藍忘機の笑うツボ今日は外で琴を練習する日だ。空に向かって衝撃波を連打する。数回打つだけで藍思追と藍景儀はヘトヘトになってしまった。休憩の合間に、二人は藍啓仁の目を盗んで雑談をしていた。
含光君が笑うところなんて見た事ない。そんな話を二人の弟子達が話すものだから、なんとなくついてきていた魏無羨も間に割り込んで言った。
「藍湛はけっこう笑うぞ」
「嘘だ。いつも厳しいお顔をされているじゃないですか」
藍景儀の反論に魏無羨は「じゃあ見てろよ」と言って、琴を弾いている藍忘機に駈け寄った。
「藍湛、藍湛、こっち向いて」
琴に手を置き、音を止めた藍忘機は静かに魏無羨の方を向く。
「なんだ?」
魏無羨がにぱっと笑って言った。魏無羨が来てからというもの、藍忘機の表情は幾分か優しくなっていることに弟子達は気づいていた。しかしそれはほほ笑みからは程遠いものだ。ぜったいに藍忘機を笑わせる事などできはしない。わかりきってはいたが、目を離せずに弟子達は魏無羨を見守る。
「俺、さっき江澄に蓮花塢にしばらく泊りに来いって誘われたんだけど、藍湛と離れるのが死ぬほど嫌だからって言って断ったんだ」
「フフ…」
藍景儀と藍思追は衝撃を受けた。含光君が今、かすかな笑い声と共に表情を柔らかくしたのだ。うっすらと微笑んでいる。目に見えて笑う含光君など、未だかつて一度も見た事がなかった。
タタッと魏無羨が弟子二人の元に戻り、
「なっ?笑うだろ?」と言う。
子ども達は呆然としたままコクリと頷いた。
fin.