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    リプきた台詞でSS書くタグより、「もっとして」

    #ゼン蛍
    #hailumi

    【ゼン蛍】もっとして「一度休憩を挟もう」
     そう言って立ち上がったアルハイゼンに続いて私も立ち上がる。
     数日前、スメールに戻ってきた私はアルハイゼンの休日に合わせて彼の家に訪れていた。カーヴェとパイモンは私たちに気を遣って明日までいない。
     とはいえ恋人らしいことをするわけでもなく、フォンテーヌで手に入れた古書を一緒に読み、時々フォンテーヌでの出来事を話しながら二人きりの時間を過ごし、そして今キリがいい所まで読み終えて休憩をしようとコーヒーを淹れるためにキッチンに立った。
     火を熾すアルハイゼンの側でフォンテーヌで手に入れたレシピで作ったお菓子とコーヒー豆を用意し、コーヒーミルを、と手を伸ばしていつも片付けている場所に無いことに気付く。
    「アルハイゼン、コーヒーミルってどこにあるの?」
    「あぁ、それなら上の段に移動させた」
     そのまま視線を上げると確かに見慣れたものがそこにあった。手を伸ばしてみるけど少しだけ届かない。
    「変わろう」
     そう声を掛けられ彼の手が肩に置かれる。瞬間、私は反射的にその手を払い距離を取っていた。しまったと思った時にはもう遅く、驚きに目を開いたアルハイゼンは払われた手をそのままにスッと目を細めるといつもより低い声で言う。
    「何があった」
    「別に、」
    「蛍」
     なんでもないよ、と言いたかったのに、ただ名前を呼ばれたそれだけで言葉を続けられなかった。何かがあったのだと確信しているアルハイゼンが知りたいのは起きた事実だけ。それがどんなに大したことじゃなくても、彼が事の顛末を聞かないという選択肢はない。そうさせたのは自分なのだけれど。

     前回のスメール滞在時、戦闘中に酷く背中を打ち付けた。いつもより痛みが酷い感じはしたけど、そのうち治るだろうと何の処置もしないでいた。そんな時にアルハイゼンとぶつかる事故があった。勢いとしてはよろめく程度だったのに、多分肘か何かが当たったんだと思う。その何かが運悪く打ち付けた場所にクリティカルヒットしてしまい、思った以上に大きな声が出てしまった。アルハイゼンと言えどさすがに何があったと聞いてくる。
     それに対して私は少し背中を打っていること、それが痛かっただけだから大丈夫だと答えたけど、それにしては大きすぎる私の声に疑問を抱いたのだろう。少し強引に見せてみろと迫られ、仕方なく背中を見せた。
     そこからのアルハイゼンの行動は早かった。手を引かれあっという間にビマリスタンに。背中を見た先生の開口一番が「これは酷い」だったので、自分では確認出来なかったけど余程酷い状態だったんだと思う。それ以降、きちんと何があったのかを確認してアルハイゼンなりに大丈夫と判断しない限り追究は終わらない。

     私的に今回のことは本当に大したことじゃなかったから話すつもりもなかった。余計な心配をかける必要もない。けれど何かがあったことがバレてしまった以上、隠し通すつもりもないので素直に何があったのか答える。
    「大したことじゃないんだよ。スメールに戻る前にフォンテーヌから璃月に荷物を運んだんだけど、着いたときには大分夜も更けてて。色んなお店が閉まっちゃってたから酒場で夕食をとることにしたの。そしたら隣のテーブルで食事をしてた男の人がトイレから戻ってきたらいきなり抱き付いてきて」
    「抱き付いてきた?」
    「うん。凄く酔っ払ってて一緒に来てた奥さんと見間違えちゃったみたい」
    「それだけか?」
    「え?」
    「それだけじゃないだろう」
     確かにこの話には続きがある。けどどうしてそれが分かるんだろう。この先の出来事が一番心配をかける可能性があったから、これで納得してくれたら良かったのに。
    「えーと……抱き付かれて、奥さんの名前を呼びながらキスされそうになって」
    「ほう」
     確実に周りの温度が下がった。表情こそ変わらないものの、彼を纏う気配が鋭い。
    「それが大したことではないと?」
    「だ、だって奥さんと間違えちゃっただけだし、キスもされそうになっただけで実際にはされてないし。それに後で凄く謝ってくれたから」
    「それでも、君は反射的に俺の手を払ってしまうほどの心的外傷を負っているようだが」
    「それは、さすがにしばらくは警戒しちゃうっていうか」
     逆に警戒しなければ怒るくせに、とは流石に言えない。でも今回ばかりは反応しないままでいたかったけど。
     お互い黙ったままで少し気まずい。少しの間そのままでいると、パチン、と火の粉がはじけた。それに触発されたようにその場の空気もはじけ、無意識に詰めた息を吐き出す。
     アルハイゼンは私から視線を外して火の調子を見ると、また私に向き直った。
    「今から君に触れる」
    「え? う、うん」
     突然そう宣言されて少しだけ緊張に体が固まる。
    「手を」
     慌てて両手を差し出すと、下から掬い上げるように手が触れる。私なんかとは比べ物にならないくらい大きな、大人の男の人の手。すぐにアルハイゼンの体温が移り、私の手はぽかぽかと熱を持つ。軽く力が入ると私の手は彼の手に包まれ、手の甲に親指が触れた。優しく撫でるような動きをされて少しだけくすぐったい。そんなことをされているうちに緊張も解けていた。
     それからゆっくりと手を引かれ、吸い込まれるように彼の腕の中に閉じ込められる。何をされるんだろうとドキドキしながら続きを待つと背中に腕が回った。いつもよりほとんど力の入っていない、ほんのり触れ合っているだけのような抱擁。
    「……アルハイゼン?」
    「怖くはないか」
     その問いにアルハイゼンが何をしたかったのかが分かった。私が強がっているのではないか、それを確認したのだ。例え本心から大したことじゃないと言っていても、体がそう感じているとは限らない。触れると宣言した上でそれでもなお体が拒絶反応を起こすようなら、それは完全にトラウマを負っているということで。
     彼の背中に腕を回してぎゅうと抱き付く。
    「大丈夫。全然怖くないよ」
     さっきまでほとんど力の入っていなかった背中に回った腕に力が入り、右手が後頭部に回ってこれ以上隙間がないくらいに抱き締められる。頬を摺り寄せ大きく息を吸えば、大好きなアルハイゼンの香り。とくとくと規則正しく動く心音が心地よい。
     しばらくそうして抱き締め合っていると、お湯が沸いているのに気付いた。
    「アルハイゼン、お湯、沸いたよ」
    「そうだな」
     けれど少しも離れる気配はない。その間にもポットはシュンシュンと音を立てて火にかかっている。さすがにこのままでいるわけにはいかない。
    「お湯、無くなっちゃう」
     もう一度声をかけると今度はゆっくりと体を離してくれる。けど自分から言ったのにそれが名残惜しく思ってしまった。そのまままた火に向き直るのかと思ったら、アルハイゼンは完全に離れることなく言った。
    「このまま、コーヒーを淹れるのも悪くないが」
     右手がゆっくりと私の頬に触れて軽く撫ぜる。
    「俺はもっと君に触れていたい」
     私だけを映す瞳が、私を求めるその言葉が、ぎゅっと私の胸を締め付ける。疑いようのない想いにただでさえ離れがたく思っていた気持ちが強くなって頬に触れる手に手を重ねた。
    「うん、もっとして?」
     確かめるための触れ合いじゃなくて、欲しがって、奪って、与えて欲しい。
     頬に触れていた手が重ねていた手を掴み引き寄せられると、アルハイゼンはその手の平に唇で触れた。それから今度こそ離れて火の処理をする。その間に私も戻せるものは元に戻してアルハイゼンを待った。折角お湯が沸いたのに少しだけ勿体ないと思いつつも、早くアルハイゼンに触れて欲しい気持ちは抑えられなくて。
     火の処理を終えた彼がこちらを向いた瞬間に抱き付く。軽く頭を撫でられると抱き上げられ、お互いの視線がぶつかるとどちらからともなく唇を重ねた。何度か離れては触れてを繰り返し、少し息が上がったところでまた視線を交わす。
    「……もう終わり?」
    「まさか。君だってそんな風に思っていないだろう」
    「うん、言ってみたかっただけ」
     ふふっと笑って軽く触れるだけのキス。首に腕を絡めてあとはお好きにどうぞと身を任せる。
     ――しっかりと抱き上げられたまま連れていかれた寝室で、まさかそのまま朝を迎えるとは思っていなかったけれど。
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