そのままが好き「なあ、綺羅」
大和の部屋で二人、何をするでもなく各々が好きに過ごしていた。そんなときにふと大和が綺羅の名を呼ぶ。何だと振り返った綺羅の肩に片手を置いて、少しだけ傾けた顔が近づく。
ああ、キスをされるなと察した綺羅はそっとその瞼を下ろした。それから少ししてふに、と押し付けられた唇。キスはたった一回だけで、なんとなく物足りなさを感じながらも目を開いた。
すると、大和はなぜか難しい顔。キスをしてそんな表情をされてしまえば愉快ではない。今日はにんにくもキムチも食べてないけれど、と不安になりながら大和の名を呼んだ。
「おまえ、何かぬってるな」
「……ああ……乾燥してるから、リップを……」
唇が割れてからでは遅いと感じ、予めリップクリームを塗っていた。綺羅にとってそれは別に特別なことではないため、何も気にしていなかった。
「落とせ」
どうやら大和はそれが気に入らなかったらしく、ティッシュで綺羅の唇を拭ってしまう。
「んむぅ」
少し強めの力で唇を擦られ、意図せぬ声が漏れる。それがなんだか面白くて大和はふと表情を緩めた。
「よし。取れたろ。もう一回な」
再び触れた唇。リップクリーム越しではない感触に、たしかにこちらの方がいいかもしれないと綺羅も考えた。
目を開けば、満足そうな大和の顔。
「やっぱりこっちの方がいいな!」
「……そう、だな」
自然と緩む頬を隠そうとせず、綺羅は答えた。