楽園で探す希望のかけら-勇気の使徒は世界に抗うシリーズ ポップの眼下にはかつてアバンが貼った結界に覆われた島があった。
そこはデルムリン島、かつてモンスターたちの楽園だった島。今は人間たちが占拠する島。
ポップはトベルーラを使いながらふわりと結界を通り抜け、ゆっくりとブラスの家に向かう。なんなく結界を通り抜けることができることにポップは笑いがこみあがってくる。
何が邪悪なるものを退く結界なのか。オレですら通り抜けることができるというのに。
かつてのブラスの家は予想どおり見る影もなくなっていた。壊され、踏みにじられ、単なる瓦礫の山と化している。その周りに幾人かの武装した兵士が倒れこみ眠っていた。ポップが島全体にかけたラリホーの影響だ。
そう、こいつらだって入り込めたんだ。島に侵入したコンキスタドールですら。邪悪なものが入り込めず、誰にも荒らされず、資源の豊富なこの島はさぞや魅力的だったのだろう。住んでいたモンスターたちも至って平和的な気性で、仕事がやりやすかったに違いない。
こんなにも秩序が乱れて、ならずものが自由に暴れまわったとしても、三界の均衡は保たれている状態とみなされて、ダイは地上に戻ってくることができない。ダイこそが均衡を崩す恐れがあるものとみなされて自由が奪われている。
均衡が保たれているとはどういうことか?邪悪とはどういうことか?侵略者が自由に振舞うことができ、世界を救った勇者に自由が与えられないとはどういうことか?
ポップは上空の結界を見上げて再び考える。しかし答えなど出るはずもない。ここで眠り込んでいるやつらだって無理やり連れてこられたのものいるかもしれないし、生きるために仕方のないものもいるかもしれない。
ポップは嘆息し、頭を一つふってから瓦礫をかき分けて何かを探しはじめる。何を探しているかは自分でもわかっていない。ただ、何か所縁のあるものを探し出したいと考えていた。
2時間ほど経ったころ、ポップは小さな金属プレートの破片を見つける。それはかつてブラスに見せてもらった揺りかごについていたプレートだ。プレートには文字が記されていて、Dとだけ読み取れる。ここからダイと名付けたのだと、かつてブラスが教えてくれた。
ダイのもう一つの名前はディーノということ。ダイとダイの父は竜の騎士で、一緒に魔王軍と戦ったこと。ダイの父親はダイを守って亡くなったこと。ポップがそれらをブラスに伝えたとき、ブラスは涙ぐんでいた。
ダイとバランのことについて、ポップがブラスに伝えた情報は全てではなかったが、それだけで良かったと今も思っている。
ポップは金属プレートの破片を手布でそっと包み込んでから腰にさげた道具袋にいれる。ふわりと再びトベルーラで飛び上がり、結界の境界あたりに留まる。周囲を見回す。この日に島を焼き払うと世界に宣言したが邪魔らしい邪魔はこないようだ。
予想通りだった。大魔王討伐後はいずれの国も混乱して自国のことで手が一杯な状況であるし、空を飛べるものはそもそも少ない。
「まぁ、そうだよな」
ポップはもう一度、島全体にラリホーをかけなおす。
「ギャーギャーうるせぇのは嫌だしな」
言い訳のような言葉を聞くものは誰もいない。
ポップは今から行われることを世界に見せるため、島の様子を各国の王城の鏡に映す呪法を発動させる。
「んじゃまぁ、やりますか」
両手を水平に延ばし、かつての魔王が得意としたというイオナズンを発動させて眼下の島に落とす。
爆炎が轟音と共に島を覆いつくす。生けるものも死せるものも全てを焼きつくす爆炎が。
自らを魔法力で覆うポップには爆炎の影響はない。ただ、黒煙と炎で何も見えない。ポップは腰から下げた道具袋をおさえ、プレートの欠片がそこにあることを確かめて小さく安堵する。
炎に包まれる島の様子を見た各国の首脳部は改めて混乱しているに違いない。鏡に像を映す呪法を解きながらポップはぼんやりと考える。混乱の行き着く先がなんであれ、世界はおそらくなるようになる。しかしどうなろうがもうそんなことはポップにとってはどうでもいいのだが。
師も亡くなり、ランカークスは地図から消え、テランも失われた。残るアバンの使徒たちや仲間は自分の身は自分で守れる連中だ。ポップがどうにかしたいのはあと1つだけ。ずっと何よりも探しているのに届かない1つだけ。
ポップは大きく息を吸って天に向かって叫ぶ。
「これでオレは世界の敵だ。地上だけじゃ足りねぇってんなら天界も魔界も焼き尽くしてやる!ダイを自由にしろ!ダイでねぇと俺は止められねぇぞ!!」
声が神々に届いたかはわからない。届かないのなら届くまであらゆることを試してやるだけだと決意をし、ポップは楽園をあとにした。