60 鍾魈コーヒーの入ったマグカップを片手に、鍾離はベランダに続く窓際に立ち、朝の訪れと共に白んでいく空と街を眺めていた。
一五階建てのマンションから見下ろす視界の中には、昨晩降った雨で光を反射する屋根が映る。駐車場に並んだ大小様々な車も同様で、特に白色の胴体を持ったものは一粒の宝石にも見えた。
近隣にある小学校からは、日中であればチャイムや吹奏楽の奏でる音が聴こえてくるが、今のところそれらは一切届かない。まだ眠っている箱にこれからたくさんの声が宿ることを、鍾離は密やかに楽しみにしていた。
璃月にいた頃にも、早朝、街を見下ろせる高所から景色を眺める時間があった。
理由として挙げられるのは、国の繁栄に翳りがないかの確認であることがほとんどだったが、凡人として生きることを決めた後には、ただ人の営みがあることを感じ取ることだけが目的だったように思う。
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