勇気の使徒は世界に抗う勇者ダイ一行、大魔王バーンを討伐。
勇者ダイが行方不明となったその後。
時間と現実は更に非情な方向へと進んでいく。
大戦終了1年後
・復興が始まるが魔王軍の侵略による爪痕が深く、各国において国家機能の不全状態が続く。魔王軍の残党や野盗に対する為に各地で自警団が結成される。
抵抗意思のない魔物への鎮圧行動もあったとされるが詳細は不明。
・残された黒の核晶を氷系呪文にて完全凍結後、解体。一部の学術利用を除いて深海へ投棄。
大戦終了2年後
・各国連合による勇者ダイ捜索隊の縮小。以後はアバンの使徒を含む有志数名による捜索を続行。
・魔王軍残党による襲撃の激化。なお、魔王軍残党による襲撃と報告されているものの中に、自警団による略奪が含まれているとみられている。
・黒の核晶の民生転用を目的とした研究開始。
大戦終了3年後
・一部自警団の軍閥化が進む。各国で内戦が勃発。
・ベンガーナ、テラン、リンガイアにて内戦の激化、国家機能の喪失状態となる。
黒の核晶を用いた兵器が一部で使用される。
・デルムリン島の魔王軍残党がパプニカ地方の軍閥により殲滅される。
大戦終了4年後
・裏切りの使徒ポップから全世界へ宣戦布告。
・裏切りの使徒の襲撃によりデルムリン島が消失。以後、裏切りの使徒による各地への襲撃が続く。
・各国の内戦の沈静化。
・正義の使徒にしてパプニカ王国の女王レオナの呼びかけにより世界会議開催。
裏切りの使徒への抗戦を宣言。
・女王レオナ、勇者ダイ帰還の神託を授かる。
・勇者ダイ、帰還。
・裏切りの使徒、自らの拠点が旧バーンパレスである旨を告げ、指定した日時に勇者との会見を求める。応えなければ世界全土への無差別攻撃を実施することを予告。
・勇者ダイ、裏切りの使徒を討伐。
・世界連合発足
「って感じで進めるから。オレはこれから世界に宣戦布告する。姫さん、後はよろしく」
レオナの私室の姿見に映るポップがさらりと言ってのけた。
鏡に文字だけではなく姿そのものを映し、遠くにいるものと言葉を交わす。ポップの扱う呪法の1つである。
「ポップ君、どういうこと」
今はまさに大戦終了の4年後である。ポップのいうシナリオに沿えば、宣戦布告後にデルムリン島が消失する。その島を占拠する彼女の国民もろともに。いや、彼女の国民ではなく、彼女がかつて治めていた土地に住んでいた民というのが正しいのか。
パプニカ王国の支配領域も今や王都とその近隣の僅かな町のみだ。
「知ってるだろ?俺の村もみんなも焼かれた。デルムリン島のみんなも焼かれた。メルルも……。魔王軍の残党?そんなもん最初から殆どいなかったじゃねえか」
為政者としての至らなさを自覚するレオナは何も答えられない。ポップも自分と年の変わらない彼女を責めるつもりはない。誰かを責めるぐらいなら、自分にできることをやるだけだ。
「魔王がいないと人は人同士で争うってんなら俺が魔王になってやらぁ」
以前と変わらない軽い口調だが、目の色は昏く沈んでいる。無理もない。彼が喪ったものを思えば。
「でも、待って。外敵に対して人が常にまとまるとは限らないのよ」
「そっか?かつて王女レオナは苦難のなかで荒む人心をまとめあげたって話を聞いたけど?」
ポップを力づくで止めたいが、鏡に触れることはできても彼に直接触れることはできない。レオナの手に伝わるのは硬質な感触だけ。
「わかってるの?あなたはこれから人を」
「魔王軍の連中を討伐するのと、人間を殺すのとどう違うってんだ?」
ポップは手袋に覆われた手をじっと見つめる。己の手はもう汚れているといわんばかりに。ポップの手が汚れているのならばレオナも同様だ。
「そもそも同じ人間でおれよりも弱いからって手加減したせいで、結局はあちこち取りこぼしてんだからざまぁねぇよな?弱っちい人間でも何をしでかすかわかんねぇってこと、おれはよっく知ってたのにな」
自身すらも嘲るような声音だった。レオナは何も言わず、鏡越しにポップの頬に触れた。
「ダイが戻ってくるよ。ダイが戻ってこれないのは、ダイこそがこの世界の均衡を崩す怖れがあるとみなされたからだ。ダイでないと滅ぼせないヤツが暴れたらあいつは戻ってくるってよ」
「そんな確証どこにも」
「マザードラゴンと交信できたときにそう言ってたよ。ま、ダイが戻ってこねぇならオレがそのまま魔王として世界を蹂躙するからよろしくな。せいぜい、みんなでまとまって抗ってくれや」
鏡の中のポップはまるでレオナの額を小突くように鏡を小突く。そんな仕草はかつてと変わらないというのに。
「ダイ君が戻ってきてもキミを討てるわけないでしょ!」
「いーや、とりあえずオレを止めに来るね、あいつは。そしたらまぁ、そんときはそんときのお楽しみだ」
「ダイ君の気持ちはどうなるの」
「……ダイと逢う方法がもう他に思いつかねぇ……」
鏡の中のポップが一歩後ずさる。柔和な笑みを浮かべながら、呪文を発動するような所作をとる。彼の胸元の印が淡く光る。心の赴く先がどうであれ、今の彼の心には勇気が満ちているのだろう。
「じゃぁなレオナ。あとは……たのまぁ」
どこかで聞いた言葉と共にポップの姿が閃光を発して消えていく。光が消えた後、姿見はいつもどおりレオナ自身を映しはじめた。