wish upon a star　身を切るような気温の中で、澄んだ星空を見上げている。
　なにかの流星群に遭遇しているのかもしれない。ほんの数分の間に星がいくつも尾を引いて流れ、いつの間にか開いていた口元からは白い息が夜に消えた。

「あ、オレ何も願い事とかしてなかったわ……」

　隣で同じように空を見上げていたロウが思い出したように呟く。それを聞いてアクビーも、ようやく流れ星には願い事をするものだということを思い出した。

「今からするといい」
「そうだな」

　冷気に鼻をヒリヒリさせながら、短いやりとりをする。その最中にも、また幾つか星が流れた。

　そもそも思い出さなければ出てこない程度の願いならば、そんなものはないに等しい。そして、想いの強さで実現の可否が決まるわけでもない。
　願いを叶えたいならば、それに見合うだけの何かしらの働きが必要だ。それは努力だったり運だったり、金銭だったりするかもしれない。そして、それらをいくら注ぎ込んでみたとしても、絶対に無理なことというのは、哀しいことにこの世の中にはたくさんあるのだ。

　どんな願い事であれ、叶う時は叶うし、叶わない時は叶わないということをアクビーは知っている。
いまでは気休めにも星に願いを、などとは思わなくなっていた。

　ふっ……と、小さく息をはいて俯く。
　苦笑なのか嘲笑なのか自分でもわからない。そんなアクビーの様子をロウは横目で伺った。

「いま、オレのことバカにしたろ」
「いや、違う……。あまりにも自分がつまらなくて笑えただけだ」
「……流れ星見ながら何考えてんだ」
「まったくだ」

　アクビーの視線は地面から上がらない。ロウは再び夜空に視線を戻した。

「ほら、しっかり見てないと流れ切るぞ」
「別にいい」
「よかないだろ。次も見れるとは限らないんだぜ。いま見とけって。……願い事はしたのか」
「願いなどない」
「即答かよ」

　飽きもせず星空を眺めるロウにつられて、アクビーも再び目線を上げた。
　すぐに星が落ちる。

「……今夜は願い放題だな」

　アクビーの嫌味にも負けず、ロウは「お前もなんか願っとけって」と相変わらず勧めてくる。

「しつこいな。願い事なんかないと言ってる。そういう君こそどうなんだ。さっきから一つでも星に願いは届いたのか」
「あー、どうかなあ……」
「結局、自分も信じてないんじゃないか」
「いやー、いや、そうなのか……？」

　ロウの返事は煮え切らない。内容のない会話をしながら、それでも夜空に流星を探す。

「本当の願い事は、多分オレも星には祈らないからなあ」

　ロウの呟きにアクビーは呆れた。

「……じゃあ、君は一体なにをそんなに願え願えと」
「お前にも、何かにすがってみてほしかったんだよ。神様以外の何かに。もっと欲を出してほしいっていうか……悪かったな、しつこくして」
「………………」

　その方法に疑問は残るが、また何かロウが気を回して自分を心配していたのだという事は分かった。アクビーには心配される理由が分からないのだが、なぜか毎回よく怒られた。そしてそれを、面倒くさいと思いつつ安心している自分もいた。

「君が考えている事はまったく理解できないが、願うことが望みとあらば、世界平和ぐらいは願ってもいい」

　なんの譲歩かアクビーがそんなことを言ったので、ロウは思わずアクビーを振り返った。

「なんだ、その反応は。やっぱり君はよく分からない」
「いや……なんでもいいよ。目的があるなら何でも」
「そうか。……ところで、願い事とは思い出すようなものなのか？」
「はい？」