Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    saka_esa

    ワンドロや進捗など

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 18

    saka_esa

    ☆quiet follow

    少年組と間接的に曦澄風味匂わせ少々
    推敲したら支部へ

    白銀の向こう 見上げれど空は見えず、幼い金凌の世界は白かった。
    外套の獣の皮が内側の体を守っていなければ、皮膚ごとずるりとむけてしまいそうな程に寒い。なのに冷気に直接触れている頬は熱いような気がするのだから不思議だ。口をあけると舌先に雪の粒子がそっとふれて消える。触れた冷たさが楽しいと、そっと宝物をしまい込むように口を閉ざした。
    「あ…っ」
    キーーーーン・・・
     耳の奥底から音がする。大きくはないが確かに金凌の体の中から鳴る音は頭を振っても出て行ってはくれない。
    途端に怖くなってじうじう、と呟くが雪が音を許さず金凌は静寂の中だ。
    「じうじう・・・じうじう、お耳が痛いよ」
    白い世界を見渡すが人の影はなく、一人取り残されてしまった不安に目尻に熱い雫がたまる。
    一人になってしまった、叔父はどこかへといってしまったのだ、どこへどうやって帰れば良いのか途方にくれているとようやく叔父が駆け寄ってくる。
     足を雪に埋れさせながら駆けてくるのは容易ではない。雲夢では滅多に雪が積もらないので金凌よりもよっぽど雪に馴染みがない。
    「ここにいたのか、はぐれるなといっただろう!」
    白い息を吐き出す叔父の口が面白い。金凌の吐息はもうとっくに白くならなくなってしまったのだ。つまらなかったと訴えたいのに、叔父の顔をみて安心した今も耳鳴りはどこにも行ってはくれなかった。
    「じうじう、お耳が痛い、きーんってする」
    外套の中に引き込まれ、腕が振れた冷たさに顔をしかめていた叔父は金凌の訴えに一度金凌を立たせると手袋を外し金凌の両耳を包み込む。
    手袋に守られていた叔父の掌はとても暖かくて頬に触れる場所はとても熱い。熱いから嫌よ、と笑うが叔父の顔は真剣で、それでいてどこか遠くを見ているようだった。
     白い世界との境界、叔父の掌と耳との間にはザーザーと音がする。
    「これはなんの音?」
    「血が体をめぐる音だ」
    白い世界には音がなかったのに、叔父の掌に包まれた瞬間色々な音が聞こえた気がした。音が帰ってきた安心感と耳の温もりに笑うと、また抱き込まれ、そのまま白い世界をぬけるために叔父は歩いていく。ぐっぐっと雪を踏みしめる音、さらさらと雪の落ちる音、音のない世界だと思っていたのにたくさんの音が隠れていた。
    「じうじう、お耳もうへいき」
    「そうか」
    「じうじう、どうやって知ったの?じうじうもお耳いたかった?」
    「…そうだな…耳をあたためてあげると楽になると、そう教わった」
    抱きしめた叔父の顔は変わらず遠くを見ているようだった。








    「雪は嫌いだ」
    姑蘇藍氏小双璧と夜狩の途中で吹雪に見舞われた。どこかに逃げ込まなければあっという間に雪人形になってしまうのに金凌は寒さに動けずにいた。
    「金凌大丈夫か?あと少しで小屋だからな」
    数歩先を歩く景儀は普段の茶化しを引っ込め真面目な顔で先頭を歩いている。一面が真っ白な世界の中、姑蘇藍氏の衣が白に溶けて消えそうになる。
    はぐれてしまえばとてもじゃないが合流できないだろう。離れないように後に続くが雪の白さはどこかにいる太陽の光を含んで眩しい。
    「…金凌!」

     ――――じうじう、

    白さに目がくらむと耳の奥からきぃん…と甲高い音が鳴り響き目が眩んだ。
    「…っ」
    ふらつき膝をつきそうになったが歯を食いしばり耐え、ぎゅっときつく目を閉じる。一瞬あるはずのない紫紺の衣がひらりと舞った気がした。
    「お耳がいたいよ…」
    寒さに麻痺した唇はか細く雪に吸い込まれて消えてしまうほどに小さい。
    「金凌!」
    「あっ」
    崩れ落ちかけた体を力強い腕が抱え上げた。声のする方を見れば景儀が支え、思追が背を包み込んでいる。一瞬のうちに意識が落ちかけていたのだと、二人の腕の力強さにはっとさせられた。
    「金凌、後少しだ!足だけ動かせ!」
    腕を掴み腰を支えあげると景儀は雪に足をとられるのも気にせず速度をあげて歩き出す。引きずられないように足を動かすのがやっとだ。
     結局目的の小屋にはたどり着けなかった。
    しかし途中洞窟を見つけることができたので急ぎ駆け込んだ。奥へと風の吹き込まぬところまで進むと景儀は火をつける支度をし始める。壁に背を預けて座り込み、ぼんやりと吹雪をみつめていると目の前に思追がやってきて膝をついた。
    「金凌、少し動かないで。火はまだつきそうにないから」
    「え」
    正面から思追の手が伸ばされ、両耳を包み込まれた。いつかの叔父とおなじそれに目を見開く。
    雪が吸収してしまって音は何一つしない世界の中、思追の手からはザーザーと音がする。
    「血のおとがする」
    「ふふ、普段は聞こえないのに不思議だよね」
    にっこりと笑った思追の笑みはかつて同じことをやってくれた人とは何一つ重ならない。ただザーザーと血の流れる音だけがする。
    「痛かったら教えて」
    耳のまわりを指で静かに撫でては揉んだりを繰り返す。すると冷え切っていた耳が熱くなったのがわかった。
    「もう”おみみ”は痛くない?」
    「…聞こえてたのか」
    「え?うん」
    幼い物言いに恥ずかしさと照れが生じるがそもそも一人で立てぬほどになった時点で恥も何もない。なにより思追は全く気にした様子がないので助かった。
    「よかったね」
    「あぁ」
     寒さに朦朧とした意識の中で叔父の、江氏の校服が脳裏をちらついた。
    白い世界に閉じ込められたあの日の叔父も今の思追と同じことをしていた事が妙にひっかかる。
    「なぁ、今のこれはどこで習ったんだ?本か?」
    離れていく思追の手を掴む。雪なら蘭陵でも降るがこのような事態に陥ったことはない。だから知らないだけなのかと首をかしげた。
    「これ?私も昔雪の中で耳鳴りがしてね、そうしたら沢蕪君が今みたいにしてくださったんだよ」
    「沢蕪君が…?」
    吹雪の中に立つ沢蕪君が浮かぶ。雪にも負けず音を消してしまいそうな人だ、雪の白さに溶け込んでなお存在感があまりにもありすぎる。

     ――…耳をあたためてあげると楽になると、そう教わった

     遠い視線の向こう、あの日の叔父は確かに何かを見ていた。そこには居ない人、白銀の中に叔父が誰を見ようとしていたのか、わかった気がした。










    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏💖😭💖☃💖☺☺☺😭🙏💘💘💘😭😭💘💘💘❤❤❤❤❤❤❤❤❤😭😭😭😭😭😭❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    sgm

    DONE猫の日の曦澄。
    ひょんなことからイマジナリー(霊力)猫耳と尻尾が生えて猫になった江澄。
    何かとご都合。
    他作リアクションありがとうございます!!
    「魏公子。これは、一体……?」
     藍曦臣は目の前のことが信じられず思わず隣に立つ魏無羨に訊ねた。
    「見ての通りです」
    「見ての、通り」
    「ですね。見ての通り、江澄の奴、猫になりました」
    「……猫」
    「猫、ですね」
     笑いを含んだ魏無羨の言葉に藍曦臣は改めて日の当たる場所で丸くなっている江澄を眺めた。薄っすらと透けた黒い三角の獣の耳が頭に。やはり薄っすらと透けた黒く細長い尻尾が尾てい骨の当たりから生えている。猫と言われれば確かに猫だ。
     藍曦臣はさらなる説明を魏無羨に求めた。

     昨日から藍忘機が雲深不知処に不在だからと蓮花塢に行っていた魏無羨から急ぎの伝令符が来たのが、卯の刻の正刻あたりだった。
     藍曦臣は起きていたが魏無羨がその時間に起きていることなど珍しく、受け取ったときは驚いた。よほどのことが蓮花塢であったのだろうと慌てて急務の仕事を片付け、蓮花塢に到着したのが午の刻になったばかりの頃。案内をされるままにまっすぐに江澄の私室に向かい、開けなれた扉を開けた藍曦臣の目に飛び込んできたのは魏無羨の赤い髪紐にじゃれて猫のように遊ぶ江澄の姿だった。
    3340

    sgm

    DONE曦澄ワンドロお題「失敗」
    Twitterにあげていたものを微修正版。
    内容は変わりません。
    「なぁ江澄。お前たまに失敗してるよな」
     軽く塩を振って炒った豆を口に放り込みながら向かいに座る魏無羨の言葉に、江澄は片眉を小さく跳ね上げさせた。
    「なんの話だ」
     江澄は山のように積まれた枇杷に手を伸ばした。艶やかな枇杷の尻から皮をむいてかぶりつく。ジワリと口の中に甘味が広がる。
    「いや、澤蕪君の抹額結ぶの」
     話題にしていたからか、ちょうど窓から見える渡り廊下のその先に藍曦臣と藍忘機の姿が見えた。彼らが歩くたびに、長さのある抹額は風に揺れて、ふわりひらりと端を泳がせている。示し合わせたわけでは無いが、魏無羨は藍忘機を。そして江澄は藍曦臣の姿をぼんやりと見つめた。
     江澄が雲夢に帰るのは明日なのをいいことに、朝方まで人の身体を散々弄んでいた男は、背筋を伸ばし、前を向いて穏やかな笑みを湛えて颯爽と歩いている。情欲など知りません、と言ったような聖人面だった。まったくもって腹立たしい。口の中に含んだ枇杷の種をもごもごと存分に咀嚼した後、視線は窓の外に向けたまま懐紙に吐き出す。
     丸い窓枠から二人の姿が見えなくなるまで見送って、江澄は出そうになる欠伸をかみ殺した。ふと魏無羨を見ると、魏無羨も 2744

    sgm

    DONEお風呂シリーズ可愛いね~~~!!ってとこからの派生。
    江澄の右手の後ろに蓮の花が見える気がしました。フラワーバスですか。ちょっと見えすぎじゃないでしょうか。江宗主。大丈夫ですか。いろいろと。
     ゆるりと意識が浮上した途端、少しばかりの暑さを覚えて江澄は小さく眉根を寄せた。覚醒するうちに、五感が少しずつ戻ってくるのが、閉じたままの瞼の裏がほんのりと橙色になり、すでに陽が昇っていることが分かる。
    「ん……」
     小さく声を漏らしてから、ゆっくりと瞼を上げた。ぼんやりと目に飛び込んできた天井を暫く眺めて、寝返りを打つ。隣にいるはずの男がいない。卯の刻は過ぎているのだろう。手を伸ばして男がいただろう場所を探るとまだ少し温もりが残っていた。一応用意しておいた客房に戻って着替えているのか、瞑想でもしているかのどちらかだろう。ぼんやりと温もりを手のひらで感じながら、牀榻に敷かれた布の手触りを楽しむ。蓮花塢の朝餉は辰の刻前だ。起きるにはまだ早い。寝ていていいとは言われているが、共寝をする相手の起きる時間にすっかり身体が慣れてしまった。冬であればぬくぬくと牀榻の中にいるのだが、夏は暑くてその気になれない。今もじわりじわりと室内の温度が高くなり、しっとりと身体が汗ばんで来ている。
     江澄は一つ欠伸をすると、身体を起こした。昨夜の名残は藍曦臣によってすっかりと拭われているが、寝ている間に汗をかいた 2456

    takami180

    PROGRESS続長編曦澄6
    思いがけない出来事
     午後は二人で楽を合わせて楽しんだ。裂氷の奏でる音は軽やかで、江澄の慣れない古琴もそれなりに聞こえた。
     夕刻からは碁を打ち、勝負がつかないまま夕食を取った。
     夜になるとさすがに冷え込む。今夜の月はわずかに欠けた十四夜である。
    「今年の清談会は姑蘇だったな」
     江澄は盃を傾けた。酒精が喉を焼く。
    「あなたはこれからますます忙しくなるな」
    「そうですね、この時期に来られてよかった」
     隣に座る藍曦臣は雪菊茶を含む。
     江澄は月から視線を外し、隣の男を見た。
     月光に照らされた姑蘇の仙師は月神の化身のような美しさをまとう。
     黒い瞳に映る輝きが、真実をとらえるのはいつになるか。
    「江澄」
     江澄に気づいた藍曦臣が手を伸ばして頬をなでる。江澄はうっとりとまぶたを落とし、口付けを受けた。
     二度、三度と触れ合った唇が突然角度を変えて強く押し付けられた。
     びっくりして目を開けると、やけに真剣なまなざしとぶつかった。
    「江澄」
     低い声に呼ばれて肩が震えた。
     なに、と問う間もなく腰を引き寄せられて、再び口を合わせられる。ぬるりと口の中に入ってくるものがあった。思わず頭を引こうとすると、ぐらり 1582

    sgm

    DONEお野菜AU。
    雲夢はれんこんの国だけど、江澄はお芋を育てる力が強くてそれがコンプレックスでっていう設定。
    お野菜AU:出会い 藍渙が初めてその踊りを見たのは彼が九つの年だ。叔父に連れられ蓮茎の国である雲夢へと訪れた時だった。ちょうど暑くなり始め、雲夢自慢の蓮池に緑の立葉が増え始めた五月の終わり頃だ。蓮茎の植え付けがひと段落し、今年の豊作を願って雲夢の幼い公主と公子が蓮花湖の真ん中に作られた四角い舞台の上で踊る。南瓜の国である姑蘇でも豊作を願うが、舞ではなくて楽であったため、知見を広げるためにも、と藍渙は叔父に連れてこられた。
     舞台の上で軽快な音楽に合わせて自分とさほど年の変わらない江公主と弟と同じ年か一つか二つ下に見える江公子がヒラリヒラリと舞う姿に目を奪われた。特に幼い藍渙の心を奪ったのは公主ではなく公子だった。
     江公主は蓮茎の葉や花を現した衣を着て、江公子は甘藷の葉や花を金糸で刺繍された紫の衣を着ていた。蓮茎の国では代々江家の子は蓮茎を司るが、なぜか江公子は蓮茎を育てる力よりも甘藷を育てる力が強いと聞く。故に、甘藷を模した衣なのだろう。その紫の衣は江公子によく似合っていた。床すれすれの長さで背中で蝶結びにされた黄色い帯は小さく跳ねるのにあわせてふわりふわりと可憐に揺れる。胸元を彩る赤い帯もやはり蝶のようで、甘藷の花の蜜を求めにやってきた蝶にも見えた。紫色をした甘藷の花は実を結ぶことが出来なくなった際に咲くというから、藍渙は実物をまだ見たことないが、きっと公子のように可憐なのだろうと幼心に思った。
    2006