Mine.潔世一が何かしらを手中に入ることを許容し、願い、そして欲するものは片手で事足りるくらいであった。
まずは海老の形をした緩い人形。これは等の昔に卒業済みだ。
そして大部分を占めるサッカー。
サッカーに関しては欲すること、手中へと収めたいものは五万とあるが、一括りにしてしまえばサッカーだ。
自他ともに認めるサッカー馬鹿。青い監獄に居る者達は例外も居るがサッカー馬鹿の集まりであるから、これは珍しいことではなかった。
しかしこの欲はサッカーが関わってくれば捨てることも厭わない程の事柄でもあった。
メインがサッカーであるから、まず捨てる選択肢もほぼ無いに等しいのだが、その<サッカー>というステッカーが貼られた箱の中にはたくさんの欲と獲た宝たちが詰まっていた。
『自分よりトラップを得意とする者を凌駕する方法』という見出しのツリーを見てみれば、「ダイレクトシュート」「メタビジョンによる先読み」「相手の戦法の規則性」などの自分が手にするべき事柄やすでに手中に収めた事柄、それらが大切に飾られている。
潔はこの光景が好きだった。
まるでアマゾンのマングローブみたいに張り巡らされたそれらは自分しか解けない迷路のようだった。
同じようにこの景色を見た者は訳もわからずここを出ることなく野垂れ死ぬだろう。
それだけの経験と戦いを青い監獄で何度も何度も繰り返し繰り返し行ってきたのだから、易々と抜けてこられては困るのだ。それでも海を渡り、空を飛べばひょいと簡単にその迷路を抜ける者が多かれ少なかれ存在するのも確か。
潔は慢心することなくその森を、その迷路を大きく大きく広げていく。自分を壊し、自分を再構築することで迷路の道もまた増えていく。この行為に必要なものだけが潔にとって自分の欲する何かである。
そしてそれを選ぶのはいつも、潔自身であった。
そんなある日、ただ大きなマングローブの森の中に突然一つの生命が産み落とされた。
潔自身、知る由もないそれは勝手に育ち、勝手に森を支える大黒柱となっていった。一時的に招き入れた糸師凛という存在もこの根を急速に伸ばし、成長させる栄養素があったというのに、そこにとどまることなく消えていった。
それなのに、だ。迷路に入った瞬間にそれは自分の周りをぐるぐると駆け巡り、気付いたころにはゴールへ辿り着いている。道中の話も面白く退屈という言葉は一切出てこない。
なんて素敵で、頼もしく、そして尊い存在なのだろうと潔は嬉しくなった。それは他の者が立ち入っても潔以外に手を貸すことなく、潔だけがゴールへと一番乗りできる最高のパートナーとなった。
「黒名」
「黒名」
「黒名」
「なんだ、潔」
「いるぞ、いるぞ」
「潔」
名前を呼べば、視線を送れば、俺が動けば、応えてくれる、そこにいる。
俺を中心に動く、俺だけの俺の惑星。
青い監獄で出来た初めての味方に潔は執着した。しかしこの男はどこまでもサッカー馬鹿だった。
黒名が共闘を断ったとき、きっと未練もなくそれを安易に受け入れるだろう。