったけれど、
    「……だいじょうぶ、です。今日は朝からずっとクエスト行ってたし、少し疲れたのかな」
     そう言って小さく微笑み返す。しかしジェイさんはあんまり納得していない様子で、俺に片手を伸ばしてきた。
     いつもみたいに、頭を撫でてくれるつもりだったのかも知れない。でも、俺は──
    「それじゃ、俺も部屋に戻りますね。おやすみなさい」
     一歩後ずさってその手を躱し、ぺこりと頭を下げ。
     ジェイさんの顔も見ずに背を向けると、彼の前から足早に立ち去った。

      * * *

     ジェイさんと別れ、歩き続ける事しばし。
     さっきの態度は、流石に失礼だったかも知れない。明日、ジェイさんに謝ろうかな……と思う反面──もう、どうでもいいじゃないか。嫌われたところで何の問題もないんだから、などと考えてしまう。
     狩りやそれ以外の事に誘っても快諾してもらえるのが嬉しくて、浮かれてたけど。
     ジェイさんは誰にでも優しいから、断らなかっただけで。他にもっと仲良くなりたい人がいるなら、俺はジェイさんの邪魔をしていたんじゃないか。だから明日からは、ジェイさんを誘うのも少し控えるようにしよう。うん、それがいい。これ以上好きになってしまう前に、気持ちの整理をつけなきゃダメなんだ。
     そもそも、俺が一方的に好意を抱いてただけなのに。
     優しくしてもらって、勝手に期待していただけなのに。
     男同士ではあるけれど、もしかしたらジェイさんの方も、なんて──とんだ勘違いだ。恥ずかしいにも程がある。
     自嘲しつつも、俺の胸はまるで大きな穴が空いてしまったかのようで。
     それが苦しくて苦しくて、堪らなくなって。
    「……バカだなあ、俺……」
     足を止め、ぽつりと小声を漏らす。
     胸の苦しさと、自分への情けなさで、歪み始めた視界の中──
     諦めなきゃ。
     そう思ってはいるのに、あのひとの笑顔と、頭を撫でてくれた手の心地よさがどうにも忘れられず。
     ジェイさん、と震える声でその名を口にしてしまうのだった。


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    kumaneko013

    DONEアルハン♂で朝チュンしてます。
    ア教の事なら提督に聞くのが一番手っ取り早いと思うんだけど、勝手に個人情報を聞き出すのも悪い気がするな…ってのと、提督の事は好きだけどそれとは別に何かこう悔しさみたいなのがあるから聞かない…って気持ちは小僧の中にあると思います。でも当たり障りのない、ちょっとした事なら聞いちゃうかも。
    【欲張りだからもっと知りたい】 目を開けると、窓の外は明るくなり始めていた。
     寝ぼけ眼のアラタはベッドで横になったまま何度か瞬きを繰り返し、隣を見上げる。そこには未だ熟睡しているアルローの姿。
     自分とは違う褐色の肌も、目尻に刻まれたシワも、左目の上を走る大きな傷も、どれもが愛おしくて。アラタはほんの少し表情を緩ませながら、傷跡にそっと触れてみる。

     この傷、いつ出来たんだろう。
     傷に限った話じゃないけど、俺はアルローさんの事をまだ全然知らない。
     もっともっと知りたいなあ。
     それこそ、好きな人の事だったらいくらでも──

    「……おまえさん、俺の傷がそんな気になるのか?」
     唐突に聞こえたアルローの声により、思考が中断された。びくりと肩が跳ね、傷跡をなぞっていた指も慌てて離す。
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    kumaneko013

    DONEサトヤブ3のエアスケブでリクエスト頂いた『ゲーム軸でも現パロでもokですので、何故か犬(ガルク可)の群れに囲まれることになったジェイハン♂』です。
    現パロで書かせて頂きました。あまり細かい設定は考えておらず、アラタがいつものように高校生、ジェイくんが大学生やってて既にお付き合いしているぐらいのふんわり具合。あと教授呼びは単に私の趣味です。多分メガネ掛けてる。
     約束の時間から、既に二十分は過ぎてしまった。
     完っっ全に遅刻だ。
     彼をひとり待たせているかと思うと、心が痛む。
     大学の側にあるデカい公園の中をオレはひたすら走り続け、やがて目的地──売店近くのベンチで、ぽつんと腰掛けている男の子を発見した。
    「おっ、お待たせしました~~!!」
     大声で呼び掛けながら駆け寄ると、こちらを向いた彼が笑顔でベンチから立ち上がる。
    「ジェイさん!」
     こんにちは、と礼儀正しく挨拶をしてくれるアラタさん。学ランの下にパーカーを着込み、リュックを背負っている姿が高校生然としていて、可愛らしい。
    「いやほんとすみません……教授に……いきなり雑用押しつけられて……」
     少し折り曲げた両膝に手をつき、ゼイゼイと息を切らしながら。
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