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    saka_esa

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    saka_esa

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    少年組と間接的に曦澄風味匂わせ少々
    推敲したら支部へ

    白銀の向こう 見上げれど空は見えず、幼い金凌の世界は白かった。
    外套の獣の皮が内側の体を守っていなければ、皮膚ごとずるりとむけてしまいそうな程に寒い。なのに冷気に直接触れている頬は熱いような気がするのだから不思議だ。口をあけると舌先に雪の粒子がそっとふれて消える。触れた冷たさが楽しいと、そっと宝物をしまい込むように口を閉ざした。
    「あ…っ」
    キーーーーン・・・
     耳の奥底から音がする。大きくはないが確かに金凌の体の中から鳴る音は頭を振っても出て行ってはくれない。
    途端に怖くなってじうじう、と呟くが雪が音を許さず金凌は静寂の中だ。
    「じうじう・・・じうじう、お耳が痛いよ」
    白い世界を見渡すが人の影はなく、一人取り残されてしまった不安に目尻に熱い雫がたまる。
    一人になってしまった、叔父はどこかへといってしまったのだ、どこへどうやって帰れば良いのか途方にくれているとようやく叔父が駆け寄ってくる。
     足を雪に埋れさせながら駆けてくるのは容易ではない。雲夢では滅多に雪が積もらないので金凌よりもよっぽど雪に馴染みがない。
    「ここにいたのか、はぐれるなといっただろう!」
    白い息を吐き出す叔父の口が面白い。金凌の吐息はもうとっくに白くならなくなってしまったのだ。つまらなかったと訴えたいのに、叔父の顔をみて安心した今も耳鳴りはどこにも行ってはくれなかった。
    「じうじう、お耳が痛い、きーんってする」
    外套の中に引き込まれ、腕が振れた冷たさに顔をしかめていた叔父は金凌の訴えに一度金凌を立たせると手袋を外し金凌の両耳を包み込む。
    手袋に守られていた叔父の掌はとても暖かくて頬に触れる場所はとても熱い。熱いから嫌よ、と笑うが叔父の顔は真剣で、それでいてどこか遠くを見ているようだった。
     白い世界との境界、叔父の掌と耳との間にはザーザーと音がする。
    「これはなんの音?」
    「血が体をめぐる音だ」
    白い世界には音がなかったのに、叔父の掌に包まれた瞬間色々な音が聞こえた気がした。音が帰ってきた安心感と耳の温もりに笑うと、また抱き込まれ、そのまま白い世界をぬけるために叔父は歩いていく。ぐっぐっと雪を踏みしめる音、さらさらと雪の落ちる音、音のない世界だと思っていたのにたくさんの音が隠れていた。
    「じうじう、お耳もうへいき」
    「そうか」
    「じうじう、どうやって知ったの?じうじうもお耳いたかった?」
    「…そうだな…耳をあたためてあげると楽になると、そう教わった」
    抱きしめた叔父の顔は変わらず遠くを見ているようだった。








    「雪は嫌いだ」
    姑蘇藍氏小双璧と夜狩の途中で吹雪に見舞われた。どこかに逃げ込まなければあっという間に雪人形になってしまうのに金凌は寒さに動けずにいた。
    「金凌大丈夫か?あと少しで小屋だからな」
    数歩先を歩く景儀は普段の茶化しを引っ込め真面目な顔で先頭を歩いている。一面が真っ白な世界の中、姑蘇藍氏の衣が白に溶けて消えそうになる。
    はぐれてしまえばとてもじゃないが合流できないだろう。離れないように後に続くが雪の白さはどこかにいる太陽の光を含んで眩しい。
    「…金凌!」

     ――――じうじう、

    白さに目がくらむと耳の奥からきぃん…と甲高い音が鳴り響き目が眩んだ。
    「…っ」
    ふらつき膝をつきそうになったが歯を食いしばり耐え、ぎゅっときつく目を閉じる。一瞬あるはずのない紫紺の衣がひらりと舞った気がした。
    「お耳がいたいよ…」
    寒さに麻痺した唇はか細く雪に吸い込まれて消えてしまうほどに小さい。
    「金凌!」
    「あっ」
    崩れ落ちかけた体を力強い腕が抱え上げた。声のする方を見れば景儀が支え、思追が背を包み込んでいる。一瞬のうちに意識が落ちかけていたのだと、二人の腕の力強さにはっとさせられた。
    「金凌、後少しだ!足だけ動かせ!」
    腕を掴み腰を支えあげると景儀は雪に足をとられるのも気にせず速度をあげて歩き出す。引きずられないように足を動かすのがやっとだ。
     結局目的の小屋にはたどり着けなかった。
    しかし途中洞窟を見つけることができたので急ぎ駆け込んだ。奥へと風の吹き込まぬところまで進むと景儀は火をつける支度をし始める。壁に背を預けて座り込み、ぼんやりと吹雪をみつめていると目の前に思追がやってきて膝をついた。
    「金凌、少し動かないで。火はまだつきそうにないから」
    「え」
    正面から思追の手が伸ばされ、両耳を包み込まれた。いつかの叔父とおなじそれに目を見開く。
    雪が吸収してしまって音は何一つしない世界の中、思追の手からはザーザーと音がする。
    「血のおとがする」
    「ふふ、普段は聞こえないのに不思議だよね」
    にっこりと笑った思追の笑みはかつて同じことをやってくれた人とは何一つ重ならない。ただザーザーと血の流れる音だけがする。
    「痛かったら教えて」
    耳のまわりを指で静かに撫でては揉んだりを繰り返す。すると冷え切っていた耳が熱くなったのがわかった。
    「もう”おみみ”は痛くない?」
    「…聞こえてたのか」
    「え?うん」
    幼い物言いに恥ずかしさと照れが生じるがそもそも一人で立てぬほどになった時点で恥も何もない。なにより思追は全く気にした様子がないので助かった。
    「よかったね」
    「あぁ」
     寒さに朦朧とした意識の中で叔父の、江氏の校服が脳裏をちらついた。
    白い世界に閉じ込められたあの日の叔父も今の思追と同じことをしていた事が妙にひっかかる。
    「なぁ、今のこれはどこで習ったんだ?本か?」
    離れていく思追の手を掴む。雪なら蘭陵でも降るがこのような事態に陥ったことはない。だから知らないだけなのかと首をかしげた。
    「これ?私も昔雪の中で耳鳴りがしてね、そうしたら沢蕪君が今みたいにしてくださったんだよ」
    「沢蕪君が…?」
    吹雪の中に立つ沢蕪君が浮かぶ。雪にも負けず音を消してしまいそうな人だ、雪の白さに溶け込んでなお存在感があまりにもありすぎる。

     ――…耳をあたためてあげると楽になると、そう教わった

     遠い視線の向こう、あの日の叔父は確かに何かを見ていた。そこには居ない人、白銀の中に叔父が誰を見ようとしていたのか、わかった気がした。










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