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    keram00s_05

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    keram00s_05

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    百合雨玄。ドロドロの百合ドラマに出る二人を見たいと思いつつ、書いた物です。オリジナルの劇中劇が具体的に出てきます。あ…さんはほとんど出てきません。

    #雨玄
    yuXuan

    花を踏みつけ貴女の影を追う。黒峯蝶子:玄武ちゃんの役。
    雨倉玲於奈:雨彦さんの役。


    『だって、先生は私のこと名前で呼んでくれたこと一度も無いじゃないですか!いつも、オヒメサマ、オヒメサマって!』

    保健室の一室で黒峯蝶子(くろみね ちょうこ)は呼び出した雨倉玲於奈(あまくら れおな)の腹部をカッターで刺した。

    『私は先生のこと好きなのに、ヴァイオリンを弾くことよりも好きなのに、なのに、先生は、私のことちっとも見てくれなくて…!リボンだって色んな子にあげてるんでしょう!?許さない!」

    怒りに任せて蝶子はカッターを持つ手に力を入れてさらに奥に入れていく。目の前の玲於奈が出血で咳き込むのも、吐血するのも構うことなく一方的に愛を叫ぶ。

    『大嫌いなのに、大好きなのやめられないの!だから、一緒に…!』

    玄武はそこで台本を閉じた。
    ソファーの上で膝を抱えて丸くなって、顔を伏せて考える。
    今読んでいたのは玄武と雨彦がW主演を務めるドラマの台本だ。全12話、そして今しがた玄武が読んでいた台本には11とナンバリングがふってある。

    日本最高峰の音楽学校を舞台に繰り広げられる女性同士の恋愛ドラマで、大まかなあらすじはこうだ。
    雨彦が演じる国際的にも有名な女性指揮者、雨倉玲於奈が学校に赴任してくる。日本の音楽界のさらなる発展に力を注ぐ彼女は、学校にいる若い才能を見つけ出し育てて行くのが講師として赴任してきた目的だ。しかし、心の内では、その才能を自分の元に囲い込む目的があった。
    彼女はヴァイオリン科に所属する生徒であり、100年に一度の逸材と名高い、玄武の演じる黒峯蝶子と出会う。
    弛まぬ努力と才能によって裏付けられた素晴らしい演奏とは正反対に世間知らずで垢抜けていない蝶子を気に入った玲於奈。
    気に入った奏者と体の関係を持ちたがる玲於奈の悪癖で蝶子は言われるがままに初めてを捧げてしまう。
    しかし、それが2人にとって地獄の始まりだった。

    このドラマの見どころは、ヴァイオリンしか知らない純粋無垢な少女そのものだった蝶子が玲於奈によって狂わされて、暴走していくところで、恋愛ドラマと見せかけたサスペンスドラマである。
    監督と脚本家の思惑通り、女性同士の美しい恋愛ドラマが観れるだけだと侮っていた視聴者はドラマ全体を包む不穏な空気に度肝を抜かれ、虜になり、視聴率も良いとの事だ。
    このドラマの肝でもあるだけに、この11話に辿り着くまで蝶子は驚く程に人が変わった。
    当初絵に描いたような「お嬢様」だった彼女は恋を知り、嫉妬を覚え、他者に攻撃することを身につけてしまった。
    5話では玲於奈が鞍替えしようとした女子生徒の顔を引っ掻き、8話では玲於奈が見ているのを知りながら、自分に密かに好意を抱いている男子生徒を誘惑した。
    大人しくヴァイオリンだけが取り柄だったはずの彼女が激情のままに叫び、他人を攻撃し、物を壊す。
    物語の登場人物も視聴者もその変わり様に唖然とするが、玄武は演じて、蝶子と一体化して、感じるのは、この狂乱の姿にこそ本当の彼女なのだということだ。
    彼女は生まれながらにして凶暴な怪物で、今までは両親が手厚く保護して彼女の怪物としての本能が目覚めないように、「お嬢様」という入れ物の中に封じ込めていたに過ぎない。玲於奈がその入れ物を壊したことにより、蝶子は長きにわたる抑圧から解放されたのだ。
    とはいえ、蝶子を演じることは憑依型の演技をする玄武の魂を着実にすり減らしてくる。すり減った部分には蝶子が入り込み、実際に撮影が始まってからの玄武は気分の浮き沈みが激しくなっていた。朱雀とプロデューサーが心配して、カウンセラーをつけることも検討してくれているほどだ。
    あと5話だから大丈夫、あと3話だから大丈夫、そう言って精神が健康であると相手にも自分にも嘘をついてきたが、先程の台本を読んで、思わず声に出して自分の言葉にした時、玄武は胃から酸っぱいものが迫り上がってきたのを感じた。それと同時に雨彦に会いたいと強烈に思った。それには憎しみと愛しさが交じり合っていた。

    「私のこと全然名前で呼んでくれないじゃないですか…。オヒメサマ…オヒメサマって…」

    一回で覚えてしまったこの台詞を再度声に出すと胃がキリキリする。
    蝶子は玲於奈に初めて会った時から「お姫様」と呼ばれていた。
    この呼び方は最初こそ純真無垢な蝶子の心を強くときめかせたが、次第に馬鹿にする意味合いが含まれ蝶子を傷付ける凶器になり、蝶子が自分は玲於奈にとって特別な存在であると盲目的に信じ続けるための呪いに変容し、今では彼女を酷く苛立たせるようになった。
    私はお姫様なんかではない。
    黒峯蝶子という1人の女だ。
    玄武の中の蝶子が暴れ回るのを感じた。
    ふと雨の音がして玄武は窓を見る。
    天気予報では曇りのち雨になると言っていたが、とうとう降り始めたようだ。雨が窓を叩き、これまでの自分では手に取りもしなかった淡い水色の可愛らしい部屋着を着た玄武が写る。

    「そういえば、貴方も、名前で呼ばれたことないよね…」

    窓に写った蝶子はポツリと呟く。
    それを聞いて眉を顰め窓を睨む玄武に蝶子はふふふっと楽しそうに笑った。
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