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    chartreuse

    @chartreusa

    夏五と膝髭

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    chartreuse

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    夏油が甘やかしすぎたせいで五条が手の付けられないわがまま坊ちゃんに成り果てた話。
    転生もの、みんな大学1年生。付き合ってない夏五。
    続きます。

    #夏五
    GeGo

    「五条、あんた周りの評判最悪だよ」

     そう告げた硝子の渋い顔を見つめて、ぱちりと瞬きを一つした。ストローに口を付けたまま首を傾げると、硝子は億劫そうにため息を吐く。

     硝子の言う周りとは、大学での友人――と呼べるほどでもない、気まぐれにつるむことのある他人のことだろう。取り巻きという言い方が正しいかもしれない。
     誰もが知る企業グループの創始者の一族に生まれ、尚且つ目立つ容姿をしているせいで、俺が誰なのかを知らない奴はいなかった。昔からずっと、俺に取り入って甘い汁を吸おうとする人間、顔と金目当てに群がる女どもが後を絶たない。
     大学なら人間関係も少しは変わるかと思ったが、行きつく先は同じだった。
     その連中が零す愚痴でも耳にしたのだろう。硝子が言うには、こうだ。

     遅刻するのは当たり前、約束破りやドタキャンも酷い。
     ちょっと気に入らないことがあると理由も言わずに不機嫌をまき散らして空気を最悪にする。更に酷いと「帰る」とだけ告げてその場を後にすることもあった。
     機嫌が良いときは人が変わったように気さくなのに、その落差が激しくて困惑する、等々。

     正直、それの何が悪いのか全然分からない。

     遅れてでも行ってやってんだからそれだけでありがたいと思えよ。
     当日になったら急にだるくなって行きたくないなって思うことあるだろ?
     傑なら、出かける約束をしていても「今日やっぱ外出る気分じゃない。だるい」と言えば、「そっか。じゃあまた悟が行きたくなったら行こうね」って言ってくれる。
     この前の旅行のときは宿も新幹線も手配済みだったからさすがに取り止めにはできないと思ったのか、傑はベッドから出ない俺の頭を撫でながら、「ねえ悟、本当に行かないの? あんなに行きたいって言ってたじゃないか。きっと楽しいよ?」とずっと優しく言葉をかけてくれた。
    「ほら、洗面所連れて行ってあげるから」
     そう言って俺を抱き上げて支度を促して、服も全部クローゼットから持ってきて着替えさせてくれた。
    「この服やっぱり似合うね。かっこいい悟とお出かけしたいなぁ」
     靴下を履かされながら「まあ、行ってもいいかな」と呟くと、傑が嬉しそうな顔をしたから良いことしたなって思ったくらい。
     行ってみたら結構楽しくて、旅行中はずっと気分が良かった。

     傑だったら、いきなり不機嫌になっても言葉を尽くして俺を宥めてくれる。追い払っても八つ当たりで何を口走ってもずっと側にいてくれる。
     俺にとっての世界ってそういうもんなんだけど?

     大体、嫌ならわざわざ関わらなければいいのに。
     大人数で遊ぶのは嫌いではないし普段行く機会のない場所に行けることもあるから、傑がいないときの暇潰しにはちょうどいいと思って付き合ってきた。講義をサボりたいときとか傑に頼めないようなことを頼むのにもちょうど良かったし。
     あっちも俺に顔を売れて、互いに利のある関係だと思ってたけどな。
     それだけの、何の思い入れもない相手だ。
     俺が信用してるのは傑と硝子だけ。あとはどうでもいい。
     それが偽らざる気持ちだったが、だからこそ、相容れない意見だったとしても二人の助言や忠告には耳を傾けようとは思っている。ここで言いたいのはそういう意思があるということで、実際素直に聞けているかは、とりあえず置いておいて。

    「俺の家にしか興味のない奴らに優しくしてあげろって?」
    「そういう奴らがほとんどなのは否定しない。けど、そうじゃない奴だっていたよ。最初からみんな同じだと決めつけて、ぞんざいに扱うのは賢いやり方じゃないと思う」

     まあ、一理ある。
     けれど持って生まれた性格は変えようがない。俺だって別に、困らせようとわざと不機嫌になってる訳じゃない。一度嫌だと思ったらもう嫌なのだ。

    「あと、中途半端に期待を持たせては捨てるようなことして、振り回すのもやめてあげたら」
    「えー? 硝子それ、何のこと言ってんの?」

     そんなことしたっけ。心当たりが全く無い。

    「……ほら、数オリの彼とかさ」
    「なんだっけそれぇ~………………あ、あいつか」

     入学して少し経った頃、数学オリンピックの優勝者が同じ学部にいるという噂を聞いた。数学オリンピックは名前を聞いたことがあるくらいだった。調べてみると高校までの知識で解ける問題だということで、大したことないだろうと高を括って問題を見てみると意外と難しい。これを解ける奴ってすげえ、と素直に感心したのだ。
     だからそいつを見つけ出して、初対面にも関わらず話しかけてあれこれ質問攻めにした。いきなり距離を詰められて動揺しているようだったが、問題用紙を見せると合点が行ったような顔をして、親切に解説してくれた。

    「この問題さぁ、どうやって解くの?」
    「この問題は、こことここに線を引いて……ここが正三角形になるから……」
    「あー、そういうこと!? これ思いつくのすげーな」

     しばらくそうやって絡んでいたが、教えられるうちに大体自分で解けるようになってしまい、それからぱたりと話しかけるのをやめたのだった。

    「なんだこんなもんか、って思ったら急に興味なくなったわ」
    「態度が露骨すぎるって。つい最近までにこにこ話しかけてたのにいきなりそっけない反応されたら誰でも傷つくよ」

     そう言われると、確かにそうかもしれない。
     けど、それでも俺に振り向いてもらえるよう努力しようって気はないのかよ。

    「別に追い払ったり無視してる訳じゃないし……気にせず絡めばいいだけだろ。傑だって初めの頃は話しかけても反応薄くて、なんかあんま俺に興味なさそうだったけど……結構がんばったんだからな!」
    「へえ、意外」

     高校の入学式、新入生代表に選ばれたのが傑で、俺が一番だと思ってたのに気に食わねぇなと思ったのがきっかけで声を掛けた。

     コーヒーに口を付けた硝子が、ふうと息を吐く。

    「口の悪さだけでも気を付けたらちょっとは印象良くなるんじゃない? 隣の席に座ろうとしただけで暴言吐かれるとかいう噂も聞いたよ」
    「あー、失せろブスって追い払ったことあるわ」

     女の子に酷いこと言っちゃダメだよ、って傑に注意されたから覚えてる。
     だってあの女、胸元強調して傑の気を引こうとしてんの見え見えでイラついたんだよ。

    「酷すぎて逆に尾ひれが付いてないことなんてあるんだ」
    「つーかさぁ、んなもん好きに言わせときゃ良いんだよ」
    「五条がそんなん気にするたまじゃないって分かってるけどさぁ……夏油も一緒に悪く言われてるよ」
    「は? なんで?」

     傑は人当たりは良いし、誰にでも平等に接しているから好意的に見ている人間の方が多いはずだ。傑目当ての女が次々に湧くのが目障りで、もうちょっとモテなくなってほしいと思っているくらいなのに。

    「……五条のわがままをなんでもはいはい聞いてるから。完全に巻き添えだね」
    「そんなん他の奴らに関係なくねぇ?」

     目を丸くしていると、硝子が数日前の俺と傑のやり取りに言及する。

     三人でカフェに入ったときのことだ。
     注文を任せて席でぼーっと待っていると、戻ってきた傑が俺の前にストロベリーフラペチーノを置いた。
     確かにストロベリーフラペチーノは気に入ってここのところ続けて飲んでいたが、今日はそういう気分じゃなかった。

    「バニラフラペがよかった」

     そう言って唇を尖らせると、傑は少し申し訳なさそうな顔で笑って、

    「ああ……ごめん、ちゃんと確認すれば良かったね。すぐ買ってくるから、待っててくれるかい?」
    「うん。あ、ホイップ増量でアーモンドミルクにして」
    「分かったよ」

     こんなのはよくあるやり取りだった。何がいけないと言うのだろう。
     皆目見当もつかないという風でいると、硝子が呆れたように言う。

    「夏油は五条の腰巾着だとかパシリだとか言われてる」
    「はぁ~!? 傑は親友だし! 俺にめちゃくちゃ甘いだけだっつーの」

     心外だ。
     怒りを露にする俺を見て硝子は肩を竦める。

    「甘すぎでしょ。何が飲みたいかくらい先に言っとけって横で聞いててもイラっとしたよ」
    「言い忘れてたんだよ」
    「だとしても自分で買いに行きな?」
    「だって傑が行ってくれるって言うから……」

     そんなにおかしいことなのか?
     でも硝子がそう言うなら、一般的な評価はそうなんだろう。
     自分が周りにどう思われていてもどうでもいいが、傑がそんな風に見られているというのはいただけない。
     とはいえ、口で言ってどうなるものでもないし。
     噂を消すには同じく噂だ。真実味があって、人が興味を惹かれそうなものでかき消すほか無いだろう。俺が明日から聞き分けの良い子になるとかは無しで、何かあるだろうか。
     もっとこう、仲良し大親友アピールみたいなのをした方がいいのか?

     そんなことを考えているときだった。

    「え、じゃあ何店舗も問い合わせてくれたの?」
    「そうなのー、絶対これじゃなきゃやだぁ、って言ってたら一生懸命探してくれたの♡」
    「えー愛されてるー♡」
    「すごく遠くのお店だったのに買いに行ってきてくれてー♡」
    「いいなー! そんな彼氏ほしい~」

     声の方向に視線を向けると、数人の女の中の一人が、腕に付けたアクセサリーを周りに見せている。
     なんとなくそのまま聞き耳を立てていると、どんなにわがままを言っても叶えてくれる彼氏を持った女の自慢話が展開されているようだ。友人たちがしきりに羨ましい、と声を上げている。俺だったらこんなめんどくさい女、秒で別れると吐き捨てたいような内容ばかりだったが、その場は彼氏に対する好意的な意見で溢れていた。

     彼女のわがままを何でも聞いてあげると良い彼氏で、周りの印象も悪くないのか。
     じゃあ周りの奴らに俺と傑も恋愛関係だと思わせれば良いってことか……?

     名案だと思った。
     早速構内のカフェテリアで一番目立つ席を陣取って、飲み物を買ってきてくれた傑に顔を寄せる。

    「ありがと、すぐる♡」

     チュッと音を立てて頬にキスをすると、周りがどよめくような気配がする。
     効いてる効いてる♡
     もっと俺達を見ろと念じながら、周りの目なんて全く気にしてませんという顔をして傑だけを情熱的に見つめる。誰かと付き合ったことなんかないけど、カップルってこんな感じだろ?
     キスをされた傑は微かに目を見開いて、少し照れたように目を逸らした。
     その反応が意外で、思わず目を瞬かせる。

     なんか可愛い。

     傑はいつも余裕があって、焦ったり恥ずかしがったりする様子をあまり見たことがなかった。
     当初は見せつけるのが目的だったのに、傑のはにかむような顔をなんだかもっと見たくて、何かにつけてはキスをするようになってしまった。

    「あっ五条くんと夏油くんだーかっこいい~♡」
    「ねぇ知ってる? あの二人って……」
    「何それ!? 知らない」
    「この前見たもん、五条くんが夏油くんのほっぺにチューしてたとこ」
    「えー、ウソー……!」

     こうして、俺と傑が付き合っているという認識が周囲に広まりつつあった。

     これで誰にも傑を悪く言わせない。
     俺は安心して元の生活に戻れるのだった。



    「そういうことじゃない」
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