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    さまなし

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    【ゼン蛍】それは自分だけの

    #ゼン蛍
    #hailumi

    【ゼン蛍】それは自分だけの その日アルハイゼンが塵歌壺に赴くと、何やら邸宅内が騒がしかった。ここの主が認めた者しか入れない為、不法侵入者の類ではないだろうが邸宅の前にいるマルに近づく。
    「おや、アルハイゼン様。ようこそいらっしゃいました」
    「何やら騒がしいようだが、何が起きている?」
    「今日は蛍さんが模様替えを始めたようですよ」
     なるほど、と知らずうちにしていた警戒を解いて邪魔をするとマルに一言掛けて邸宅内に入ると、小物を抱えた蛍の姿がすぐに目に入った。蛍の方も室内に入ってきたアルハイゼンの姿を認めておはようと挨拶をする。
    「アルハイゼン、もしかして今日はここを利用するつもりだった?」
    「あぁ、少し書斎を借りたいのだが」
    「書斎……」
     ぽそっと呟いて書斎の方へと視線を向けた後、アルハイゼンに向き直る。
    「書斎自体を使うのは全然問題ないんだけど、今日は模様替えを始めちゃっててうるさくなると思うの」
    「構わない。邪魔をしているのはこちらの方だ」
    「そう? アルハイゼンが気にしないなら何も言わないけど……あまりにもうるさかったら言ってね」
     おーい蛍ー、と奥の方からパイモンの声がかかり、今行くよと返答をした蛍は、何もおもてなしできなくてごめんねと謝ってパタパタと足音を鳴らしながら去って行く。その後ろ姿を見送ってアルハイゼンも書斎の方へと足を向けた。


    「……さて、と。これくらいでいいかな」
    「やっと終わったんだぞー」
     ふぅ、と蛍が息をつくとパイモンは近くのソファに体を投げ出した。気持ちはわかるなぁと思いながらお疲れさまと声を掛ける。
    「お腹すいたんだぞ……」
    「そうだね。お昼も少し過ぎちゃったみたい」
     キリがいい所までと頑張った結果、部屋の時計はいつも昼食をとる時間よりも少し遅い時間を指していた。意識してしまえば随分とお腹が減っているように感じる。
     お昼にしよっかと言えばご飯! と勢いよく上体を起こして一目散に調理場へと飛んでいくパイモンに小さく笑ってその後に続いた。そこでアルハイゼンが来ていたことを思い出す。
     彼はもう去ってしまっただろうか。もしまだいるとして、昼食はどうするのだろう。一言声を掛けてみるのもいいかもしれないと、パイモンに続いて調理場についた蛍は先に食べてて、とパイモンに言い残して書斎へと足を向けた。
     二度ノックをするが返答はない。帰ってしまったのかもと思いつつ書斎を覗いて蛍は目を見張る。そこには椅子に腰かけたまま転寝をするアルハイゼンがいたからだ。
     そっと扉を閉じて気配を消して側に立つ。それだけ近づいてもアルハイゼンが起きる気配はなかった。ゆっくりとしゃがみ込んで上を向くと、俯いたアルハイゼンの顔が良く見える。
     アルハイゼンが無防備に寝ているのを見てるのはこれで二回目だ。初めては彼が誕生日だと聞いて、お祝いの言葉を贈ろうとして赴いた先でのこと。
     その時はパイモンも一緒で、どちらが起こすか話し合ったものだ。結局言い合っているうちに彼は起き出して、その時はゆっくりとその寝顔を見ることなんて出来なかった。
     その後も、彼の寝顔を見る機会が無かったわけじゃない。恋人同士という関係になって夜を共にすることも増えた。けれど、一度としてアルハイゼンが蛍よりも後に起きることはなかった。いつも気付けば彼の方が先に目覚めていて、逆に蛍が寝顔を見られる始末だ。
    (……綺麗な顔)
     寝ているせいか今は少し幼く見える顔立ち。それでもとても綺麗だと、改めて思う。
    (……かっこいいなぁ)
     しゃがみ込んだ膝の上に組んだ腕を重ね、顔を乗せてじっとアルハイゼンの顔を見つめる。見れば見る程彼の容姿の良さに惚れ惚れとする。彼の容姿に惹かれて好きになったわけではないけれど、やっぱり好きだなぁと実感した。本人にはとてもじゃないが言えないけれど。
     本来の目的も忘れてその寝顔を堪能していると、アルハイゼンがゆっくりと目を覚ます。その瞬間しっかりと目が合いアルハイゼンの目が見開かれる。珍しいものを見たと蛍は知らず悦びを感じた。
    「おはよう、アルハイゼン」
    「……あぁ、おはよう」
     ふいっと視線を逸らされる。こんな態度を取られるのは初めてだったが、一つ思い当たることを蛍は伝える。
    「……もしかして照れてる?」
    「何か用があったんじゃないのか」
     あからさまに話題を逸らされ、蛍はふふっと思わず笑ってしまった。
    「何故笑う」
    「かわいいなって思って」
    「可愛いのは君の方だろう」
     思わぬ被弾だ。そういうことを恥ずかしげもなくさらりと言うから性質が悪い。蛍はさっと立ち上がると赤くなった顔を見られまいと背を向けた。
    「もうお昼過ぎちゃったんだけど、アルハイゼンも一緒に食べる?」
    「話を逸らしたな」
    「いらないんだね、分かった!」
     自分でも強引だとは思ったが、勢いそのままに書斎を去ろうとして扉の前で立ち止まる。
    「どうした?」
    「……出来たらでいいんだけど、ね、出来るだけこうやって人前で寝るの、避けて欲しいな」
    「……理由を聞いても?」
    「アルハイゼンは、私がどこで寝てても気にしない?」
     思わぬ返答に虚を衝かれたアルハイゼンだったが。
    「それは困るな」
     その言葉を理解して、ふっと笑った。
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