Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    7子𓅯 ⸒⸒

    @7nana_koko

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 2

    7子𓅯 ⸒⸒

    ☆quiet follow

    初心なタルが初心なくせに先生と軽率な契約を結んでドツボにハマる鍾タルの話 のつづき

    #鍾タル
    zhongchi

    初心なタル② 斯くして、鍾離とタルタリヤの奇妙な契約関係が始まった。
     案の定と言うべきか、その後もタルタリヤは挨拶をするような気軽さで鍾離と接吻を交わした。待ち合わせ場所に現れたとき、三杯酔で酒を酌み交わしているとき、別れ際の余韻に乗じて「せーんせ、今日の分」と児戯のように唇を触れさせる。確かにスネージナヤには唇を寄せて挨拶をする習慣があるようだが、それはあくまで頬にであって断じて唇にではないはずだ。しかし、そんなことをこの男に言ったところで犬に論語なのだろうなと、タルタリヤの接吻を受けながら鍾離は薄ぼんやりと考えた。
     別に、それならそれで構わない。元より、到底達成不可能な条件を提示して諦めさせようという魂胆でもない。そのつもりなら接吻などと生温いことは言わずに、体の一つでも要求した方が手っ取り早かっただろう(今のタルタリヤの様子を見るに、それでも簡単に股を開きそうなところはあるが……)。
     ともかく、だ。
     鍾離の狙いは他にあるのだ。


    「はぁ〜〜、美味しかったぁ。やっぱり岩港三鮮は琉璃亭に限るね!」
     その日も鍾離はタルタリヤと夕飯を共にしていた。契約を結んで早三週間。ここ最近、毎日のように何かしらこの男と連んでいる。
     そういうわけだから、契約の履行回数も気づけば20を数えていた。
     もはや安心し切った子供のようにタルタリヤは鍾離に纏わりついてくるが、鍾離からすれば別にじゃらしてやるためにわざわざこんな面倒な契約を持ちかけたわけではないのだ。
     そろそろ頃合いだろう。
     いつもならタルタリヤのペースで接吻をする流れであるが、軽く往なすと鍾離は確固たる意志で歩を進めた。緋雲の丘から大通りを突っ切れば往生堂までは早いのだが、敢えて路地裏へと向かう。いつもと様子の違う鍾離をタルタリヤは最初不思議そうに見遣ったが、結局大人しく後について来た。
     背後に繁華街の喧騒が遠ざかっていく。進むにつれて夜の底に沈むように、辺りは暗く静まり返る。煌びやかな表の世界から一変、辺りにはどこか退廃的な空気が漂い始める。
     まばらに散らばる人影は泥酔して寝こける酔客であったり、無意味に屯する若者たち。あるいは宝盗団崩れのような、白と黒の境界線で生きているような者たちばかり。
     この場にあって、場違いなのは明らかに二人の方であった。仕立てのいい服飾も、上品な立ち居振る舞いもとにかく悪目立ちしていて、すれ違うたびに無遠慮な視線を投げ付けられる。だからと言って、この二人にはどうということもないのだが。
    「先生? 飲み足りなかった?」
     二軒目に行くと思ったのだろう、タルタリヤが声を掛けてきた。しかし、そういうつもりではなかったので「いや、酒は足りている」と返す。
    「じゃあなんだってわざわざこんな道……」
     そこでタルタリヤの言葉は途切れた。前方の異変に気がついたようだった。
     小路が途切れる。舞台の幕が上がるように視界が開ける。すると眼前には、目にも眩い歓楽街が広がった。
     往来に面して、所狭しと朱塗りの楼閣がひしめいていた。万万千千と掲げられた赤提灯が夜闇を覆さんばかりに煌々と輝きを放っている。
     こんなところにこんな場所があるとは思わなかったのだろう。タルタリヤは目を奪われたように辺りを見回した。
    「わぁ、すごいな」
    「ここに来るのは初めてか?」
    「そうだね。こんな賑わった場所があるなら教えてくれればよかったのに」
     言いながら、タルタリヤは興味深げにあちこち視線を巡らせた。まるで、初めて祭りに連れてこられた子供のようである。しかし、それも束の間。次第にその瞳は訝しげに顰められていった。
     何かがおかしいと気づいたのだろう。
     店々の軒先では、まるで舞台衣装のような装いの女性たちが悠然と煙管を吹かせながら道行く男たちに声を掛けている。男は灯火に群がる蛾のように女に吸い寄せられると、そのまま店の中へと消えていく。
     行き交う男女もよく見れば、とても健全な関係には見えない。まるで行きずりのような男と女ばかりである。
    「先生、ここ……」
     先ほどまでのあっけらかんとした声色から一転。たじろいだ声に呼び止められる。くん、と袖を引っ張られて振り返れば、タルタリヤは当て所なくその場に立ち尽くしていた。
     タルタリヤの予感は的中している。
     どこの国、どこの都市にも存在すべくして存在する、清廉潔白な表社会と表裏一体とも言うべき場所。色と金と欲望渦巻く、ここは璃月一の遊郭街だった。
     当然だが、璃月にも妓楼というものは存在した。本来、性欲は凡人から切り離せないものなのである(タルタリヤを見ていると忘れそうになるが)。とは言っても、誰も彼もが珠鈿舫のような高級青楼に手が出せるわけではないので、手軽に手頃に性を発散できるその手の店が密やかに繁栄するのは自明の理と言えた。
     ファデュイの執行官ならこういう場所にも精通しているかと思ったが、意外にもそうではないらしい。彼はまだ二十歳にもなっていないと聞く。もしかしたら彼よりもずっと年上の優秀な部下たちが、色々と慮ってそういう任務は避けているのかもしれない。
     思い掛けず垣間見えた意外な一面は、鍾離の興を大層乗せた。
     タルタリヤは鍾離の裾を摘んだまま、相変わらず借りてきた猫のように固まっていた。その視線がある一点注がれている。
     視線の先を追いかけると、建屋と建屋の狭間を凝視しているようだった。そこには、男と女の人影が二つ。
     男が、壁際に追いやった女の体に覆い被さっていた。恐らく色街で買った商売女だろう。ふしだらに肌蹴させた上衣からはほとんど乳房が丸出しになり、白く細い腕が蛇のように男の首筋に巻きついている。妖艶な笑み、しなやかな肢体、時折漏れ聞こえる艶やかな嬌声。男は女の色気にすっかり当てられてしまったようで、必死に体を擦り付けながら何度も何度もその唇に吸い付いていた。
     ここら一帯ではしばしば見られる光景だ。街全体が淫蕩に耽っているのだ。特段珍しくもない。璃月七星ももちろんこういった現状は把握しているが、為政者としてガス抜きが必要であることもよく理解しているため、ある程度のことは大目に見られていた。
     鍾離としても、それが双方の合意に基づいた契約であるならば何ら問題ないと考えていた。そもそも魔神の時代には酒をもって池として、肉を縣けて林とし、男女をして裸ならしめ、互いに追わせる酒池肉林が跋扈していたものである。そういうどんちゃん騒ぎを目の当たりにしてきた身としては、これくらいはむしろかわいい方であった。
     しかし、性欲諸々そういった情緒をどこぞにすっかり落っことしてきた男には、少々刺激が強かったようだ。
     普段、人を食ったような笑みばかり浮かべる顔は年相応に幼くなり、まるで赤子が初めて目にするものを前にして固まるようにタルタリヤは男女の行為に釘付けになっていた。その初心な様子に思わずくっと喉が鳴った。
    「そう凝視するものではない」
     するりとまろい頬に指先を這わせ、顎を取ってこちらを向かせる。深い水底のような瞳は落ち着きなくゆらゆらと揺れ、まだ先ほどの残像を追っているようだった。しばらくその揺らぎを見つめる。すると、ある瞬間ハッとしたようにタルタリヤは瞳を見開いた。そのとき、漸くこの男と目が合った気がした。
    「あ、せんせ……」
     カラカラに喉が渇いているのか、言葉尻が掠れて響く。うん? と続きを促すように顔を覗き込めば、近づいた顔に驚いたようにタルタリヤは一歩後退りした。
     昨日までとは大違いだ。その変化に、鍾離は内心満足する。
    「なに……なんで、ここ……」
     動揺のままに紡がれた言葉はなかなかに要領を得なかったが、言いたいことは伝わってきた。どうしてこんな場所に連れてきたのか、と問いたいのだろう。
     答えは簡単だ。
     今まさにタルタリヤの身に起こっている、この変化をこそ促したかった。
     しかし、それを正直に伝えるのは上手くないので、鍾離は代わりの言葉を用意する。
    「ふむ、そうだな。こういう場所の方が適しているかと思ってな」
    「適してるって……なに、が?」
    「お前は人目を憚らなさすぎる」
     言いながら、タルタリヤの薄い下唇を親指でなぞる。それで、鍾離の言わんとしていることが伝わったようだった。
     往生堂前の橋の袂、万民堂の屋外席、琉璃亭の一室、緋雲の丘から続く大通り。その意味を知らないと言わんばかりに、これまでタルタリヤは所構わず接吻をしてきた。(とは言ってもその職業柄、人目を盗むのは得意なようで、往生堂の客卿とファデュイの執行官が良い仲だという噂は今のところ立ってはいないが。)
     しかしながら、本来接吻とは人目を忍んでするものである。それが愛する者同士であるにせよ、金で繋がっただけの関係にしろ、多かれ少なかれその行為の先には肉欲が繋がっているのだから。
     昨日までのタルタリヤにはそれが理解できなかっただろうが、今であれば身に染みて分かるだろう。と言うか、それを分からせるためにこんな場所まで連れてこられたのだと、ようやく気づいたようだった。
    「それで、こんな場所に?」
    「打ってつけだろう? そういえば今日はまだだったな」
     しないのか? と煽るように問えば、きょろきょろと落ち着きのなかった瞳がきっと険しく顰められた。
    「先生って、さ。たまに、本当に悪趣味だよね」
     それは、タルタリヤからすれば精一杯の虚勢であり、抗議だったのだろう。しかし、残念ながらあまり効果はなかった。肩を竦めて軽く往なせば、タルタリヤはますます悔しそうに歯噛みした。が、最後には諦めたようにおずおずと両手で二の腕を掴んできた。
     不器用に唇を押し付けられる。
     そっと離れていくかんばせを見下ろせば、けぶるまつ毛の下に透ける頬が、うっすらと赤く染まっていた。
     ただの皮膚と皮膚の触れ合いでしかなかったはずの行為に、確かに別の意味が芽吹き始めている。
     そのことが、ありありと伝わってきた。
    「ふむ、これで21回か? まだまだ先は長いな、公子殿?」
    「……っ」
     しれっと嘯けば、タルタリヤの眉間の皺はより一層深くなった。何か反論しようと口を開き掛けるが、結局言葉は見つからなかったようだ。悔しそうに唇を噛み締めると、踵を返してスタスタと歩き出した。
    「待て、公子殿。知らぬ場所では迷うだろう。送っていこう」
    「別に! 子供じゃないんだから大丈夫だよ!」
     じゃあね、先生!
     殊更、“子供じゃない”というところを強調してタルタリヤが叫ぶ。そのまま一度も振り返らずに遠ざかっていく背中を、鍾離は漏れ出そうになる笑みを堪えながら見送った。


     その昔、フォンテーヌの学者がこんな実験をしたという。
     犬にベルを聞かせてから餌を与える。このプロセスを繰り返す。すると、犬はベルの音を聞いただけで涎を垂らすようになるのだという。
     犬のように纏わりつくタルタリヤを見て、何故だかふとこの話を思い出した。そして、続けてこう考えた。
     ――同じ理屈で、この男の不備を正せないだろうか……と。
     ベルが接吻、涎が性欲、そして餌が闘争だ。
     性欲が戦闘欲にすげ変わってしまったというのなら、あの犬のような男が闘争を求めたとき、その意志に関係なく性欲が疼くように条件付けしてやればよい。そうすれば煩わしく伸ばされる手も多少は緩和されるのではないか、と。
     これが鍾離の狙いであり、そのために持ち掛けた契約だった。
     結果、出だしは上々。存外可愛らしい一面を見せた男に、鍾離は確かな手応えを感じた。
     あとはこのプロセスを繰り返せばよい。
     一つ懸念があるとすれば、今日のことに懲りてタルタリヤが逃げの一手を打たないかという点であるが。それならそれで元々の目的は達成されるので、鍾離からすればどちらに転んでも何ら問題ないのであった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤❤💖💖👏👏😭🙏❤☺☺☺👏👏👏👏🙏🙏🙏☺🍼🍑💞🙏🇪🙏🙏🙏👏👏👏👏👏👏🌋💖💖💖💖💯💯💯💯🙏🙏💯💘❤🍌
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works