ふくふくふくふくと、幸福をはらんだ湯気がたちのぼる。
このところ、初夏のような気候が続いていた。ヒーロースーツも夏仕様に調整すべきか、と頬の輪郭を伝い落ちる汗の滴を拭いながら考えていたのがつい半日前。
それなのに今朝は、一瞬迷った末にエアコンのリモコンを手に取って「暖房」ボタンを押した。体温調整は得意な焦凍でもフローリングを踏む足の先に冷えを感じる。今、二人分の体温にあたためられた布団の中でぬくぬくと眠るいとしいひとが、少しでも快適に起きてこられたらいい。
やかんを火にかけて、食器棚からマグカップを二つ出す。さすがに豆を挽く時間は中々取れないが、美味しいものを探してはストックしているコーヒーのドリップバッグも、二つ用意した。湯が沸くまでに昨晩出久が買って帰ってきたパン屋の袋をダイニングテーブルに出し、何種類もあるパンを頭の中で自分用と出久用にわけた。――わけることが、できるようになった。出久は何が好きで、自分は何が好きだと思われていて、そういうことが分かるようになったからできることだ。
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