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    saka_esa

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    saka_esa

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    少年組と叔父甥

    幼子の覚え ジュワァ、脂のあふれる鶏手羽に齧りつく。甘辛い香辛料に絡められたそれはよくある料理なのだか食べ慣れたものよりも強く辛味が舌を刺激する。
    蘭陵や姑蘇では中々味わえないこの刺激は雲夢が近い証拠だ。
    「辛いな!こんな辛いの食べられないんじゃないか?」
    堪えに堪えた空腹をやっと満たせると肉に齧りついた景儀だったが予想外の辛みに注がれた茶を一気に飲み干した。
    雲深不知処の味に慣れているとは言え味付けに関して言えば市井の濃い味付けの方が好みなのだがさすがにコレは辛い。
    同じく辛み香辛料を好まない蘭陵に住まう金凌とてこれはさすがに辛かろう、そう思っての言葉だったが景儀の予想に反して金凌は慣れた手つきで手羽先をパキリと折ってはするすると肉を外して美味そうに食べている。
    辛さなど気にもかけず、よくよく見れば嬉しそうだ。
    「よく平気だな、ほら」
    食べ盛りなうえ夜狩り後である。いくらでも食べたいが辛さには堪えられず皿を金凌に押しつけた。
    「あぁ」
    「えぇ?怒らないのか」
    人の物まで手を着ける物か!卑しいと思われてはたまらない、普段の金凌ならばそうやって怒鳴るかと思ったが、予想に反して金凌は皿を引き寄せると指先を汚しながらも骨と肉を綺麗に分けてパクパクと食べ進めていく。
    「辛くないのか?舌が馬鹿なのか?」
    「なに?!誰が馬鹿だ!ふん、これくらいで辛いなどと姑蘇藍氏は軟弱だな」
    「なんとでもいえよ、こんな辛さ平気で食べてる方が信じられないよ」
    「景儀食べよう」
    箸先を向ける景儀を思追が窘める。雲深不知処ではないとはいえ食うに語らずは適応されるのだ。目上の者もおらず気心知れたこの顔ぶれではつい気も緩むが家規は家規、品数が減り未練もあるが黙々と皿を綺麗にしていく。
    3人が一昼夜かけた夜狩の後に辿り着いたのは古ぼけた店ばかりが連なる閑散とした村だった。予想以上に手間取り気がつけば食事を何度か逃している。やっと食事にありつけると村にたどり着いた時には安堵した。
    さて店は、とあたりを見渡す。 知らぬ村に来たら食事に当たり外れがあるのは仕方が無い、しかしできればあたりを引きたい。いつもならば人の入りが多い店を狙うのだが、しかしこうも全体的に閑散とした雰囲気ではどこがうまい店なのか人に聞かねばわかりそうにない。誰か、と周囲を見渡していると金凌が「あの店にする」とさっさと店に入って行った。
    どこも似た雰囲気なのに何故ここにしたのだろうか。金凌に押しつけた手羽先以外も食べれば味は良く、景儀も思追も素直に美味いと食べられた。辛いばかりが売りの店でも無いらしい。
    「なぁ、なんでこの店に決めたんだ?辛い匂いにでもつられたのか?」
    皿が空になりすっかり冷めた茶を流しこむ。
    今までを振り返ってみれば金凌との食事はいつもハズレが少ない。入ろうとした店に「私はいかない、そんな店には入らない」などと鼻を鳴らしながら別行動をする日もあるのだが、そういう時に景儀や思追が選んだ店はハズレの確率がとても高い。
    てっきり別行動は蘭陵のご馳走に慣れた金凌のワガママや好み故の選り好みかと思っていたがそうでは無いのかもしれない。
    「私を仙子と一緒にしているのか?フン…確かに匂いもあるが店先を見れば大体分かるだろう」
    金凌の脳裏に何かが浮かんだか、視線がちらりと斜め上を見た。
    金凌はあの蘭陵金氏の直系という事もあり蝶よ花よと気高く育てられたと2人は聞いている。周囲の対応しかり、最近では鳴りを潜めたが本人の傲慢不遜紙一重の振る舞いといい。なによりも浮かぶ紫紺のあの宗主がその印象を強くさせていた。
    だから市井の民が利用するような酒楼で他のものと同じものを食べるなど、ましてや共に卓を囲むなどこうして夜狩を共にしなければ想像もつかなかった。
    「町の屋台や酒楼に馴染みなんてなさそうなのになんで分かるんだ?蘭陵金氏の宗主だろう、町1番の酒楼一つを貸切にして使ってそうじゃないか」
    「金氏をなんだと思っているんだ!そんな無駄な事、今はしない」
    「した事はあるんだな」
    「だったらなんだ!」
    「二人とも、ここで大きな声をだしたら迷惑になる。そろそろ出よう。陽が落ちる前に辿り着きたいし」
    いつものやりとりに区切りをつけ各々財嚢を取り出し銀子を置いた。立ち上がると溜まった疲労が幾分か軽くなっている。このまま一気に目的地まで辿り着きたい。
    「急ぐぞ」
    店を出ると通りは相変わらずの様子で人の姿はそう多くはない。景儀の目には連なる店々の活気も雰囲気も、やっぱりどこも同じで変わりはないように思えた。
    「ここまで来たら一気に行こう」
    「そうだな」
    小休憩を挟みはしたが疲労は残っている。三人は剣を抜くとふわりと飛び上空へと飛んだ。






    空気が生ぬるさを帯び始めると埠頭の賑やかな声も聞こえ始める。
    影に気がついたか、街の人々は突然降り立った仙師に驚くことも無い。それどころか身なりの良い三人に次々と声をかけはじめた。
    「仙の方々!空はいまだ冷えますでしょう!よくよく煮込まれた汁物を飲んでいきなさい!」
    「疲れたら甘いものを食べないと!蓮の餡が食べられるのはここだけだよ!」
    甘いものに目のない景儀は甘味の気配に釣られて視線をあちこち向け吸い込まれるように屋台に向かって行く。
    陽は傾きそろそろ街に火が灯る。昼餉以降は休みなく御剣していたので体も冷えているし空腹もすぐそこだ。ここらへんで屋台をひやかすのも悪くない。
    「景儀、まずは江宗主のところへ挨拶に伺わないと」
    「わかってるよ。それに蓮花鳩で出される料理も美味いのはわかっているんだけど、屋台ってどうしても覗きたくなるんだよな」
    「蓮花鳩の屋台はどこよりも活気があるからね」
    景儀を引き留めた思追も視線は屋台を追っている。来たのは久しぶりの蓮花鳩だが店が変わっているのは分かる。人の出入りが多い交易の要では屋台の様変わりも他と比べて早い。
    「おい、蓮花鳩は屋台回ってからにしよう」
    「江宗主はいいの?」
    「いい」
    「金凌がいいって言うならいいんだろう、俺あそこ覗いてみたい」
    馴染みの菓子屋がある景儀だがまずは新しい店から回ることにしたらしい。店先に並べられた品々を物色しては次の店へと流れていく。
    食べ歩き用の軽食を中心に買い漁り、これは美味い、これはハズレだと顔をしかめては食べさせあう。支払った物が不味いと一人ならば損をしたと気落ちするが三人ならば笑いに変わる。金凌が顔を出すと声をかけてくる店もあり、雲夢は金凌にとって馴染みの土地なのだとあらためて二人は思う。
    「顔が効くんだな」
    「叔父上ほどではない」
    真新しい店はあらかたまわり、すっかり陽も落ちた。そろそろ止めにしなければ江家のご馳走を食べ損ねてしまうと蓮花鳩の門をくぐる。家僕に案内され試剣堂にむかうと先触れにて知らせた刻よりも大分遅れた訪問になってしまったが江澄は嫌な顔をせずに三人を迎え入れた。
    「遅かったな」
    「江宗主」
    久しぶりの対面に姑蘇藍氏の二人は緊張の面持ちで拱手する。
    いつぞやの騒動や金凌を通して知った江澄の人となりに以前よりは気やすさもできているが、やはり他世家宗主である。含光君との犬猿の仲という事もありどうしても始めだけは身構えてしまう。
    「こちらだ」
    藍氏二人の緊張した面持ちも気にせず、江澄は立ち上がり三人を連れて回廊を進む。どこからともなく美味そうな匂いが漂ってきて、屋台で食べたばかりなのに腹が動き今にも鳴りそうだ。
    「おわ…凄い」
    「江宗主、ありがとうございます」
    「冷める前に食べろ」
    通された部屋の卓いっぱいに用意された夕餉は到着が遅れたというのにどれも温かくできたばかりのように湯気が立っている。
    促されるまま座り箸をとる。大皿に積まれた肉の塊、魚のすり身と蓮根の汁物、青菜の炒めは大蒜が効いているのか香り高い。香ばしい胡麻の香りは胡麻団子からか、積まれた饅頭はふっくらとしているのが割らなくともわかる。
    「食べ切れるかな」
    早速目の前の肉にかぶりついた景儀の顔はパッと輝き幸せそうだ。頬も目も蕩けんばかりに緩んでいる。
    「食べてきたのか」
    頬張り喋れない景儀に変わって思追が頷いた。
    「埠頭から屋台を見て回ったのです。以前訪れた時と店が変わり、目新しいものが多かったので到着が遅れてしまいました」
    「そうか、無理はするな」
    後は好きにしろ、言うなり江澄は去って行く。
    「一緒に食べるかと思った」
    これでもかと用意された食事を前に景儀は肩透かしだとつまらなそうに呟いた。







    出先でも変わらず家規通りに就寝した藍氏二人を置いて金凌は江澄の私室へと足を運ぶ。
    「外叔父?」
    返事を待たずに開ける。灯りの落とされた部屋に月明かりの白さが揺れていた。
    「声くらいかけろ」
    「かけたよ」
    江澄が座っている丸窓からは湖が見える。対岸にある街の灯りはいまだ消されずに賑やかさが伝わってくるようだ。
    椅子を引き寄せ座るとほとんど手付かずの肴に目を向ける。干した杏に木の実、落花生が乗せられた皿に手を伸ばす。蘭陵で出る茶菓子よりも素朴なこれらは金凌が雲夢で好んで食べる物だ。手付かずならば要らぬのだろうと落花生をいくつか掴む。
    「屋台はどうだった」
    江澄の視線は湖に向けられたまま金凌を映さない。きっちりとしめられた夜着の袂に髪がサラサラと落ちている。金凌達が到着したのを確認し湯浴みをしたのだろう、金凌が借りた香油と同じ香りがした。
    「埠頭にできた店は面白かった。見たことがない西の物が多く置かれていたから土産物屋として人気がでそうだ…奥三件目の店はそろそろだと思う」
    「なぜだ」
    「入口はかろうじて掃き清められていたけど中は入りたいと思うような雰囲気じゃなかったから」
    じわり、掌が温かくなった気がした。幼少期、叔父が手を引いた時の手は温かかった。

    ――いいか、あれは――これはあそこをみろ…

    雲夢の屋台はいつだって賑やかだ。古参の店以外にも店は入れ替わり立ち替わりが激しく、物珍しさに吸い込まれる金凌は叔父にねだって多くを買ってもらっていた。 江澄は金凌が指差せば銀子を取り出し金凌の手に欲しかった物を落としていった。
    そうしてご機嫌になった幼い金凌を抱き上げ、街の片隅に立つといくつかの店を指差し言うのだ。
    「叔父上が言ったんだろう。古くても新しくても大切なのは清潔さだって」
    人が並んでいる店はだいたいうまい、濃い匂いをいつもわざとたてているところは古いものを食べさせられ腹を壊すから気をつけろ。
    金凌が一人で屋台を回りたがれば、銀子をいくつか持たせ、大きな銀子はお釣りが出せない事もあるから屋台では気を配れ、すこしばかり多くを置いて行くのは構わないと教え、実際に支払いをさせて覚えさせていった。
    幼い金凌をカモにぼったくろうとする輩も居るが江澄による教えで今まで大きく揉めたことも害された事もない。
    「他の新しい店はよさそうだったよ」
    ぱきっ、落花生を割って薄皮をつるりと剥いた。
    江澄は手にした酒をぐいっと呷る。いまだ湖を見つめたまま、そうか、とだけ呟いた。
    その横顔は穏やかに笑みを浮かべている。その笑みが浮かんだ顔に重なった。
    「いつもの酒楼に婆がいなかった……」
    「……………」
    「わかるだろ、いつも飴を握らせるあの婆」
    覚えていないはずがないのに答えない叔父に、抱いていた嫌な予感は当たりなのかと息をのむ。
    雲夢を庭に遊び歩いていた幼少期。ぼっちゃん、と呼んでは金凌に飴を握らせようとする気立ての良い婆に、昨今久しく会えていなかった。最後に会った時には腰が随分と曲がっていたのでとても驚いた。記憶ではもっとピンとしていたのに。
    歳を取るのが早すぎるのではないかと言えば、婆は慈しみの目を向け両手に納まりきらぬほどの飴を金凌に押しつけてきた。
    突然どうしたのかと狼狽え、飴はいらぬと押し返したが、うまく受け取れなかった婆の手からは飴がこぼれ落ちた。
     ――あ
    罪悪感がわいたがまた飴を押しつけられるのが恐くて「また来る」と離れたが、「また」が無いことをあの時すでに婆は知っていたのか。
    「飴くらい受け取れば良かった」
    婆が急に老け込んだのではない、金凌が成長したのだ。婆に残された時間がどれほどかなど分からないが、寿命だけでいえば金凌より先なのは確かだ。
    もっと雲夢に来ていたら、もっとあれをしてやれば…今更の現実的ではないたらればを連ねても遅い。悔やむのは好きじゃ無いのにと目が潤んで俯いた。
    「……ふっ」
    「何笑ってるのさ…」
    叔父のこぼした笑い声に顔を上げると叔父は金凌を見ていた。あの婆のように慈しみの満ちた瞳にたじろぐ。
    「岐山の方に腰によく効く湯がでたらしい」
    「…腰?湯…?」
    「湯治に賑わっているそうだぞ、聶懐桑が言っていた」
    江澄はゆっくり立ち上がると金凌の肩に手を置く。
    「婆はまだ老け込んだ、などとは言われたくないそうだ」
    「え?…なっ…なんだよ!」
    顔を真っ赤にして手を振り払うと江澄はハハハと笑う。
    勘違いをしたのは自分だがからかわれたようで気が収まらず、金凌は腕を組みむすっと頬を膨らませる。宗主の振る舞いとは思えない幼い言動もここならば許される。
    「次は飴を受け取ってやるんだな、うるさくてかなわん」
    「ふん!」
    わかったとも嫌ともいえず。江澄の背中に投げられた豆がこつんと当たって床に跳ねた。
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    recommended works

    takami180

    DOODLEお題箱の「攻めがずっと強いガチャ」より
    澄にかぷかぷ甘噛みされる曦 澄を食べてしまう獣は自分の方なのにと思いながら曦は自由にさせている

    ちょっとずれたけど、出来上がってる曦澄です。
    かぷり、と耳を噛まれて藍曦臣は身を震わせた。
     先ほどまで隣で庭を見ていた江澄の顔がすぐ近くにある。
     瞳はつややかな飴の光沢を宿し、うっとりとした声が名を呼んだ。
    「藍渙」
     かぷり、ともう一度耳を噛まれる。
     藍曦臣は微笑して、江澄の腰に手を回した。
    「どうしました? 庭を見るのに飽きましたか」
    「ああ、飽きた。それよりも、あなたがおいしそうで」
    「おや、夕食が不足していましたか」
     江澄はふんと鼻を鳴らして、今度は衣の上から肩を噛む。
     予定よりも飲ませすぎたかもしれない。藍曦臣は転がる天子笑の壷を横目で見た。
     ひと月ぶりの逢瀬に、江澄はくっきりと隈を作ってやってきた。それも到着は昼頃と言っていたのに、彼が現れたのは夕刻になってからだった。
     忙しいところに無理をさせた、という罪悪感と、それでも会いにきてくれたという喜びが、藍曦臣の中で綾となっている。
     今晩はしっかりと寝んでもらおうと、いつもより多目の酒を出した。江澄には眠ってもらわなければいけない。そうでないと、休んでもらうどころの話ではなくなってしまう。
    「おいしいですか?」
     江澄は肩から顔を上げ、藍曦臣の豊かな髪を腕 1073

    巡(メグル)@20216575z

    DONEわかさんのスペースでお話されていた病弱江澄のお話の一部設定を使わせて貰ったお話。
    ①出会った時、澄は曦を女の子と勘違いする
    ②江澄が病である
    ③澄が曦の元を去る
    ④最後はハピエン
    上記四点を使わせていただきました。
    本家のお話はわかさんに書いていただくのを楽しみにしてます。

    宜しければ感想お聞かせください🙏
    病弱江澄ss曦澄おち「もうここには来んな」
    「どうして?そんな事言わないで、阿澄」
    「どうしてもだ」
    「明日も会いに来るから」

    そう言って帰って行った彼。
    綺麗な顔を歪ませてしまったけれど仕方がなかった。

    小さな頃の約束は果たせそうにない。
    ごめんな。




    初めて藍渙…あの頃は阿渙と呼ばれていた。
    出会ったのはココ。
    このクラス10000の清浄な空気に囲われた箱庭みたいな小さな世界だった。

    俺と同じ病の弟のドナーになるためにこの病院にやってきた彼。
    小児病棟の端っこで他の患児達と混じることなく一人でいた彼はとても可愛らしい顔に不安を滲ませラウンジのベンチに座っていた。

    「忘機…」
    それが弟の名前だったらしかった。

    何となく気になってしまった俺はその子に声をかけてしまっていた。今から思ったら笑えてしまうけれどその時俺は一目惚れをしてしまったのだった、彼に。
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