かわいい子には旅をさせろかわいい子には旅をさせろ。若い頃、国外から来た客人にそんなことわざがあると教わった。
弟子は皆可愛く思う。その中でも、藍忘機には才能を感じ、早くから様々な夜狩に向かわせた。

その結果、どうなったか。

丹精込めて育て上げ、特に気に入っていた弟子は得たいの知れない人間なのか魔なのかよくわからない奴に惑わされてしまった。未だに二人の仲をよくは思っていない。いつか藍忘機が魏無羨に飽きてくれればいいのにとさえ思っている。

しかしそんな日は来ないだろう事はわかっていた。
藍忘機の執着心は父親にソックリなのだ。
そしてもう一つ、藍啓仁は理解している事がある。表向きは魏無羨が藍忘機を惑わしたように見えるが、実際は違う。

魏無羨は昔から美しい女性が好きだったという噂はかねがね聞いていた。

そんな男がどうやって甥をたぶらかすというのだ。二人が結ばれたのは、ひとえに甥の努力のたまもの。何があったかまでは知らないが、長らく恋焦がれた相手を手中に収めたのだ。きっと、死ぬまで手を放すつもりはないだろう。

回廊で抱き合い、そして口づけを交わす二人を見た藍啓仁はため息を吐いた。

ここへ来た当初、あれだけ口を酸っぱくして注意したのにもかかわらず、魏無羨はいとも簡単に規則を破る。今に始まったことではないが、これは本当に藍啓仁の頭を悩ませていた。彼に悪意が無いのはわかっている。

刹那、今は亡き江楓眠が「嬰はそういう子なのです」と言っていたのを思い出す。

もはやこちらが諦めなければならない領域なのだと口にする彼に、何を言っているのかと江楓眠を叱りつけた。しかし、今になって彼の気持ちが少しわかってしまった。

魏無羨という人間を知れば知るほど。だからと言って魏無羨をこのままにしておく気はない。

最近は節度を保って藍忘機と接している様子だったが、また注意が必要だなともう一度息を吐いた。

蔵書閣へ入ろうとする二人に声をかけ、藍啓仁は今日もクドクドと長い説教をするのだった。



fin.