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    アイム

    @miniAyimu

    黒髪の美少年と左利きAB型イケメンお兄さんに弱い。

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    アイム

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    蘭榎とソシャゲ。

    ##蘭榎

    三浦さん、ここ押してください。
    ずいっと差し出された榎本のスマートフォンの画面には『チームメイト勧誘!』という言葉がきらびやかに踊っていた。

    一体全体何事か。一からの説明を求めると、返答は以下の通りだった。
    彼曰く、これはスマートフォン専用のゲームアプリの一種であると。
    ここ数年のゲーム業界はインターネット上の交流を通したソーシャルゲームという新たなジャンルに席巻され、またそれから発展したアプリケーションソフトウェアとしての娯楽が良くも悪くも話題になっていることは三浦もおぼろげながら知ってはいたが、まさか榎本すらも好んでプレイしていたとは思わなかった。
    しかし、それほどまでに人気があるのだろう、というよりは、これにもバスケが絡んでいるから、と言い訳する方が正しく、わざわざ起動して見せてくれたタイトル画面には、見慣れた茶色いボールが転がっていた。
    大まかな内容としては対戦型バスケアクションゲームに属するとのことで、何を言ってるんだお前は、と突っ込みたくなるのをぐっと堪えて、まだまだ続く榎本の説明に耳を傾けながら画面を覗き込む。

    とはいえ、バスケというスポーツ競技をテーマにしながらもバトルアクションものであると謳っていることに間違いは無いようで、ディフェンスやオフェンスなどの属性を振り分けられたキャラクターたちを上手く組み合わせて攻撃にも防御にも動けるチームユニットを作らなければならないらしい。
    キャラクターのレベルを上げればその分ステータス値も上がり、技術が磨かれ使える必殺技も増えてゆくとのこと。
    やっていることはリアルもゲームも大差ないが、どちらにせよ、こういうことは単純に見えて思いのほか頭を使うし膨大な時間もかかる。
    むしろ、ゲーム内でキャラクターたちに指示しているのと同じこと、もしくはそれ以上のことを己の身にも課すのだから、感心など通り越して物好きめと呆れそうになる。
    榎本にとって、朝から晩までバスケ、という言葉に嘘偽りは無い。
    途中からすっかり、ゲームの説明よりもキャラクター個人の性能について饒舌になり、期間限定イベントにて行ったという試合運びと結果の話ばかりになる。
    シューターがどうのこうの、スリーポイントがどうのこうの。
    その流れで榎本自慢の選手控室を見せてもらったところ、一覧で見やすいようにと顔の辺りを切り取った長方形の窓の中には、皆一様に光り輝く金色の髪を持つ少年ばかりが並んでいた。
    あまりの眩しさに、目がちかちかする。

    「このゲーム、金髪のキャラしかいないの? 随分と偏ってるんだね」
    「それ、同じキャラっすよ」
    「えっ。……えっ、これ全部?」
    「全部」

    ということで、話はようやく本題に入る。
    つまるところ彼が熱を上げるキャラクターの新たなカードが追加されたために、こうして代わりに引いてくれと懇願されているらしい。
    なぜ自分がと問えば、だって三浦さんの方が運が良さそう、と何の根拠も無い言い訳が返ってくる。
    馬鹿馬鹿しい、と一蹴するべきなのだろう。
    だけれど、内容はどうあれ、なんでも一人で出来ますなんて驕り高ぶった面が常のことである榎本が頭を下げることは至極珍しく、そこまで切羽詰まっているのか、と驚かずにはいられない。
    それとも、これはある種の甘えでもあるのだろうか。
    どちらにせよ、その対象者に自分以外が選ばれることは決して無いだろうということにまで気が付けば、それはもう敗北も同然だ。
    泣き付かれればあっさり絆されるのだから、本当の馬鹿野郎がどちらであるのかなど一目瞭然。
    しょうがないなと、三浦は渋々カードを引くためのガチャボタンを選択してやった。

    さて、結果はというと。

    「…………ほわあっ。ま、マジで出た……ふわっ、しかも二枚取り!? 初めて見た……!」

    という榎本のはしゃぎようで察してもらえるだろうか。
    クールとビビリを併せ持った普段のキャラクター性をすっかり忘れているようで、彼らしからぬやけに気の抜けたような声を上げている。
    たかがゲーム、とはいえ、されどゲーム。
    そうして一喜一憂する様はきちんと年相応で、普段はそうそう見る姿ではないからこそ、なかなかに微笑ましい。
    頬を薔薇色に染め上げ、三浦さん三浦さんと一層可愛い声で鳴くのだから、こちらとしてもボタンを押した甲斐があるというものだ。
    よかったね、と釣られて三浦もニコニコしながら、榎本が歓喜する結果を改めて確かめた。

    早くもトップ画面に置かれたキャラクターは、間違いなく先程ずらりと並んでいた少年と同じ風貌をしている。
    特徴的な金の髪は元より、中性的な顔立ちとほっそりした体つきをした件の男が、余裕ぶった微笑を浮かべたり勇ましく眉を吊り上げているのを一体何人分見せられたのかなど、もう覚えちゃいない。
    かろうじて頭に残っているのは、バスケ用のユニフォームやジャージはともかくウェイターの制服やスーツなどを着せられては動きづらいだろうというツッコミで、それは今再び、三浦の胸にこみ上げてくるのだった。
    バスケットゴールのある体育館内を背景にしたその男が今度着せられているのは、医者を模したらしい白衣である。
    上着を羽織っているだけならともかくオプションで眼鏡も聴診器も付けられたその様は際立つ異質さを逆に武器にしていて、唇を彩る微笑はこちらを嘲笑うようで、あまりにもサディスティックだ。
    ちなみに彼は、指先でつつけば喋りもする。

    『僕のものになる覚悟は……できてる?』




    「…………。へぇ。こういうのが、ご趣味ですか」
    「えっ。あっ、ちがっ……いや、あのっ……!」

    end
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