ラストフィルム人が居ない夜を探り当てるのが上手い。忍び込むように現れては決まった席を、グラス二杯分程温めて去っていく。約束をした時でなければ大体そうだ。遊びのようなひと時を依織なりに愉しんでゆくのをいつだって自由にさせている。というか、実際縛りようもないからそうさせているだけ。カウンターを隔ててしまえば気侭なタイミングで席を立つ男の翻る裾を掴む事も、この制服姿で追い掛ける事も出来はしないのだ。
そうやって適度に構われ放置されの待遇にすっかり甘えた男は今夜は何の気まぐれか、先程からスマホをこちらに向けている。
「……何してんだ」
疑問形ではない、咎める色を含ませて言ったのは明らかにカメラ部分が匋平の半身を収める角度で見上げてきているから。
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