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    三点リーダ

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    三点リーダ

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    マリオンと第13期の『ヒーロー』たちが対話をする雰囲気小話。

    05 ウィル・スプラウト ばたばたと騒がしい音とともにドアが開く。


    「遅れてすみません!」
     
     
     息を弾ませながら駆け込んできた人物――ウィル・スプラウトは、先に席についているマリオンにがばりと頭を下げた。


    「ボクも今来たところだ。別にそこまで気にする時間じゃない。……だから、まずその息を整えろ」
    「あ、ありがとう、ございます……」


     ここまで全力疾走したらしいウィルは、折り曲げた膝に手を付きながら肩で息をする。あまりの様相にマリオンは椅子から立ち上がると「大丈夫か……?」と声を掛けた。
     ふと彼に近づいた瞬間、ふわりとした花の香りが鼻腔をくすぐり、マリオンは呟くように言葉を漏らす。
     
     
    「花……」
    「えっ?」
    「花の匂いがする」


     生花独特の優しい香りが彼を包み込んでいることを指摘すると、ウィルは少し照れたように笑った。

     
    「実は、ここに来る前に実家を手伝ってたんです。だからかもしれないですね」
    「花屋か」
    「はい。そこでアキラやレンと色々話をしていたらこんな時間になっちゃって……って、言い訳みたいになっちゃいましたね。すみません」


     息を整え終わったウィルは苦笑を浮かべると「座りましょうか」と会議室の椅子を引く。マリオンは促されるまま向かい合うように椅子に座ると「そういえば」と口を開いた。

     
    「オマエとアイツらは幼馴染みだったな」
    「そうです。俺だけ1歳年上なんですけどね」
    「……幼馴染みって、どういう感じなんだ」
    「どういう感じ、ですか? うーん、難しいですけど……」
     

     おずおずとした様子でマリオンが問いかけると、ウィルは少し考え込むように視線を落とす。やがて顔を上げると、はにかむように答えを口にした。

     
    「――第2の家族、ですかね?」
    「家族……」


     ウィルの答えをマリオンが復唱する。

     
    「たとえ何も喋っていなくても、側にいるだけで心が休まる。そんな、家族みたいな関係性だなって思います」
    「……」


     とても幸せそうな表情をしながら語る彼の言葉をどう受け取ったのか、マリオンは答えることなくウィルの瞳をじっと見つめた。

     
    「でも、それはただ単に幼馴染みだったから、という理由だけではないと思うんです。妙に馬が合うというか……」


     そこまで口にすると、彼は表情を曇らせ「あはは……」と自嘲気味に笑みを浮かべる。

     
    「それぞれ性格がばらばらで、最近までは冷戦状態だったっていうのに、おかしい表現してるって自分でも分かっています。特に俺なんか、余計な世話ばっかり焼いちゃって、鬱陶しがられてばっかりなのに」
    「……」


     彼の言葉に、初めてマリオンが顔を顰めた。
     その表情の変化をウィルはどう思ったのか、あわあわと両手を振って言葉を打ち切る。
     
     
    「って、こんな話をしちゃってすみません。もっと別のお話を――」
    「ボクは」


     ウィルの言葉をマリオンが遮った。
     その言葉の始まりは力強いものだったのだが、続きを口にするまでにマリオンはどこか迷うように視線を彷徨わせる。

     
    「ボクは、オマエと過ごす時間を……その、悪くないと思ってる」
    「えっ……」
    「予め言っておくが、別にオマエの選んだ店が良かったからだとか、そんな理由じゃない」


     まっすぐにウィルを見つめて「嘘じゃない」と態度で示してくるマリオンに、ウィルは出かかった言葉を飲み込むように口を閉ざした。

     
    「オマエといると、気が抜ける。それは、オマエの言う『心が休まる』という感覚なのかもしれない」


     その時のことを思い出したのか、ふわりとマリオンが柔らかな笑みを浮かべる。あまりにも綺麗な笑みに、ウィルは思わず息を呑んでその表情を見つめた。


    「だから……」

     
     ウィルの視線に気づいたマリオンは照れたように頬を赤く染めながら顔を逸らす。
     

    「確かにアイツらの仲は、ボクから見ても目に余る時があったが……。それでも完全に縁が切れることはなく、今の状態に落ち着いたのは――オマエのその性格のお陰もある、とボクは思う」
    「……」


     マリオンの言葉に、ウィルは目を丸くして瞬きを繰り返した。
     無言で見つめられている状況に耐え切れられなくなったマリオンは、視線だけ彼に向けると低い声で言葉を促す。

     
    「な、何とか言え」
    「す、すみません! すごく嬉しくて……」


     照れたように口元を隠しながら、ウィルは満面の笑みを浮かべた。
     

    「マリオンさんにそう思っていただけて、嬉しいです」
    「そう。なら、少しは自分に自信を持て」


     えへへ、と本当に嬉しそうに笑うウィルを見て、マリオンは顔を逸らしたままそっけなく言葉を返す。しかし髪の隙間から覗く彼の耳は、赤い。
     それを目にしたウィルはくすりと笑うと、優しい声音で心からの声を、伝えた。

     
    「……はい。マリオンさん、ありがとうございます」
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