捕えた蝶は嘘を囀る 「やあ、泛塵君。気分はどうかな」
「あんたが来なければ最高だよ、穴山小助」
真田信繁に成りすましていた大千鳥十文字槍は逃してしまったが、代わりに助けに来た脇差を捉えた。独り捉えられてもう幾日か経つというのに、相変わらず殺気を放ち睨みつけてくる。
「一体何の用だ?……聞いたところで応じる気はないがね」
「僕達の要求は、信繁様の事。そして、この時代から手を引いて欲しい、その二点だけだ」
「何度も同じ答えで申し訳ないが、それは出来ない」
「……」
堂々巡りだ。いっそ見せしめに望月の言うように解体してしまうか?いや、そんな事をしても意味がない。説得できるのであれば。……そして。
「君からは、僕たちと同じ真田に仕えたものの匂いがする。真田十勇士と刀剣男士、僕たちは似ている」
協力する道もあるのではないか、と思っている。それなのに、はッ、と解りやすく嘲笑をして、まるで穴山小助を怒らせるように挑発する。
「馬鹿なことを。僕たち刀剣男士と、あんたら真田十勇士が似ているだと?……いや、そうだな……。確かめてみるか?あんたら真田十勇士と僕たち刀剣男士、同じ『士』の名を持つ我らが、どれだけ似ていて、どれだけ異なるか……」
岩牢の中の赤備えの脇差は、挑発するように穴山小助を見上げた。
「安い挑発だね、君らしくもない」
「ならば何故、独りで来た?」
金色の瞳はじっと穴山小助を射るように見つめている。
この堂々巡りに、打開策があるならば。
いつもは一緒に来た望月六郎が激昂して話が中断してしまう。それでは一向に進まない、と思い今日は独りで来た。
もう少し、距離を詰めることが出来るのならば、何かが変わるかもしれない……
じり、と穴山小助は牢に一歩近付いた。