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    🦀ウツハン、最初だけですが少しだけ…
    少し髪の毛を口にする表現があるので気をつけてください…

    里の灯りは等に消え、墨を数滴溢したような暗闇が辺りを染めた。

    腕の中で安心したようにすやすやと眠る愛し子を抱き、男は屋根を伝い、身を切るような冬の寒さなど気にもしないといったように早々と走る。

    肌触りの良い毛布に包まれた愛し子は攫われたとも知らず、身を委ね、安堵しきったフクズクのように眠っていた。
    筋骨隆々とした男の首筋から汗がつぅ、と流れていく。
    遠い里から里へと駆ける男はとっくに消耗しているであろうに、その口元は弧を描き、瞳の蜂蜜がとろりと垂れていく。
    不気味でゾッとするような笑みは、愛弟子が見れば怖がらせて逃げ出すほどだった。

    「やっとだね、愛弟子。」
    あまりにも長かったように思う。
    愛弟子が、己が認知していない所で嫁いでいた所から、探し出し、こうして、愛弟子を助けるまでにかかったのはたったの半年位だったのだが。
    己を番だと認識させあの男の呪縛から解いたがあの男のお陰で予定よりも早く救出する事ができたと言ってもいいくらいだ。
    やっと愛弟子と共に成れる、そう思えば駆ける速度が上がってゆく。
    感情が昂り、毛布越しに愛し子に頬擦りをして、再度、いつか見た赤子のような、あどけない寝顔を目に焼き付けるように見る。
    ………まったく、愛弟子は可愛いなぁ。
    愛しいが故に、あの男に攫われてしまった時には心に痛手を負った。
    今でも思い出すだけで虫酸が走る。
    「……本当、君も酷いよね。……でも、もういいか、君は俺の所に戻ってきてくれたからね。………そういえば、今日は綺麗な満月だね。ふふ、月も俺と愛弟子を祝福しているのかな?」
    そらを見れば、大きく地上を照らす、琥珀色をした薄気味悪い真ん丸の月。
    俺の悪事は全て見ているぞと言いたげな、忌々しげな、御月様。
    それから目を逸し、家の方へ足を止めずに駆けた。




    数時間、いやもっと長かったのかもしれないが、里から離れた山に囲まれた小さな家屋について、足を止めた。
    「………やっぱりこの周り、誰もいないな……まぁそれは好都合なんだけど……」
    冬は雪崩などの自然災害もあり、あまり山には人が住み着かないし環境生物や小型のモンスター等も冬眠に入っている為、ここを選んで良かったと感じる。
    雪の降りそうな暗雲が、あの天災の時の様に空を覆う。
    月は隠れ、天はとうとう愛弟子を見放したのか、と胸に仄かな背徳感を覚え、非常に愉快だった。
    自然と口角は上がり、鼻歌を歌いながら軋む引き戸を開ける。
    家屋には己の食料や薪が鎮座している。
    隠れ家の様な此処には、あまり多く物を置いていない。
    あるとすれば、寝床や簡素な竈くらいだ。
    食にはあまり関心が向かない為、これくらいで良いだろうと建てた時は思っていた。
    ………まぁ少し物が足りないかもしれないが。
    愛弟子が眠る毛布を解いて、寝床に何枚も重ねた毛布の上に、横たえる。
    それだけ見れば、噂伝いに聞く童話のおひめさまみたいだ。
    そのおひめさまのふわりと白い空に揺蕩う艶やかな黒髪はまるで天の川のようで、思わず息を潜めた。
    「あれ……?整えられてるな……切り方が酷かったのか……」
    髪を一房手に取ると、俺が雑に切ってしまった髪は伸びてあまつさえ整えられてしまっていた。
    多分、苦無で切ってしまったからだろう。
    あまりに酷すぎて強姦にやられたと間違えられたりしていなかっただろうか。
    ………まぁ、過ぎた事であるし、気にする必要もない。
    「……まぁ、あんな酷い出来じゃ、番にやられたなんて言えないか。」
    苦無の刃を傾け、髪に滑らせていく。
    誰かに整えられた髪は、あの男にやられたのかもしれないと考えると気分が悪くなり、やってられない。
    己の膝に落ちていく髪は、出合い頭の迅竜の黒毛のように見えた。
    つやつやと輝いていて、手入れをずっと怠らなかったのだろう。
    髪に蜂蜜が少し入ったオイルを塗っているのだろうか、甘い匂いがして、思わず切った髪を口にしてしまった。
    苦味が口の中に広がって、あまり美味しくはなかった。
    「………何してるんだろう、俺……疲れてるのかな……。」
    頭をガシガシと掻いて、袋に切った髪を纏め、竈の近くに置く。
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