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    keram00s_05

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    (2/5)2人が大人になってから出会って、最初だけさん付けで呼び合うの見て~採血して~って思いながら書いたバイクショップ店員×看護師の朱玄です。個人的な趣味です…くんに顎髭があります。ご査収ください。(2/3) 「##採血」でまとめます

    #朱玄
    zhuXuan
    ##採血

    また会うのは一年後その人とは年に一回だけ会える

    「お願いします」

    そう言いながら出された受診票を受け取り俺はホッとしてしまった。
    良かった。今年も来てくれた、と。
    彼はこの病院がある町のバイクショップの店員で、毎年一度こうして健康診断に来る。

    「紅井朱雀さんですね。どうぞ座ってください」

    俺は受診票から顔を上げて本人かを確認するふりをして彼を見る。本当は名前も顔もすでに覚えている。赤い髪に男らしさの溢れる精悍な顔立ち、色気のある顎髭。力仕事が多いことが容易に分かる筋肉のついた逞しい体。

    「両腕を見せていただけますか?」

    俺が声をかけると、彼は腕を俺の前に差し出してくれる。所々に傷はあるけど色気のある太さの腕にうっとりしてしまう。
    どちらの腕の血管も太くて採血するのに困らないほどだが、俺は少しでも彼との時間を引き延ばしたくて彼に触れたくてわざと触診して、どちらの腕で採血するか決めかねるフリをする。

    彼のことはよく知らない。それでも俺はこの日を心待ちにしている。
    年に一度彼に会ってこうして触れることができる。
    好いた相手に触れるために看護師になった訳では決してないし、こんな馬鹿げたことを口にすれば軽蔑されるに決まっている。でも俺は目の前にいる人が好きでこの日が好きだ。

    俺が知っているの彼は紅井朱雀という名前でこの町のバイクショップに勤めているということ。歳は俺の一つ下、そして、彼は優しいということだ。
    別に俺自身が彼に助けてもらったということではない。曇華一現なんて以ての外だ。それでも、俺はこの病院に怪我や体調不良で来た彼が、自分のことはそっちのけで周囲を助けているのを度々見ている。腕を怪我しているのに、怪我をしていない方の手でお年寄りの荷物を持ってあげたり、風邪をひいているのに傘を忘れた子供に自分の傘を貸しているのを遠くから見ていた。
    だから彼は温かみのある男だと知っているし、素直に尊敬に値する男だ。

    「太い血管…。うん、今年も左から採りましょう」

    指先から伝わる彼の血が流れているという証拠に俺は安堵のようなものすら感じてしまう。気が緩んだせいか、利き手も確認せずに「今年も」と言ってしまった。我に返り気持ち悪がられていやしないかと確認するも、先程の俺の言葉に何も気付いていないようだった。

    「左手が利き手だったら右でも採れますから遠慮せずに言ってください」

    あくまでもさりげなく確認するフリで誤魔化すと彼は大丈夫ですと言って、腕を台の上にどっかりと乗せた。
    いくら恋心で浮かれていると言えど、注射を扱うときは慎重になる。目の前にいるのが意中の相手だろうと関係なくミスなく行うことだけを考える。俺は背筋を伸ばして気を引き締め、採血の準備を進める。
    彼の腕を消毒して、声をかける。

    「少しチクッとしますよ」

    血管に針を刺す。その刹那だけ彼の眉間に僅かに皺が寄る。
    採血管に溜まっていく血は健康的な色をしており、偏食などによる悪影響も見られない。俺はちらりと彼の受診結果を横目で見る。どれも成人男性として健康的な数値だ。医者いらずの体だから病院に来ることは滅多にない。つまり俺が彼を見る機会はほとんど無いということだが、彼が健康なら俺はそれで良い。こうして来年もまた来てくれればそれで良い。
    俺は次の採血管に換えて、椅子に座り直す。来年まで見れないのだから少しばかり彼の顔を見ようと盗み見たつもりが、しっかりと目が合った。俺はとっさに笑顔をつくり誤魔化す。

    「もうすぐ終わりますよ、紅井さん」

    すると彼の顔はぱっと明るさを帯びた。そんなに注射が苦手だったのだろうかと思っていると彼はニコッと俺に笑いかけてくれる。

    「いつも上手だからあっという間ですよ」

    俺は彼の言葉に耳を疑い、そして頭の中で何度か反芻して飛び上がりそうになった。
    彼は「いつも」と言った。つまり、俺を毎年採血を担当している看護師だって覚えてくれているのではないだろうか。毎年一回だけしかこうやって向き合う機会が無いというのに、それでも彼は俺のことを知ってくれていた。こんな嬉しいことなんてあるのだろうか。
    諦めかけていた恋心に少しだけ欲が出てきてしまう。
    注射針を抜き彼の腕に絆創膏を貼る。
    また一年後、なんて今の俺には耐えられなかった。こんな千載一遇の機会なんて無い。職務中だが幸いこの部屋には彼と俺だけだ。
    俺は受診票を彼に返して、口を開いた。

    「あのっ」

    信じられないことに二つの声は重なって、そして俺と彼の間にあった受診票が皺くちゃになるほど力強く俺は彼に手を握られた。
    彼の優しさをそのまま伝えてくるような大きな手に心臓が強く脈打ち、俺は自分が次に何と言おうとしていたのかを忘れてしまった。
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