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    Enki_Aquarius

    @Enki_Aquarius

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    ##イクリプス

    #6 先ほど聞いた話だが、美月がどうやら嫌な視線を感じ取ったらしい。ストーカーの類かと尋ねれば、個人を狙ったものではないと彼女は答えた。
    つまり、狙いは複数人、あるいは教師。または当校の何か。
     時期が時期だけに、見逃せない不信感であった。
     またそれに拍車をかけるように、幹比古も同じようなことを口にしていた。式を打っている、と。式とはつまるところ式神のような類。スピリチュアル的な存在。幹比古が扱う術式とは違うらしく、捕まえられないのだとぼやいていた。
     おそらく、この国の術式ではないのだろう。
    「だが、貴方はおそらく違うのだろう」
     達也は急に立ち止まり、その反動で後ろへとこけた。後ろを付けていた男ははっとした表情を浮かべて身を乗り出した。甘いな、と達也は思った。が、好機であることには違いなかった。
     いまだに地についていた右足に魔法を発動させ、こけた勢いをそのままに地面を蹴とばし、後ろの男のさらに後ろへと跳躍する。
     着地と共に蹴り上げる。男の顎が上へと跳ねあがり、嫌な音を立てたが、すぐに魔法が発動した。もう一発とばかりに、反対の足が男の頬に直撃する。
     派手な音を立てて男が塀にぶつかるが、それで意識を失うほどやわな男ではなかった。すぐさま懐から小型のナイフ、おそらく武装一体型CADを取り出そうとするが、 
     それは達也の後方から伸びた鞭によって弾かれた。
     さらにもう一撃。達也の足が脳天から地へと下され、男が抵抗を辞めた。
    「おや、観戦が貴方の趣味では?」
     そう言って達也が問いかけたのは、秋月であった。彼の手にある鞭‐武装一体型CADは勿論、達也お手製の代物である。
    「資産家とは言え、戦いたくなる時もあるんだよ」
    「でなければ、そんなCADを特注はしませんよ」
     達也が呆れたように肩を竦めれば、秋月はクスリと含み笑いを浮かべた。
    「機械仕掛け、というわけではありませんね。ケミカル強化ですか?」
     おそらく科学的な処置によって、身体能力と耐久性を高めているのだろう。それを上回っていく蹴りを繰り出す達也も達也ではあるが、一切の強化なしにただ少しの魔法だけで武器を薙ぎ払った秋月も秋月である。
     達也はそっとコートを探ってみたが、身分証のようなものは見当たらなかった。
    「工作員、ってところでしょうか?」
    「・・・ジロー・マーシャルだ」
     偽名か、それとも本名か。今はどちらでもよかった。
     ただ名乗った、という事実。つまるところ敵ではないのだろう。達也は足を離し、一歩体を引いた。
    「いかなる国の政府機関にも所属していない。また、君たちに敵対するものではない」
     達也は首を捻った。
     彼の言葉を要約すれば、つまるところイリーガルという訳だ。非合法工作員、と言った所だろう。出所は情報部あたりか。
    「目的は、東側に最先端魔法技術が盗み出されないように監視すること・・・」
     第一高校もターゲットになった、と言う訳だ。
     秋月も同じ考察にたどり着いたのだろう。嫌な予感はしていたとは言え、こうも面倒ごとが一気に明るみになるとは思ってもいなかった、というのが純粋な感想であった。
     達也はそれきり、興味を無くしたかのように、ジロー・マーシャルから視線を外した。どうでもいい、というよりはそれよりも関心を引くモノが目の前にある、と言った方が正しい。
     これこそが達也の悪癖でもあり、長所でもあった。
     イクリプス・コミュニティの原点にして頂点であり、最初の火種。あっという間に周囲を巻き込み、肥大化していくそれは、人間の底なしの欲望を描いているようで、実際には欲など孕んではいない。
     この奇妙な関心、好奇心は彼の命を運ぶ。
     どこまでも底なしの泥沼へと彼を引きずり込み、そして導く。導かれた先が天国か地獄か。彼にとって幸運か不幸か。それを知る由を今は誰も持っていない。
     そのうちに、ジロー・マーシャルの姿は消えていた。達也からしてみればもうどうでもいい存在になり果てていたので、今更気にすることもない人物であったが、後日竹屋からその死が伝えられた際には酷く難しい表情を浮かべた。
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