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    さまなし

    @3ma4u774

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    【ゼン蛍】それは嫉妬か、それとも
    2023/02/18にTwitterに投稿した話です。

    #ゼン蛍
    #hailumi

    【ゼン蛍】それは嫉妬か、それとも カーヴェが家に戻ると、既に陽が落ち始めている時間だというのに明かりが灯されていなかった。この家の主は今日一日家にいると聞いていたのだが出かけてしまったのだろうか。
     まぁどちらでも鍵を持っている自分には関係がない。居ないなら居ないで静かに模型作りに精が出るものだ。と、勝手知ったるなんとやらで鍵を開けようとして、鍵がかかっていないことに気付く。不用心だなと思いつつ中に入ると、玄関からすぐの右手のソファに家主――アルハイゼンの姿を見つけた。外から見た通り明かりもつけず、しかし黙々と手にした本を読み進めているようだ。
     確かにまだ読めない暗さではないが、集中しているからと言ってもこれはいただけない。スイッチに手を伸ばしながら小言を言ってやる。
    「いくら君でも目を悪くするぞ」
     部屋全体が明るくなり振り向いて、ようやくそこにいるのが彼一人ではないことに気付いた。
    「……そこにいるのは旅人か?」
     背格好を見ただけならば旅人以外の誰でもないのだが、いかんせん今の状況が受け入れられなかった。彼の友人だと思っていた少女がご丁寧にブーツを脱ぎ、横になれるほど広いソファに文字通り横になって寝ているのだ。
     ――彼の膝を枕にして。
     うっかり寝てしまって肩を借りる程度ならそこまで驚きはしなかっただろう。しかし今の状況は彼が許していなければ絶対にあり得ないことだ。こんなことをただの友人の立場で許すものだろうか。
    「まさか、2人は付き合っているのか?」
    「一体いつからそんな仲になったんだ」
    「言ってくれれば祝福の言葉くらい贈ったのに」
    「そういえばパイモンはいないのか?姿が見えないが」
     全て無視。大体明かりをつけた時点で帰ってきたことには気付いているはずだし、この男はよくヘッドホンの遮音機能を使って一切を遮断するが、テーブルの上にヘッドホンがあるのは確認済みだ。これを無視と言わずして何と言う。
    「一言くらい返事をしてもいいじゃないか」
    「……煩い。彼女が起きる」
     大きな溜息と共に漸く声を出したかと思えば彼女を気遣う言葉。まさか今までの沈黙は彼女を思ってのことだというのか。そこでハッとした。明かりもつけずにギリギリの暗さでも本を読んでいたのは。
    「まさか彼女を起こすのを嫌って暗い中本を読んでたのか?」
     明かりをつけるには立ち上がらなければならない。しかしそうすれば彼女を起こすことになるかもしれない。そんな行動が、この目で見ても信じられなかった。
    「君にそんな人を気遣う行動が出来るなんてな」
     皮肉も込めて言ってやればここで初めてアルハイゼンと目が合う。少し苛立ったように見えるのは気のせいではないはずだ。
    「用が無いならさっさと部屋に行け」
    「そんなの、僕がどうしようと勝手だろ」
     用など露ほどもなかったがここであっさり部屋に戻る気になれず、フンッ、と敢えて向かいのソファに座るカーヴェに、アルハイゼンも隠そうともせずに舌打ちをした。
     するとそんなタイミングで蛍がもぞもぞと動く。起こしてしまったかと二人が息をひそめてその動きを追っていると、体を小さく丸めて再び小さな寝息が聞こえてくる。とりあえず起きなかったことに安堵して息を吐いたカーヴェだったが、いきなり立ち上がったかと思えば先ほどは一切戻る気配が無かったにも関わらず真っ直ぐ部屋へ向かい、そしてひざ掛けを手にして戻ってくるとそっと蛍に掛けた。陽が落ちれば流石に気温も落ちて肌寒くなってくる。大した防寒にはならないがないよりはましだろう、と。
     が。
     アルハイゼンは手にしていた本を置いたかと思えば、そのひざ掛けを引っ掴むとカーヴェに投げてよこしたのだ。
    「なっ!」
     思わず声を上げたカーヴェを無視して、蛍の上体をゆっくりと起こす。流石に目を覚ましたらしく、蛍から小さく声が漏れたのを聞いた。
    「……あるはいぜん?」
     まだまどろみの中にいる蛍の頬を、アルハイゼンは指で撫ぜる。そのまま頬にかかった髪を耳にかけてやり。
    「部屋に戻る。君はどうする?」
     選択肢を与えているようで、この場に置いていく気はないだろうという確信がカーヴェにはあった。本当ならば起こすことなく抱き上げたかったのだろうに、起きてしまったが為にとりあえず聞いてみたのだと。
    「……い、しょに……いく」
     そしてそれが当たり前のように、蛍は両手をアルハイゼンに伸ばした。アルハイゼンが上体を近付けるとその両手を首に回し密着する。その腕に力が入ったのを確認してそのままゆっくりと立ち上がると蛍もそのまま吊り上げられ、完全に立ち上がる前に蛍の膝裏に腕を差し入れ抱き寄せると、反対の手で器用にヘッドホン、読んでいた本、ブーツと掴み上げこちらを見ることなく自室へと姿を消した。
     一方カーヴェは呆気に取られてひざ掛けを手にしたまま立ち尽くし、外に買い出しへ出ていたパイモンがカーヴェが帰ってきてしまったために締め出される形になってしまい「おーい開けてくれよー」と戸を叩いて声を掛けるまで、アルハイゼンの部屋の方を見つめて動くことが出来なかったのだった。
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    amelu

    DONE2024年アルハイゼン誕生日ゼン蛍。
    とあるきっかけと周りの後押しで急接近した二人のおはなし。
    光を抱く巨樹 不可抗力ではあったが、アルハイゼンは蛍と抱き合った。
     それは、真昼の往来で起きた、些細な事故に過ぎない。
     だが、あの小さくしなやかな身体を自分の腕に収めたときから、アルハイゼンの日常は複雑に縺れてしまっている。
     業務の合間に教令院を出て街中へと下りてきたアルハイゼンは、不意に曇りなく晴れ渡った暑い青空を見上げた。白い鳥が旋回するように飛んでいる。まるで、あの日のような光景だ。もっとも、あの日に真っ白な翼を広げて空を舞っていたのは、鳥ではなく蛍だったのだが。
     あの日は、風が荒れていた。ヤザダハ池の桟橋からの坂道を上りきったところで、アルハイゼンは上空を緩やかに滑空する白い影に気が付いた。その影の大きさから鳥でないことはすぐわかったが、それが彼女であることに気が付いたのは一瞬遅れてだった。突風が吹きつけ、乱れた前髪がアルハイゼンの視界を奪う。指先で払って再度見上げたときには、翼の制御を失った白い影が回転しながら勢いよく落下しているところだった。体勢を立て直すには低空すぎる。あとは如何にして着地の衝撃を和らげるかだ。目測だが、このままでは建物に衝突する可能性もある。彼女ならば咄嗟に身を翻して避けられるのかもしれないが、予備策の有用性について検討する前にアルハイゼンは石畳を蹴っていた。
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