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    keram00s_05

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    keram00s_05

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    🦊雨🐰玄が里山で幸せに暮らしているのを望遠鏡で覗きたい。ショタなのは私の趣味!!!

    #雨玄
    yuXuan
    ##里山

    しあわせせいかつさやさやと竹藪を駆け抜ける風を感じて玄武は本から顔を上げた。日は傾き始めたが沈むのはもっと先だろう。黒く長い耳を動かして風の中に混じる気配を掴む。玄武が感じ取ったのを察したように風はもう一度柔らかく吹いた。玄武は本を閉じ、気配に誘われるようにトテトテと玄関に向かう。
    玄武が玄関に来るのを待っていたかのように引き戸が開き、外から彼が現れた。

    「おかえりなさい、雨彦アニさん」

    玄武に出迎えられた彼は頬を緩め、靴を脱ぐのもおざなりに上がり框で自分の帰宅を喜ぶようにピョンピョンと跳ねている幼妻を抱き上げた。

    「ただいま、黒野」

    そう言って小さな鼻先に自分の鼻先を合わせると、玄武は嬉しそうに笑った。

    雨彦はこの里山の主である九尾の狐の一族の若君であり、長いこと独り身を貫いていたがこの春に妻を娶った。
    それが、玉兎の玄武だ。
    玄武は天涯孤独の少年であり、雨彦とは辛うじて親と子ほどの歳は離れてはいないが大きく歳が離れている。2人の婚姻に納得がいかない者はそこに漬け込んで2人を引き離そうとしたが、雨彦が認めないのであれば2人でこの里山から出て行くと言って頑として譲らなかった。

    「今日は何をしていたんだ?」

    玄武を抱えたまま雨彦は屋敷の廊下を歩き、自分の部屋へ向かう。

    「今日は昨日までの雨で溜まってた洗濯物を全部洗って干して、土間の掃除もしたぜ。あと、畑で大きい茄子が採れたから漬物にしたんだ。きっと夕飯までには漬かってるぜ」

    今日行ったことを挙げていく玄武はたくさん家のことをできたと意気揚々だ。実際、玄武はとても働き者だった。守るべき里山のことで忙しい雨彦が安心して一任出来るほど、掃除も炊事も洗濯も、果ては畑仕事もよく出来た。それに勉強熱心で雨彦が文字の読み書きと算盤を教えればあっという間に覚えて、手が空くと本を読んだり、雨彦代わりに家の帳簿をつけている。

    「それは夕飯が楽しみだな」

    小さな体で働き過ぎてはないかと心配になることもあるが、アンタの伴侶なんだからこれくらいさせろと逆に怒られてしまった。

    自分の部屋に着き着替える為に玄武を廊下の床の上に優しく下ろしたが、何かを待っているようにその場から動かないのでおやと思っていると玄武は不服そうに手を伸ばして催促する。

    「もっと抱っこかい?」
    「違う。夜からまた雨だから今のうちにアニさんが今日着てたその服洗っちまいたい。早く着替えてくれ」

    しっかりし過ぎるのも困りものだなと思いつつ、雨彦は玄武の圧に負けてふざけるのをやめてさっさと着替えることにした。

    2人で夕飯の鮎の塩焼きをつついていると、玄武の言う通り雨が降ってきた。なかなかの強さでその内雷が鳴り出すかもしれない。

    「黒野、さっきの洗濯物は取り込んだかい?」

    雨彦がそう尋ねると、抜かりない玄武から当然だと返事があるはずなのだがいつまでも玄武からの返事はない。視線を鮎から玄武に移すと固まっている。

    「もしかして、お前さん。取り込み忘れたかのか?」

    そう聞いたのが合図になったらしく、玄武は箸が畳に落ちたのにも気付かず跳ぶように居間から出ていった。
    ドタドタバタバタと足音がしたので雨彦が様子を見にいくと、すっかりずぶ濡れになってしまった玄武が同じように濡れて滴を垂らす雨彦の着物を抱えていた。

    「すっかり濡れてしまったな」
    「ごめんなさい。アニさんの大事な着物…雨で痛ませちまった…」

    謝る玄武は耳をしょげさせ目からは今にも涙がこぼれ落ちそうなほど悲しんでいる。その表情はまるでこの世の終わりのようだ。
    雨彦は手拭いを出すと玄武の前にしゃがみ込み、濡れた髪や顔を拭いてやる。手拭い越しに伝わる体温もすっかり冷え切っていた。

    「黒野、俺の目を見てくれ」

    雨彦に促され玄武は不甲斐なさで落ちてしまっている顔を恐る恐る上げる。

    「俺は怒っていると思うか?」

    そう聞く雨彦の瞳にはどこにも怒りの色は無く、目の前の自分を優しくしっかりと見つめているのは間違いなく、玄武は滴が雨彦にかからないように小さくふるふると首を横に振って否定する。

    「雨で濡れちまった着物はまた洗えば良いし、雨に濡れたぐらいで着れなくなるほど傷むことはないさ。それより」

    雨彦は自分の額を玄武の小さな額にくっつける。

    「お前さんに風邪をひかれる方がうんと困る」
    「ごめんなさい」
    「ほら、悪いことをしてないのに謝るのは無しって約束しただろ。今日は少し肌寒いからお前さんと一緒の布団に入るつもりなんだ。風呂に入って新しい着物に着替えて、ぬくいお前さんを抱っこさせてくれ」
    「うん」

    素直に頷いた玄武の目からは悲しみも涙もすっかり無くなっていた。

    2人が布団に入る頃には雨は一層強くなっていた。ゴロゴロと遠くで雷の音もする。灯籠に火を灯し、玄武は雨彦がいる布団に入った。

    「うん、やっぱりお前さんが入ると温かいな」

    そう嬉しそうに雨彦はすでに眠いのか隣で湯たんぽのようにポカポカと温かくなっている玄武の背中をトントンのあやす様に叩く。雨戸を叩く雨は依然として弱まりそうもないが、隣に玄武がいてくれたら途中で起きる事もないだろう。
    玄武が嫁いで来てくれてから、雨彦は一睡もせずに夜を明かすということが無くなった。里山の護主としての職務さえしていれば良いと何処か捨て鉢になって荒れていた生活だったが今や毎日が楽しい。現に周囲からは表情が柔らかくなったと言われるようになった。
    あの日、別の里山から追われてきた子兎を気紛れだったとはいえ拾って、今日まで一緒に暮らしてきたのは間違いではなかった。
    玄武を愛おしく思うと同時に、もし彼を失ったらと考えしまい心がすっと寒くなる。

    「雨彦アニさん…」

    もうすっかり眠っている玄武が寝言で自分を呼んでいる。雨彦はその小さな存在に手を伸ばし自分の腕の中にいれた。
    玄武の脈打つ小さい鼓動、温かく幸せの象徴のような体温、雨彦は玄武の全てを享受し、どうか黒野玄武が消えませんようにと祈るように目を閉じた。
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