雷の話 ピシャリ、と空に閃光が走る。一寸遅れて響くごろごろ……本日の本丸は雷雨に見舞われていた。
「まーた光ったなぁ」
「そうだな。……しばらくは止まないだろう」
大典太御用達になりつつある蔵で何をするでもなく休日を過ごしていた三池兄弟。雨脚は強まるばかりで、母屋へと戻る僅かな距離の移動も億劫になるほどだ。
「雷の日なのに非番なんて残念だよなぁ。出陣だったら兄弟のカッコイイ活躍が見れたのに」
「別に……少し調子が良くなるだけだ」
「またまた」
からからと笑うソハヤに対し、小さな文庫本の陰に隠れるように膝を抱えて大きな体を縮まらせる大典太。素直な褒め言葉に照れているらしい。
「加賀では雷が多かったからな。蔵にいても稲妻と雷鳴は届く……外のことが分かるのは嬉しかったんだ」
「ふぅん。俺はてっきりいつの間にか雷様とご縁でも結んだのかと思ってたぜ」
「雷様は知らないが……暑いからとだらしのない格好をしていると、俺がへそを取るぞ」
「うわっ、ちょっ、アハハッくすぐるなよ!えい!」
薄着で寛いでいたソハヤのTシャツの裾は捲れており、隙間から手を入れて脇腹を撫で回す大典太。一方のソハヤも身をよじりながらも手を伸ばし、相手のヘアバンドをぐいと目元まで下ろして対抗する。
「ッ、やったな……」
「おー、やるか?受けて立つぜ」
「上等だ」
何度目かの稲光が空に走ったのを皮切りに再び始まる小競り合い。雨雲が本丸から遠ざかるまではまだしばらく掛かる事だろう。