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    nxxmayoxx

    @nxxmayoxx
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    #ネロ
    nero
    #ヴァイネロ
    vignello
    #SS

    Re:construction 全部を上手に無傷で始末出来たら、誰にも彼にも褒められた。賞賛、喝采、歓声。中でも兄からの激励はこれ以上ない幸福だった。地下深い箱庭の中で一番上手に何でもできる兄が、ボクのことだけは出来の良さを声に出して評価してくれる。その瞬間だけは同じ母体から産まれた個体であることを誇って良い気がして、世界全てが手の中に収まったような心地だった。自分と兄だけがその世界には立っていて、兄からの賛美は全部ボクだけのものだった。
     だけど少しずつ、少しずつ、美しかった二人だけの楽園が侵食された。被験体が数を増やしていくうちに、突出した才も現れた。有象無象だったものに色が付けられて、見たくもないのに他とは違う確かな輪郭を認識させられる。自分と近しいところへ迫ってくる影に、半ば無意識に怯えている。兄もまたそれらを目にして、あろうことか笑うのだ。役に立ちそうだと笑うのだ。一目置いている、置かれているのか。兄からの褒め言葉を受け取っている者がいるのか。ひやりと背筋を伝った不安はある日、確かに聞こえた声で確定する。いるのだ。ボク以外にも。
     段々と全部を上手に無傷で始末するのは、ボクでなくても出来るようになって。新たな才が成すことには白衣の馬鹿共が騒ぎ立て歓喜する。一方、ボクが殺るのなら当然だからと愚鈍な連中はもう歓声をあげない。兄だけは変わらず褒めて撫でてくれるけれど、知っている。貴方にとって役に立つなら、貴方はそれらも一番上手に使うから、その為に上手に出来たなと褒めること。貰える言葉の飴玉が唯一でないこと。
     何だか上手に殺ることが虚しくなってきて、無価値に見えてきて、そんなことでしか愉悦を得られない己が惨めに思えて、あらゆる殺戮を雑にこなすようになったとき。取るに足らないような雑兵から傷をひとつ、もらってしまった。
     浴びる落胆は山ほどだったけれど、そんなものは幼い頃に沢山貰ったことがあるから今更何でもない。兄以外の鞭なら痛みなどありはしない。
     変に指先が震えるのは、もしも兄から切り捨てられたらどうしようかと、今まで考えもしなかった恐怖がじわりと滲んでいるからで。愚図に向けられていた冷たい碧がこちらに向いたらどうしよう。いよいよもって、唯一でない自分は世界を失って消えちゃう方が良い気がする。
     脳髄を砕いてしまおうか迷いながら、心臓を切り離してしまおうか悩みながら、そうして、傷を残したそのままで兄と対面した。


    「――何があった?」

     向けられた碧は揺らめいて悲しげで、不思議と温かいものだった。大好きな声は労わるように、慰めるように、柔らかく優しい。何時もの賞賛の声ではない、だけれど。
     嗚呼、これだ!
     他の連中はこんな下手を打ったら冷たく切り捨てられるのに、ボクにだけはそうじゃない。ボクにだけはこんな優しい顔をしてくれる。ボクにだけは温度のある指先で触れて癒してくれる。ボクにだけ、ボクにだけの特別だ。
     それからも何度か傷を増やしてみたけれど、毎回兄は心配してくれた。撫でてくれた。癒してくれた。労ってくれた。受け止めてくれた。偶々ではない、気まぐれでは無い! 確かな自分だけが貰えるご馳走だ。
     自分の輪郭と芯を取り戻したような気持ちがして、全身に血と恍惚が巡るのがとても気分が良かった。

     だからボクは今日も上手くやらなくちゃ。完璧ではなく無傷ではなく、皆が満足する程度には皆殺しにして、周囲が畏怖する程度には凄惨にして、死んだり壊れたりしない程度にボロボロになって。
     誰より恋しい貴方から、ボクだけがずっとご褒美を《心配して》貰える様に。
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