里の灯りは等に消え、墨を数滴溢したような暗闇が辺りを染めた。
腕の中で安心したようにすやすやと眠る愛し子を抱き、男は屋根を伝い、身を切るような冬の寒さなど気にもしないといったように早々と走る。
肌触りの良い毛布に包まれた愛し子は攫われたとも知らず、身を委ね、安堵しきったフクズクのように眠っていた。
筋骨隆々とした男の首筋から汗がつぅ、と流れていく。
遠い里から里へと駆ける男はとっくに消耗しているであろうに、その口元は弧を描き、瞳の蜂蜜がとろりと垂れていく。
不気味でゾッとするような笑みは、愛弟子が見れば怖がらせて逃げ出すほどだった。
「やっとだね、愛弟子。」
あまりにも長かったように思う。
愛弟子が、己が認知していない所で嫁いでいた所から、探し出し、こうして、愛弟子を助けるまでにかかったのはたったの半年位だったのだが。
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