藍湛の照れ「含光君はやっぱり凄いです!」
「私もいつか含光君のように!」
「無駄のない身のこなし、尊敬します!」
藍忘機はこのような賞賛を十代の頃から当たり前のように耳にしていた。今更誰に賞賛されようとも眉一つ動く事は無い。
今宵の教鞭は藍忘機が指導する事になった。
霊獣に襲われた時の基本的な対処を藍忘機から学び、明日魏無羨の霊獣退治指導の際にどう応用すべきかを実践で学ぶ予定となっている。御剣してこちらに向かってくる藍忘機に魏無羨が声を上げた。
「良い見本だったぞ含光君。あの剣の突きの鋭さと言ったらもう!しびれて立てなくなりそうだった!」
「言いすぎだ」
宙に浮いていた藍忘機は魏無羨の隣に降り立ち、避塵を鞘に納めた。
「お前たちも見ただろう?いいか?あの手の霊獣は眉と眉の間を一突きすると一発だ!よく覚えておけよ」
すっかり魏無羨の指導に慣れた姑蘇藍氏の弟子たちは素直に「ハイ!」と返事をする。そして魏無羨は続ける。
くるりと体を藍忘機の方へ向け、魏無羨は引き続き彼を褒めたたえ始めた。
「真上から霊獣に剣を突きさす時の姿はまさに天女そのものに見えたぞ。これが俺の道侶かと思うと鼻が高い。お前が美しすぎて俺の目はとうとう‥‥」
魏無羨を遮り、藍忘機が弟子に指示をする。
「隣町の宿で今夜は休みなさい。明日の昼にこの場所で集合。学んだ事は本日中に記録し亥の刻までに提出。私もあとで宿へ向かう。解散」
***
藍忘機の見本を学ぶ前に、先に「どう戦うべきか己で考え、動いてみなさい」という含光君の指示に従いがむしゃらに霊獣を相手に戦った。何度か死にかけたが、魏無羨と藍忘機がその都度助けてくれた為かすり傷で済んだ。
服は汚れ、足は走りすぎてパンパンだ。霊力は足らず、誰一人御剣する余力は無かった。
疲れた体を叱咤し、ぞろぞろと隣町の宿まで歩を進める。ポツリと藍景儀が呟いた。
「思追、お前気づいた?」
「うん」
「含光君、魏先輩に褒められるとああなるんだな」
ほかの弟子たちも次々と頷く。
藍景儀は一番に藍忘機の異変に気づいた。藍忘機は魏無羨に褒められ、一度目を閉じ顔をそむけた。普段の含光君を知らなければ、その様子は全く大したことではないように見える。しかし日ごろから含光君という人間がどのような人柄かをよく見知っている弟子たちには衝撃が走るほど驚く事だったのである。
魏無羨に褒められ、顔をそむけた含光君は両手をギュッと握って耳を赤くしていたのだ。
「含光君も人間だったんだな…………」
藍景儀の最後の呟きを聞き、周りの弟子たちは笑って頷いた。
fin.