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    三点リーダ

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    三点リーダ

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    マリオンと第13期の『ヒーロー』たちが対話をする雰囲気小話。

    01 ヴィクター・ヴァレンタイン「どうしてこのボクがこんな巫山戯た企画に参加しなくちゃならないんだ……」

     
     とある小会議室の一つ。マリオン・ブライスは苛々した様子で机をこつこつと指で叩いた。

     
    「この件に関しては概ね同意ですが、席に着き鍵を掛けられてしまった以上はどうしようもできませんよ」

     
     彼のテーブル越しに座っている人物――ヴィクター・ヴァレンタインは、マリオンの愚痴に眉一つ動かすことなく言葉を返す。その答えが気に入らなかったのか、それとも彼が気に入らなかったのか、マリオンは眉間の皺を深く刻むと大きな溜め息を吐いた。

     
    「そもそも、どうしてこんな部屋に閉じ込められなければならないんだ」
    「普通ならここまでしないでしょうが、一部仲の悪い関係の『ヒーロー』もいますから。逃げ出さないようにするための一つの方法なのでしょう」
    「それを分かっていてやってるということ自体、気分ワルイ……」

     
     菫色の瞳が恨みがましそうに閉じられた扉を見つめる。先ほど鍵が閉まった音を契機にうんともすんとも言わなくなってから、それなりの時間が経過していた。「そもそも何分経ったら出られるのかも知らないし……」とマリオンが言葉を零す。

     
    「この場から離れたい。そう思っていますか」


     唐突にヴィクターがマリオンに問いかける。その質問の意図が分からないのだろう。マリオンはしかめ面をしたまま、その問いに答えた。
     
     
    「当然だろ。どうしてそんなに決まり切ったことを訊くんだ」
    「戯れに読んだ本の中に、心理学の本がありまして。少々俗っぽいものでしたが、そこに書かれていた内容を元に指摘してみたのですよ」
    「は? 心理学?」

     
     呆れたように言葉を吐くマリオンに対し、ヴィクターは至極真面目な表情を崩すことなく彼の足下を指さした。

     
    「今回で言えば貴方の足先。足先の向きは関心の対象を表しているものなのだそうです。つまりこれが出口の方向に向いている貴方は、この場から離れて出口に向かいたいということになります」

     
     彼の指先に導かれるようにマリオンは自分の足先へと視線を移動させる。確かに身体はテーブルに向かって正面を向いているものの下半身は僅かに捻れており、その末端である足先は閉じられた扉へと向かっていた。ヴィクターの言う通りであったことに対しむっとした表情をしたマリオンは、素早く足を元の位置へと戻す。

     
    「……そんな程度のことが分かって何になるんだ」
    「さぁ? ちなみに椅子に浅く座っているようですが、これもその場に居たくないという心理が起こしているらしいです。更に腕を組むという動作は警戒を表していて……あぁ今唇を噛みましたね。これは相手に何か言いたいことがあって我慢しているというサインの表れです。何かあるのですか」
    「別に何にもない」
    「嘘ですね」
    「なっ!」
     

     あまりにも迅速に言葉を否定されてしまい、マリオンは思わずといった様に声を上げた。ヴィクターはそんな彼の声を気にとめることもなく、マリオンの口元に寄せられた手に人差し指を向ける。

     
    「今貴方は口に手を当てました。これは嘘を吐いている時の行動です」
    「……!」
    「おや、今緊張していますか? いつもよりまばたきが多いですよ」
    「~~っ!!」

     
     その行為は無意識だったのだろう。ばっと口元から手を離すと、マリオンは自身の手のひらを膝の上に載せた。すると今度は目蓋の動きを指摘される。指摘された行動を止めるマリオンと、また新たな行為を指摘するヴィクター。そんなやりとりを何度繰り返した時だろうか。ヴィクターは興味深い対象を見つけたかのように笑みを浮かべた。

     
    「ふふ。無意識下で行われる行動が、ここまで面白いとは思いませんでした。やはり実際に目にしなければ分かりませんね」
    「ボクを実験体にするな!」
    「あぁ、申し訳ありません」

     
     怒りで顔を真っ赤にさせるマリオンに、少しも申し訳ないと思っていなさそうな表情でヴィクターは謝罪の言葉を口にする。しかしその口元は未だに持ち上がっていて。

     
    「ですが、マリオンも心理学に興味が湧いているのでしょう?」
    「な、どうしてそれを……」

     
     ヴィクターの指摘にマリオンは目を丸くし、きょろきょろと自分の行為を顧みるように見回す。その行為自体がヴィクターの指摘が正しいことを自ら証明していることになると、彼は気がついているのだろうか。ヴィクターはにっこりと微笑むと、その指先をどこにも向けることなく口を開いた。

     
    「――私の勘です」

     
     一瞬。空気が凍り付いたかのような静寂が訪れる。

     
    「は……?」

     
     その空気を震わせた第一声は、マリオンの呆けた声だった。と同時にかちりという無機質な音が響く。

     
    「あぁ、時間ですね。付け加えて言っておきますが」

     
     それはこの閉鎖的な空間の終わりを告げる音であったらしい。ヴィクターは音のした扉の方にちらりと目線を向けると「あぁ、そういえば」と何かを思い出したようにマリオンを見やった。

     
    「先程語った行動とその心理についてですが、後半は殆ど嘘です」
    「えっ」
    「そもそも人間の心理とは、行動一つでそこまで明確に分かるものではありませんよ。前半の指摘についても貴方の心情を先に理解し、その心理に当てはまっている行動を本の内容から抜き出しただけです」

     
     何てことないように、ヴィクターは先ほどの指摘に関する仕掛けをいとも簡単に開示する。あまりにも衝撃的な内容に絶句しわなわなと口を震わせるマリオンに、ヴィクターはあまり見せることのない悪戯めいた笑みを浮かべる。

     
    「貴方とは長年の付き合いですからね。簡単に分かりましたよ。――たとえ貴方が意識して行動を起こさないようにと気を張り詰めていたとしても」

     
     そう口にするや否やヴィクターは鍵の開いた扉から颯爽と退室する。残されたのは、ただ彼の暇つぶしに利用されたマリオンだけで。あのヴィクターの物言いと表情からして、マリオンを揶揄っていたことは事実であることは間違いない。
     マリオンが、拳を握りしめてテーブルを力強く叩く。みしりというテーブルの悲鳴は恐らく彼の耳に届いていないのだろう。もう姿を消してしまったヴィクターの背中をびしりと指をさして、彼は叫んだ。

     
    「――だからボクはオマエが大嫌いなんだ!!」
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