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    アイム

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    至真ワンライ:お題『ひざまくら』

    ##至真

    茅ヶ崎くんの詰みゲー 百戦錬磨のたるちともなれば、これうっかり詰んでしまったな、という最悪の状況にも即座に勘付いてしまうものである。
     現在ディスプレイに映し出されているのは、最近ゲーマーの間で話題のアドベンチャーゲーム。舞台はそう広くはない家の中のみで、部屋から部屋へと移動したりアイテムを拾って渡したりするだけ、というシンプルな操作性でありながら、内容は短い時間をループしながら謎を解いてゆくという推理ゲームであるため、なかなかに奥深いものであるらしい。
     かくして至は製作者の思惑通りしっかりと行き詰まって、お手上げ状態に陥っていた。あれこれ試してはみたものの、幾分か変化したところでセリフも行動も同じ展開を繰り返してしまい、どうにも上手く進まない。
     困った。これは完全に詰んだっぽい。ということを理解するや否や、直後に至は両の瞼に鈍い重みを感じて、眠気に襲われていることを自覚した。どうやら眠たいことも手伝って、頭がきちんと回っていないらしい。
     それをきっかけにそういえばと振り返れば、自分は昨晩から続けざまにゲームに興じていて、日曜の昼を過ぎた今となっては時計の針もぐるりと回って軽く十二時間を超えているはずだった。頭の回転が鈍くなってしまうのも当然のことだろう。ここらで一旦仮眠を挟んで、気分ごとリセットさせるべきなのかもしれない。
     そう考えて素直にソファーにダイブしようとしたところで、至は足を向けがてら、いいことを思い付いてしまった。そうして、すぐさまウキウキと声を弾ませる。
    「ま~すみ」
     呼んで向かった先には、昼食後よりひょっこりと顔を見せに来た真澄が陣取っている。大学の課題があるとのことで、『西洋演劇論』などと仰々しい題の振られた厚いハードカバーをめくりめくり、時折カラフルな付箋を貼り付けているところだった。
     つまりは真面目な大学生は勉強中。とわかってはいるけれど、自室ではなくわざわざ至のいる方へと来てくれたからには、隙あらばちょっかいを出してやりたくなるに決まっている。せっかくだからと、至は身勝手にねだってみることにした。
    「俺ちょっと仮眠するからさ、真澄の膝、貸してくんない?」
    「……ひざ?」
    「そうそう、膝。っていうか、足……太もも?」
     そういえば膝そのものを使うわけではないのに、どうして『ひざまくら』と呼ぶのだろう。ふと疑問がよぎるものの、悲しいかな、うとうとし始めた頭では相変わらず何もひらめかない。そんなことよりも、ごろごろと寝転んで真澄のきちんと揃えられた腿の上に頭を乗せることの方がずっと大事だった。
     そうやって強引に真澄のことを占領したものだから、いくらなんでも呆れられただろうか。さすがの真澄も、勉強中では『邪魔』と膨れて見せるだろうか。
     なんて反射的に危惧したというのに、至が様子を伺うようにちらりと見上げても、真上の真澄は穏やかに笑って見せるのだった。
     気を抜いたような優しい視線を伏せて落として、頬を緩ませたせいで口元が笑ってしまう。随分と嬉しそう、と察すれば、そんな顔でまじまじと見下ろされる至の方がこっ恥ずかしくならずにはいられない。だって、きっと真澄は、自分がこんなことをしているからこそ、こうもニコニコしているのだろうから。
    「あー……タンマ。ちょっ……これ……恥ずかしくない?」
    「何が?」
     こんな状況を誤魔化そうと慌てた発言を飛ばすものの、残念ながら真澄にはばっさりと打って返される。それどころか、一回やめようと身を起こしかけたことさえ、そっと手で押し返されて阻まれた。真澄の方は今更やめる気など無いのだろう、このひざまくらを。もはや課題図書さえ不要とばかりに手放して、当然のように言い放つ。
    「至が寝るまで見てる。……寝た後も見てる」
    「いやいやいや……」
     とどめとばかりに、至を押し返した左手がそのまま昇って来て、乱れた髪を直すように至の頭を撫で始めてしまった。親が子供を可愛がるように慈しむその手は、たぶん、至が真澄にしてやっているのとそっくり同じものなのだろう。
     真似されて、仕返しされている、と思えば、ますますもって気恥ずかしい。せめてもの抵抗として、至はごろりと身体の向きを変え、横になることを主張する。そうして顔を逸らして見せるより他は無かった。

     それからどのくらい経ったのだろうか。ふっと突然意識が浮上して、至はゆっくりと目を開けた。なんのかんの言いつつも、やはり眠り込んでいたらしい。気付いて、うわ、と慌ててしまう。マジで寝顔見られたかも。それはちょっと恥ずかしい。
     なんて、より一層のむずがゆい気持ちを持て余していたというのに、改めて見上げた先で真澄もまた、すやすやと寝息を立てているところだった。しっかりと下りた瞼と、吐息の零れる薄く開いた唇。至にとってあまりにもよく見慣れた寝顔であり、そりゃそうだ、と苦笑せずにはいられなかった。やっぱり昼下がりのうたた寝は、誰よりも真澄の方がしっくりくるものだ。
     とはいえ、ソファーに座り込んだこの体勢では寝づらく、首を痛めるに違いない。さっさと退いてやって、きちんと横にさせてやるべきだろう。それから布団も……などと考え、急いで半身を起こそうとしたところで、至ははたと気付いてしまった。寝転んでいた至の体の上にぽんと投げ出された真澄の左腕。その手が、きゅっと至の服を掴んでいることに。勝手に行っちゃ駄目、と駄々を捏ねる子供のごとく、しっかりと指の間に布が挟まっている。
     だから至は、あっこれ詰んだ、と改めて動揺せずにいられなかった。どうしよう、俺はこの状態から一歩も動けない。真澄が目覚めるまで、ただただ大人しく寝転がったまま。
     だって、真澄に掴まれてしまったら、至がその手を無慈悲に振り解けるわけがないのだから。



    end
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