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    江 谷

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    江 谷

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    『キミにうたう「すき」のうた』(http://sukinouta.web.fc2.com/)さまより【黒子と火神に7のお題】をお借りしました。(黒バス)

    6.恋する1on1『目が合う回数が増えたなら、それはあなたに気がある証拠』


     アイコンタクトなら、何度も誰とでもやってきた。でもそれは合図であって、視線の交換ではない。
     そもそも、黒子は合図以外に視線を交わらせることが少ない。会話をする時などは相手の方を見るが、それでも一対一でもなければ、そうそう発言者と目が合うこともない。
     なのに最近、バスケ以外で火神と目が合うことが多くなった。大抵は黒子が気付くと火神が目を逸らすパターンなのだが。

    (ガンつけられてる……とか?)

     確かめたことがないから分からないままになっているが、そのことが少し黒子は気になっていた。

    ✴︎

     屋外のコートは館内よりも当然地面が荒れていて、だから思った方向とは違う向きへとボールが逸れることがある。
    「あっ、やべっ!」
     火神の持っていたボールがコートから転がり出ていく。黒子がそれを追った。
     ボールを拾いコートに向き直ると、またしても火神と目が合った。
     黒子が思わず後ろを振り返る。

    「いや、何もねぇし」
     火神のツッコミに黒子は顔を戻した。
    「なんか最近、よく目が会いますね」
     コートに戻りながら、黒子は思いきって聞いてみた。
    「そうかぁ〜?」
     火神はあさっての方を見ながら、とぼけた返事をする。
    「ボク、なんかしましたか」
    「はぁ?」
    「まるで心当たりがないんです。言ってもらわないと、分からなくて」
     はぁ? のままの口で火神が黒子の顔を見る。黒子は感情の分からない顔で、火神を見上げていた。
    「いや別に、なんもされた訳じゃねえし……」
     口ごもりながら、火神がまた視線を逸らす。
    「じゃあ、気のせいですね」
    「えっ、お前、切り替え早すぎるよ!」
    「どうして火神君が慌てるんですか」
     黒子には悪気がまったくないのだが、こういうやり取りが火神をイラつかせているのだろうという自覚はある。
    「やっぱり、ボクのせいですか……」
    「勝手に自己完結すんなよ。もっと他に理由があるかもしれねーだろ」
     ボールをみつめて俯く黒子に、火神の声は届かない。

    ✴︎

    「パス回せ! おい、動け!」
    「走れ! 戻り遅ぇぞ!」

     館内にスキール音と掛け声が響く。3 on 3 の真っ只中だ。
     黒子はコート外で試合を見ている。
     日向の 3ポイントで試合は終わった。

    「いやぁ、アレはすごいな」
     木吉の呟きに黒子も同意する。
    「あれは、ないですよね」
    「うん?」
     木吉が不思議そうな顔をして黒子を見るので、黒子も木吉の顔を見た。
    「なにがないって?」
    「え、さっきの火神君の動きは……」
    「火神? 違う違う、今のは日向を褒めるとこだろ」
    「えっ……?」
    「えっ、てお前、見てなかったのか?」
     実は見ていなかった。試合をしていれば、普通はボールの動きに合わせて人を見る。はずなのだが、何故か黒子はボールを奪われた火神の方に注目していたのだ。
    「……すみません」
    「別に謝ることじゃないけど。ところで、なんで火神見てたの?」
    「……なんででしょう?」
    「オレには分からないよ」
    「なんでですかね……」
     考えながら下を向く黒子の小さくなっていく言葉尻に、木吉は横目で火神の方を見た。
     火神は黒子を見ているようだった。

    ✴︎

     それから黒子は考えた。そして、火神が自分を見ていること気付くということは、自分も火神のことを見ようとしていたのではないか、ということに考えが至った。
     バスケの試合中ならともかく、日常生活で黒子の視線を意識している人間は、まずいないだろうと思う。そうだからこそ、自分はいままで火神のことを見ていたことに気が付かなかったのではないか。

    (ボクはどうして、こんなに火神君のことが気になるんだろう)

     考える黒子の視界には、自然と火神が入っている。

    ✴︎

    「あれからボクなりに考えてみたんですけど」
     黒子が 3P を狙ってボールを放るが、案の定リングに当たって跳ね落ちた。それは火神も予測済みで、慌てずゆっくり拾いに行く。
    「どうやらボクは、火神君のことが気になって仕方がないようです」
     黒子の言葉に、ボールを拾うため前屈みになっていた火神の動きが一瞬止まった。少しの間、そのままの姿勢でいたが、火神はボールを拾うと、指先で回しながら黒子の所に戻ってきた。
    「何なんだよ突然」
    「火神君はどうですか」
    「はぁ? オレ!?」
    「火神君は、ボクのことが気になりませんか」
    「気に……は、なるけど……」
     火神が目線を黒子から逸らす。黒子は火神の指先からボールを取り上げ、火神の注意を引き戻した。
    「なんだかよく分からないけれど、これは何かの始まりなんじゃないかと思うんです」
    「何かって……なんだよ」
    「それはまだ分かりません。でも、どうして目が合うかの理由がわかったから、ここからが始まりなんじゃないかという気がするんです」
     黒子がまっすぐ火神の目を見る。火神はそれをじっと見つめ返している。

    「なんか変な感じなんです。いままで、あまり人に意識されていたことがないので……」
     黒子は手元のボールをみつめながら呟く。
    「でも、火神君と目が合うのは、そんなに嫌じゃなくなってきました」
    「嫌だったのかよっ!!」
     思わず火神が突っ込む。
    「なんか……変な話になりましたね」
     黒子は顔を上げると、一瞬だけ火神を見てからくるりと半回転し、

    「続き、やりましょう」

     といって、ボールをゴールへ再び放った。
     今度はきれいに、ボールはゴールネットを通過した。
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