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    suzugarinnrinn

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    suzugarinnrinn

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    ハンドクリーム無駄遣いすな ぜんぜんえちちではないです そういう話題なだけです

    #常ホ
    regularHall

    ハンドクリームハンドクリーム

    ぷつ、と血液が指の股を通った。
    小さい傷ほど、なかなか痛い。
    「深くきれたね」
    首元に、やわらかい息がかかった。
    常闇は、声の主のもとへ、ゆっくりと振り向く。
    「初めてだ」
    痛そう。
    ホークスは、そう呟いた。
    そのなかに、いくらかのつまらなさを含んでいるのを、常闇は察する。突然の至近距離からの声に素直に反応しなくなったことを、歓迎してはいないようだ。
    ああ何度も経験すれば誰だって、いやでも慣れると思うのだが。
    「こういうのは…絆創膏か」
    「はい、これ」
    差し出されたそれを、常闇は礼とともに受け取った。急に声をかけられるのと同じように、出来すぎの三分クッキングも、いちいち驚いていては身が持たない。
    「最近急に寒くなったからね」
    ホークスは、流れるような手つきで再び常闇から絆創膏を取り返した。
    剥がされたフィルムはゴミ箱へ。勝手気ままな男は、あかぎれをやさしく塞いだ。
    「感謝する」
    そっと中指を曲げ伸ばししてみる。絆創膏を貼ると、痛みが大分やわらぐのはなぜだろう。

    からから、とコンクリートで枯れ葉が踊る。遠慮がちな日光が部屋に満ちて、今年の役目を終えたエアコンは沈黙していた。細くあけた窓から、子供の声が聞こえる。
    この時間なら、学校帰りだろうか。
    午後二時。いや、なにか特別な行事があるのかもしれない。
    「他の指も怪しいな」
    気づいたら左手をとられていた。言われてみれば、たしかに指は白く乾燥しているし、関節あたりは赤らんでいる。
    赤い羽がひとつ、徒に手の甲を撫でる。
    常闇は、やはりされるがままにしていた。
    「なにか塗布するべきなのだろうか?」
    「これもらったやつ」
    材料はこちらです。こちらが食べやすい大きさに切ったもの、こちらが下味をつけたもの、こちらが二日間寝かせたもの、こちらが火を通したもの、そしてその間に作ったソース、はい、完成です。色どり豊かで、美味しそうですねえ。
    エプロン姿のホークスが、にっこりとしている。
    助手は、いろいろのみこんで黙っている。
    「全然ベタベタしないんだよ、これ」
    乳白色が、自由な男の手に押し出された。つまり、あと残った二分四十秒、尺をどうしようかと考える弟子の手ではない。
    ハンドクリームを塗る習慣がないホークスがここまでなのだから、良い商品に違いない。
    「八百万が広告の」
    「そそ…ほら」
    ホークスからそのチューブを受け取る準備をしていた左手は、評判の良い乳白色に包まれた。そのクリーム越しに、たしかにあたたかい人の温度が滲む。
    「な、」
    びくりとしたのに構わず、ホークスはクリームを塗り広げた。
    いくらベタベタしないと銘打っても、塗布直後は滑りをもつ。色違いの肌が、べつの生き物のように蠢動している。
    ホークスの両手に蹂躙される自身の左手から、目が離せない。
    にち、と粘着質な音がする。指と指が、はさんで、はさまって、からみあって、なぞりあう。ぎゅっと掴まれて、こつ、と関節の骨同士が甘やかにぶつかる。
    なにを隠そう、恋慕の人の手のひらが、常闇の熱をあげて、こもらせる。心臓の打つ音が手にまで響いて、情けなく思った。
    きっと貴方には筒抜けだろう。
    もう勘弁してくれと手を引くその前、ホークスは突如、獲物を解放した。
    「ね?」
    愛嬌のある眉毛が、試すように上がった。
    「……ああ」
    両手を擦り合わせてみる。
    あっという間にサラサラして、そしらぬ顔で爽やかに、淫靡な香りはなにもしない。まさに目の前の男のようだ、と思う。
    こちらの気をわかっていて、ひどいことをするものだ。
    玩具にされた左手を右手で労わると、左手のほうがずっとすべやかで健康的で、小憎たらしい。
    パチ、と微かな音がした。
    そのわけを知った常闇は片足を引き、ホークスは片足を進める。
    さらに追加の乳白色が、健気な弟子を嘲笑っていた。
    「出しすぎちゃったから」
    昨夜、二人で見ていたバラエティ。
    人によって許容の程度が大きく分かれる、ボディタッチ。どうにかして触れ合いたい、必死な欲求を満たすとも満たさざるとも。
    『出しすぎちゃったから、もらって』
    これ潔癖の人キツそう、と彼は言った。
    ホークスの、肯定も否定もしない、ただリベラルな感想。
    好きだ、と心の中で呟きながら、温い缶ビールを煽った。苦い。
    そうだな。
    もっともらしい相槌を打ってみる。
    しかし、その同意は文面どおりのものでなかった。恋の苦しさを分かってしまっている自分には、肯定も否定もできはしない、という意図だった。
    それを、貴方が言うか。
    あっという間に、常闇の左手はまたからめとられた。手から響く音はあきらかに悪化している。おう、お帰り。あ、佐野のおじさん、ただいま。給食袋のなかで、からからと箸が転がっている。サッカーボールが弾む。車が曲がります、ご注意ください。鳩が、平和に鳴いている。
    昼の模範生では覆いきれない、悪い音。
    貴方が教育した聴覚のせいだ。
    ふたたび滑りの良くなった指同士がぐちゃぐちゃに絡んで、白かったクリームは透けていく。てかったそれから、連想するなという方が酷ではないか。
    鎮まりきらないままだった劣情を駆り立てられて、常闇はただただ焦った。
    勢いあまって、互いの手首にクリームが付く。
    甲にかるく爪が立てられて、う、と喉が震えた。
    予期せぬ波動攻撃に、可哀想な弟子は手を振り解けない。
    手どころか、触っていない場所がある方が、珍しいくらいの関係だというのに。
    すべてを理解して、わざわざ「出しすぎちゃったから」と言ってくる男のアンバランスさに、常闇は奥歯を噛んだ。
    「その気になった?」
    ホークスは、この日初めて「それらしい」顔をした。口端を片方だけおしあげて笑み、瞳は妖しく輝いた。
    「どう?」
    いつも通り、その表情はぱっと消えた。飛んでしまった風船を子供に返すのと、同じ笑顔で尋ねてくる。柔らかい日光が、「ホークス」をより完璧にする。
    ──ああ、貴方も。
    常闇は、少し安心した。
    ホークスの願望。やりたいこと。やってほしいこと。
    そうか、揶揄っているだけではなかった。自分だけが「そんなつもり」で、彼との温度差があまりにも大きかったら、どうしようかと心配していた。
    だが、彼が「そのつもり」であるという信号を、常闇は正確に読み取った。
    それならば、もう少し分かりやすく言ってほしい。
    というのは、高望みだろうか。
    すこしばかり、自分のように困ってくれたらいいのに。
    「何と答えてほしい?」
    平坦な声で、首を傾げた。
    貴方の意思を知りたい。
    仕返しの意図はと聞かれれば、もちろんある。
    手首までのばされたクリームは、今まさに、すべて吸収された。
    きっとあなたも夢中になる、サラサラ肌。
    そう言って清らかに微笑む同級生を思い出した。
    ぬめりの消えた手で、指を絡ませれば多少の抑止力になるのかもしれない。
    除け者にされがちな摩擦力も、実際かなり役に立つ。
    例えば、今とか。
    「質問を質問で返さないでよ」
    ホークスは、手を繋いだまま肩をすくめた。その質問の内容が内容だというのに、本人は汗ひとつかいていない。そんな気は一ミリもない、健全で親しみやすくて、お天道様のお気に入りでございと主張している。
    これに、何度惑わされたことか。否、現在も立派に惑わされている。
    「では、年下をいたぶるのは程々にしてくれ」
    右足を出してみる。ホークスは左足を引いた。
    「嫌ならやめるけど?」
    二歩進んで、二歩退く。薄く笑う唇が、わずかに色づいている。
    「嫌ではない」
    口では勝てまい。結局、正直でいるしかない。
    ホークスが「その気である」という確信をふまえて、正直でいるしかない。
    「それと、俺はその気でいる」
    絆創膏を貼った手が、腰をゆるやかにかい撫でた。
    健全さよ、さようなら。貴重な休みに、昼も夜も関係あるか。
    貴方が優等生の仮面をかぶったままでは、こちらは無闇に手出しができない。
    従順で、優秀な狗となろう。貴方が良しと強請るまで、俺は待てをしていよう。
    「貴方はどうしたい?」
    また一歩退いた足が、テーブルにぶつかった。
    どうせなら壁に追いやるのだった。
    余裕もないのに、常闇は冷静ぶって一丁前に後悔した。
    「…きみと同じ?」
    ばいばーい、じゃあねー、また明日ぁ。
    軽い足音、揺れる筆箱。
    二人は、その音を捉えていた。
    けれども、意思を持って、につかわしくないことを選んだ。
    穏やかな午後。
    カーテンが秋風にたなびいた。
    「それは、どういうことだ」
    常闇は、テーブルの下に足の裏をつっこんだ。耳を啄んでしまいたいという欲求を押しのけて、背筋を嬲る。
    ぁ、と声にもならない振動が、近すぎる距離を震わせた。
    服の下には意地でも侵食してこないことを、師は痛いほどよくわかっていた。
    「『風になっている』きみ、戻ってこーい…」
    諦めの悪い狗は、「良し」をずっと待っている。
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